第2話 勇者召喚

 転移した先は煌びやかな教会。目の前には黄金の鐘があり窓の多くはステンドグラスである。

 そして俺たちの中央には光をほぼ失っている強大な水晶が鎮座している。…この水晶どうやって運んだのだろうか?いやそれとも…。

「此処は?」

「さあな。ありがちな展開としては…」

 いつの間にか隣にいた湊に肩を竦めながらそう返す。その視線は今すぐにでも取材したいという目である。こいつの職業病早く治さないとな。

「異世界召喚。それも勇者系統だろうな」

「だよね…」

 俺らを囲むように居る全身鎧の騎士や紫紺のローブを着込んだ魔導士が杖を持って控えており鐘の前に純白のドレスに身を包んだ金髪碧眼の少女などと現代日本ではほぼお目にかかれないはずだからな。

「ようこそ起こし頂きましたエトランゼの皆様」

 少女がドレスを掴み優雅に礼をすると男女問わず幾人のも生徒が見惚れている。素面で見ているのは先生と紅葉に勇そして湊に俺か。

「エトランゼとは何でしょうか?」

「フランス語で異邦人とか外国人とかそういう感じの意味だな」

 シレッと側にいた紅葉にそう返答する。チラッと見た限りでは紅葉が勇の腕を絡めて自身の胸に当てている。それを見たのか少女は顔を赤らめながらも続ける。…ウブだな〜というか何してんだろこの2人。

「現在、私たちが住む世界アストガリアでは【魔帝】と呼ばれる存在により侵略を受けています」

「【魔帝】ですか。【魔王】でなく?」

 勇が紅葉に取られていない方の手を上げて質問する。それに彼女はこう答えた。

「ええ。その諸関係は後に詳しく説明致しますが【魔王】は協力者の場合もあれば敵対者でもある場合もあります」

 創造の【魔王】だったりするのだろうか。それとも神殺しかな?

「対して【魔帝】とは《魔族》を統べる帝王であり【邪神】の眷族です」

 これも今度説明すると言われた。まあ当然か。

「それを察知した創造神が人類を救う為に【勇者】召喚儀を執り行い」

「僕らが召喚されたわけですね」

 主人公クラスの才能持ちが多い学校だったしその中でも飛び抜けて尖っていた我がクラスは神も選びたくなるものだろう。

「…湊」

「嘘はないね。ただ一つも」

「えっ…」

 小声で問い掛けると即座に何かを理解した彼女は絶えず視界をフルに利用していながらも断言した。紅葉も驚いているが俺も同意見である。ただ嘘を真実と信じ込んでいる場合は違うけど。彼女の場合は例外だろう。


 それでも詰める部分は詰めるが。

「俺らの元の世界へと帰る手段は?」

 挙手をしそう問う。ただこれも想定内なのか彼女は即座に返答してきた。

「申し訳御座いませんが現在はありません」

 ペコリと頭を下げる。…帰還手段が無いのは困るがこう言う事がきちんと出来ているのは良いよな。ただその返答に文句があるのか数人が立ち上がり口撃をしようとしたがそれもまた彼女に遮られる。

「皆さまの中央にある水晶…神魔晶石に蓄えられた魔力が回復し創造神が行使した儀式を我が国の宮廷魔導師団筆頭【大賢者】が解析し送還用の儀式を制作しております」

 我が国ね。予想はしてたがやはりやんごとなきご身分なのだろうか。そこで気付いたのかハッとした表情を一瞬だけ浮かべこう告げた。

「申し遅れました。私はワイズガルド魔導皇国が第二皇女エリスシア・メイガス・セディア・ワイズガルドです。また皆さまを囲むように居るのは我が国の中央騎士団及び宮廷魔導師団の精鋭です」

 …過剰戦略とでも言うべきか【勇者】の暴走を恐れてかは分からないがとんでもない量の護衛である。

「これは丁寧に。私は世界地球が日本国の原初の七将が一つ【緋色】の緋羽紅葉です」

「同じく原初の七将【蒼色】の蒼倉希空です」

 原初の七将とは日本を天皇家を支えた一族であり天皇家同様に千五百年以上血統が一度足りとも失われず続いている始祖を指し七色の色と役割を与えられている。【緋色】は対外への戦闘…つまりは他国から戦争を仕掛けられた際に日本の外での殺戮を担当する。一方【蒼色】は研究。様々な事柄を研究するが故に天皇家を含める八家の結び付きや様々な行事の際には幅広く支援が行う。

 


 ただこの名乗り意味が通じる人間の方が確実に少ない。何せ彼らはあくまで将の末裔でしかない。そしてその真の意味を知るのはほんの僅かな人でありそれを知る連中が彼らに抱くのは恐怖。


 この2人が矢面に立つのは良いのか?ついそう考えずには居られなかった。

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