第21話 グシャ! 肉と骨が押しつぶされる嫌な音が、階下で響く

 グシャ! 肉と骨が押しつぶされる嫌な音が、階下で響く。

「ふーっ、愛、上手くいったみたいだ」

「ホント、間一髪ね」

 階段の手前で、大きく息を吐く達也と愛。そこに、やっと目が見えだしたローズには、何が起こったのか分からない。フガフガ言いながら、焦っている。さっきまで、ローズを拘束していた三人の姿は、同じフロアーにはおらず、さっきのイヤな音と合わせて壁枠のないところから落ちたようだと推測したのだ。

「ローズ先生、何か言いたいのか?」

 達也が、ローズの猿轡を解いた。 

「達也、あなた達が、あの男たちを突き落したノデスカ?」

「まさか、僕たちはなにもしてませんよ。まるで、幻を追っかけるように勝手に、その床から飛び降りました」

「ホントデスカ? なら、見に行ってミマショウ。その前に、この縄を解いてクダサイ」

「本当だ。縄を解かないと」

 達也は、キリキリと絞められた縄の結び目を解こうと引っ張るが、よけいに締まるようで、ローズは青色吐息を履いている。

「ダ、ダメ。そんなに絞めちゃイヤン。感ジチャウ(艶声)、それ、緊縛師譲りのS.EX特有の縛り型なの」

「えっ、SEX?」

「な、なんでもナイワ。縄を切って」

「そんな、縄を切る道具なんて、持ってきてないよ」

「もう、私にかしてごらん」

 二人の会話を聞いていた愛は、業を煮やして、スカートの裏側から、小型のジャックナイフを取り出し、縄を切断する。

「お前、なんでそんな物騒な物を持ち歩いているんだ?」

「うるさいわね。護身用よ。それより、ローズ先生に、達也の上着を掛けてあげなさいよ。その恰好で動くと、さらに色々なものが見えて、あんたの行動に支障が出るから」

 そう、ローズの服はボロボロで、上半身は肩ひもが千切れたブラジャーに、ボロ布を纏っているだけ。スカートも、スリットの入ったチャイナ服の非ではなく色々見えてしまっている。そのために、達也は前かがみの状態を余儀なくされているのだ。

「おおっ、ごめん気が付かなかった」

 達也は、自分の上着を脱いで、ローズに掛けた。そして、その時、あらわになっている右肩には、在ったはずのSEXの入れ墨が消えているのに気が付いたのだ。

「?」

 愛はどさくさに紛れて、達也が色々な所を触らないか監視していた。そして、達也の一瞬の戸惑いを、達也専用の鋭敏なセンサーが察知して、達也の行動を凝視する。

 そして、達也と同じように、目ざとく、ローズの肩からSEXの入れ墨が消えていることに気が付いたのだ。


「達也、とにかく、早く下に降りましょう。それに、警察にも連絡する必要があるでしょ」

「あっ、うん」

 達也は、愛に声を掛けられたおかげで、思わず、声に出そうとした言葉を飲み込んだ。

 そして、なにごとも無かった振りをして携帯を取り出し、一一〇番を掛けようとしたが、そこで、ローズが達也に声を掛ける。若干焦りながら。

「電話は、私がカケマス。警察に知り合いがイマスカラ」

 そう言うと、ローズは携帯を取り出し電話を掛け、相手に相手に向かって、今までの状況を話している。そして、電話を切った後、達也と愛に向かって、言葉を発した。

「後、三〇分ぐらいしたら、警察が来るソウデス。それまでは、現場を触らないようにとのコトデス」

「三〇分? 掛かりすぎだろ。普通、通報が在ったら、一〇分以内に来ないか?」

「本庁から来るノデス。仕方アリマセン」

「愛、まずいな。日が暮れてしまうぞ。そうなるとこいつも役に立たなくなる」

 手に持ったタブレットをかかげ、愛にいう達也。

「そうね。私のフォトンフラッシュも吸収した光子を、さっきほとんど放出したから、あまり役に立ちそうにないしね」


 そう言いながら、愛はさっきのローズの行動を思い出した。(なんで、取り上げられたはずの携帯を持っていたの。そんなのおかしいでしょ)


 困り顔の達也と愛をしり目に、急いで階段を下りて行くローズ。

 なぜか、落ちた三人の様子を確認したいみたいだ。

「ローズ先生、なにをそんなに急いでるんですか?」

「だって、さっきの三人が、まだ動けたら怖いじゃナイデスカ」

「それもそうだわ。あの三人、かなりの手練れだったんだから。方を付けるなら日没までにつけないとこっちが不利になるわ」

「合気道有段者の愛が言うなら油断できないぞ!」

 ローズと愛の発言に達也が同意して、一斉に階段を駆け下りる三人。

 そして、さっきの三人が落ちた場所に駆け付けた。

 そこには、崩れ落ちたビルの瓦礫が散乱する中、頭から脳漿を撒き散らしている二人の死骸と、全身から血を流し、手足が在らぬ方向に曲がっている一人のスプラッター現場が目の前に広がっている。

(なんだよ。このシリアス展開)

 思わず吐き気をもよおし、壮大にえずいた達也とは裏腹に、愛とローズは、まだ息のある一人に向かって歩き出していた。

「まだ、一人、意識がアルヨウデス」

「ホント、あの人、さっき、死んでいる二人に指示を出していた奴じゃない?」

「そうです。この事件の首謀者らしき人だとワタシも思いマス」

「ちょうどいいわ。何者かと私たちを狙ったわけを聞き出しましょう」

「でも、さっき現場を触らないようにと警察が言ってマシタ」

「触らなければいいんじゃない? 相手の出方次第だと思うけど」

 そう言うと、愛は、血を流している人の傍にしゃがみ込み、声を掛けた。

「おじさん、あんたたち何者なの?どうして、私たちを狙ったの?」

「知るか!」

 息も絶え絶えに、血を吐きながら捨て台詞を吐く。きっと、内臓もかなり損傷しているのだろう。

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