第13話 最初に歌う人

「いまの、いまのは」

 彼女。まだ喉が少しびくびくしている。

「今のは、何」

「わかったのか。おまえも。俺の感情が」

「なんなの。今の。こわくてかなしくておそろしい。こんなの知らない。知らないわ、わたし。こわい」

 彼女が震え出す。

「やっぱりマネージャを」

「だめっ」

 叫び声。

「先生はだめ。他人だから。弱味は見せられない」

 これが、ひとりで生きてきた人間の、処世術なのか。他者に弱味を握らせないことが。

「さわって、いいか。おまえに」

「こわい」

「一応、いま、俺は、おまえをかわいそうだと思っている」

「かわいそう?」

「大事にしなければならない相手だと思っている。さわれば、伝わると思う」

「わかった。わたしから、さわる」

 手を差し出して、待った。

 彼女の手。震えながら、ゆっくり、自分の手を、握った。

「あったかい」

 なんとか、伝わったらしい。

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