第9話 朝の密談

 翌朝。

 皇城内に当てがわれた部屋の一室で目が醒める。時間は5時ほどだろうか。普段の習慣からか起きるのが早かった。

「にしても似ているよな…」

 【魔帝】【勇者】【英雄】を始めとする特殊超級職。

 そして【魔帝】配下の《将》たち。

 【天職マスター・ジョブ】と呼ばれるシステムのみは始めて知ったが【救世主】がある俺にはあまり意味がないようにも見える。世界で1人にしか就けない超級職・特殊超級職を異世界に持ち帰らせないためか異世界からの来訪者に天武の才を与えるためかその目的はよく分からない。


 ただかつて俺が知ってる世界の数々に酷似している。


 偶然なのかあの《武魔鋼将》もその起源を知っている。

 こう幾ら考えても考えても答えが出ない疑問ばかりが頭に浮かぶ。

「はあ。取り敢えずは職構成も考えないとな」

 現状この国の皇都で就ける職の一覧を見ている。

 一般所な【剣士】【騎士】などは既に取得している。


 がどうもこの世界でももう一度取得できるみたいである。かつての世界では不可能だったのだがどうもこの世界ではその限りでは無いらしい。

「俺の天職である【賢者】を活かすなら魔法士型ビルドだな」

 前衛型魔法士もなくはないが何人かの天職が魔法剣士や魔法戦士であったので確実に一歩落ちるので最初から純後衛で良いだろう。

「自衛用の【騎士】で【魔法士】【魔術士】【呪術士】【司祭】【魔銃士】が下級。中級は【魔導士】【中位司祭】そして【賢者】か」

 下級職である【騎士】はわりと武器の適応範囲が広い。剣・槍・弓・盾そして杖。…何故杖が適応するのか知らない。残りはMP上昇効率が良くわりと何とでもシナジーするものを選んだ。ちなみにこのリストはエリスから受け取ったものだ。


 そう考えながら部屋に置かれていた服に着替える。まるで絹でできたかのように滑らかな黒いシャツとズボンだったが丁寧に編まれているのでかなり丈夫そうである。そして無限収納から目立たないくらいのネックレスを首から下げてシャツの中に隠す。もしもの時に必要になるかもしれないから。

「にしても暇だ」

 普段ならこの時間には毎朝のトレーニングをしているか勉強なのだが今の状況下ではどちらも出来ない。


 そう考えているとノックがされる。

「どうぞ」

 ガチャリと音がするとそのまま4人が入ってくる。

「…自由すぎねお前ら?」

 入ってきた連中を一瞥するとそう呟く。

「会ったその日に姫さま口説いた人のセリフとは思えないわ」

「別に口説いてたわけでもないのだが」

 戦闘もしたわけだし。というか今思うけど警備がザル過ぎないか此処。

「じゃあナニ話してたんだ?」

「別に良いだろなんでも」

 紅葉と勇の口撃をのろりくらりと躱す。というか普通に考えて話せる内容ではない。此処に居る全員が信用できるとは言えども味方とは言いにくいのが俺の現状なのだから。

「少し夜風に当たりに行ったらエリスシアさまが居て雑談しただけだ」

「本当?」

「ああ」

 俯きながらその上でなぜか上擦った声で湊が聞いてくる。

「それで彼女とはどんな事を?」

「それは話せません。誰かに話して良い内容でありませんから」

「それは先生でもですか?」

「ええそうです。希空先生」

 まだ話すわけにはいかない。俺の特殊超級職【救世主】は確実なまでに【魔帝】戦やそれ以上の相手にする際には刺さる切り札となる。敵を騙すにはまずは味方からと言うわけではないがソレを中心に作戦を組み込むのは良いことではない。

「分かりました。…ですがいつかは話してくださいね」

「分かりました」

 まあ話すのは少なくとも俺が使う場面か【魔帝】戦後。この育成期間が終わるまではそのままのはず。

 

 まるで話が一段落するのを待っていたかのように再びノックがされる。

「空いてるぞ?」

『ええ分かってます』

 ガチャリとお供も連れずに姫さまが入ってくる。その手には紙束がある以上は昨晩彼女に話していたアレだろう。

「おはようございます皆さん」

 想定外のメンバーが集まっているのにも関わらず彼女は眉一つ動かさずそう挨拶した。

「おはよう、エリスシアさま。あおれとわざわざすまんな」

「いえ、先生も似たようなモノを考えていたらしく『参考になった』と言われていました」

 それがこちらです。と紙束を渡してきたのでざっと流し読みをする。



 ふむ。効率面は良いな。ただ思ってたよりも時間が掛かりそうだな。まああくまで試作機だからそれでも良いのだろうが最悪の場面でも運用を考えると少し厳しいものがあるだろう。

「予想以上だな。…ひょっとして並列で着手しているのか?」

「いえ息抜きには丁度良いと。メインは解析だそうですよ」

「なら良かった」

 無限収納からノートを一冊取り出し渡す。

「地球側から見た限りの式を写したものだ。必要かは分からないが一応」

「分かりました。渡しときます」

「…新一そんなものいつ書いたんだ?」

「昨日此処に案内されてからだが」

 正確にはちょっとしたズルも行って居るがソレも今はバレる訳には行かない。まあ今回はちょっとした言い訳も可能だろう。

「なんかこっちに来て地味に身体能力全般が上昇してるぞ?基礎体力とか筆記速度とか」

 実際には俺の場合は《武魔鋼将》撃破によるレベルアップだろうがそれでも今は誤魔化せて居るだろうしレベルアップの全能感と言う体にしておくべきだ。

「【天職マスタージョブ】にも寄りますが【賢者】の【天職】の新一さまならそう言う事があっても可笑しくはないでしょう」

「と言うと同じ【天職】が魔法系統超級職なら?」

「多少は違いがあるでしょうが…【王】系統ですと威力の方に伸び代が高いですし適応できる範囲にも限りがありますから」

「適応力という点なら新一は誰よりも高いからか。それで昨日ナニ話してたの?」

「…別に変なことは…。それこそ先ほどお渡した資料関係の事とか。日本で発達している技術のこととか」

「俺のは個人的研究だしな。魔力が地球にも存在してる…なんてお前らは知ってても他じゃあ知らないはずだからな」

 まあそれ以外にも話はしたが普通に考えては話せないものが多い。

「もしも俺が研究していたコレが表に漏れようものなら如何なるかは分かるだろ?」

「もし…完成したら?」

 恐る恐ると言った表情で紅葉が聞いてきた。当然か。彼女の立場を考えればなんら不思議でもない。

「紅葉と先生専用のパワードスーツだな」

「僕は?」

「勇の場合には必要無いだろ。素のスペックの方が高いし」

 耐久型ならともかく敏捷性で掻き回すタイプの脳筋には必要無いものだ。そして俺にも必要無い。

「新一さんは【魔帝】討伐後も技術者として残って欲しいですわ」

「俺も出来ればそうしたいな。こっちなら自由に研究出来そうだし」

 向こうは制約がそれなりに大きいしそこまで自由にできないからな。それとわりと不味いことがバレそうだし。そう思っての発言だが何故か女性陣3人からは侮蔑の姫さまは頬を赤らめ勇からは

「はあ。これだから鈍感は…」

 との言葉を貰い気不味い雰囲気となった。



 その後、ぎこちないまま幾分か雑談をしていると朝食会場に呼ばれたのでそのまま向かった。

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