第9話 結局、弁当が その3

↓前話の続きである。


「そんな茶色っぽいところが好きなのよ」

「それ、皮肉で言ってるよね?」

「そんな訳ないじゃない」


 そう言われても、かけるが信じられる訳もない。


「(今日、不機嫌だけどどうしたんだろう?わかりやすい皮肉まで口にして、優しいメイさんらしくないなぁ。僕の作る弁当が茶色いのはいつものことだしなぁ……。もしかして、毎度僕が作るお弁当気に入ってなかったのかなぁ」


「(まったく、翔さんったら、私の褒め言葉を皮肉呼ばわりするなんてひどいわね。それだと、いつまでも『可愛いもの』の話ができないじゃない。もうこうなったら、気付くまで話を振ってみるしかないわね)」


「私の弁当って、いつも変わり映えしないし、可愛さに欠けるのよね……」


 それが逆効果であることに気付ける彼女ではなかった。

 そして、それを察してやれる翔でもなかった。


「(えぇっ!?これからさらに皮肉を続けるつもりなの!?それともコレが俗に言う『煽り』ってやつか!?)」


「そんなことないと思うけど……」


 とりあえずの当たり障りのないセリフを口にして、翔は思考のための時間を作った。


「(お、落ち着け、僕。メイさんはそんなことをする人じゃない。きっと、アレだ。言葉の中に何かメッセージがあるんだ。何か……そ、そうか。彼女はお弁当の感想を聞きたがっていたはず!つまり、自分の弁当を可愛いって言って欲しいんだな!!)」


 言葉通り、一周回ってメイのしたい『可愛いもの』の話になったものの——


「僕の弁当よりもメイさんのお弁当の方が可愛いと思うよ」

「そんなことないわ!翔さんのお弁当の方が可愛いわよ!」


 ——当然、それは彼女の望む『可愛いもの』の話ではない。


「いいや、メイさんの方が可愛いよ!」

「いいえ、翔さんの方が可愛いわよ!」

「いや、メイさんだね!」

「いえ、翔さんよ!」

「いや、だからメイさんの方がカラフルで可愛いでしょ!」

「いえ、だから翔さんの手作り感のある弁当の方が可愛いわよ!」

「なんでわからないんだよっ!」

「こっちのセリフよっ。翔さんのバカ!!」

「メイさんの方が分からず屋だッ!!」


 こうして前々話の冒頭に戻る訳である。

 

 途中、告白めいたセリフを口にしていたのだが、翔とメイが気付くことはないのである。

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