毒殺しは、幸せの始まり

詩一

第一話 正直なバタフライ

 人を殺す前の感覚が、こんなにも澄んでいるなんて思いもよらなかった。

 もっとドキドキと心臓が高鳴り、もっとイライラと指先は動き、もっとグチャグチャと思考は定まらないものだとばかり思っていた。実際のところ、そんな緊張や惑いや混乱などなく、とても落ち着いていた。澄んだ池の前に座して竿を構えているような感覚だ。餌をスイッと投げ込んでやればいい。そうすれば上手くいく。いつものように。その『いつも』がないはずなのに、あったようにも思うのだ。

 どれだけ非現実的なことであるにしろ、すべては現実の延長線上にしかないのだと知る。


 懐から取り出したバタフライナイフを何気ない動作で組み立てる。

 それを彼女はタバコでも吸うのかしらと言うような目で見ている。銀色が窓から入る陽光を反射して天井から彼女の顔をなぞったとき、初めて異質な光景であることを認識したのだろう。彼女の顔が強張った。


 視線が交わったものの、特段心境に変化はなかった。僕はニヤリともせず、ただ正直しょうじきに刃物を突き立てた。

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