第9話 年下パイセンの舌打ち

 これは、異動になった書店で、働いていた頃のお話。


 この時、私は、夜のシフトに入っていた。その日一緒に働いたのは30代の女性(どうみても20代に見えたけど)。慣れない夜のシフトに、私は、悪戦苦闘していた。まだ、わからないことばかりで、50代の私から見たらずいぶん若い先輩に、いろいろ聞きながら、仕事をしていた

 

 そのパイセンはとても可愛い顔をしているのだが、ちょっと意地悪だった。私がおろおろするたびに「何やってるんですか」といら立ちをつのらせる。


 それでも、何とか、業務をすませて、店の床にモップをかけた後、私はゴミを集めて、そのままにしていた。ちりとりでとらなければいけないのだが、うっかり、忘れていたのだ。


 それを見て、パイセンは「ちっ」と舌打ちをして「どうしてできないかなあ」とイラっとして言った。


 「舌打ちかよ」って思ったが、「すいません」と謝って、ゴミを片した。


 それから、いつも、何か失敗するたびに、パイセンの「ちっ」は続いた。


 やがて、私は朝のシフトに変わったので、このパイセンと夜仕事をすることはなくなった。


 ある朝、レジに行くと、何やら書かれたメモがある。パイセンが書いたものだ。そこには私のミスがずらずらっと書かれていて「このミスをしたのは誰ですか」と書いてある。明らかに私のミスだとわかった上で、パイセンはこのメモを書いている。

 

 すべてが私のミスではなかったので、私は、その紙に、「これは○○のミスです」「これは私のミスではありません」と書かれたミスの横に、書いた。


 午後から出てきたパイセンは、意地悪なメモに私が真面目に答えているのを見て、さすがにばつが悪かったのだろう。その紙を黙ってとって捨てていた。


 パイセンの意地悪に私はまけなかった。


 頑張れ私。ミスは全部私のせいにされたらかなわない。


 それから、こころなしか、パイセンの意地悪は減った気がする。


 今思えば、20才以上も年上の私と仕事をするのは、パイセンもやりにくかっただろうと思う。あまりの仕事のできなさについ「ちっ」と舌打ちも出たのだろう。


 今なら、舌打ちも意地悪も気にせず、自分のペースでやれる気がする。でもあの頃は、そういうのが結構こたえた。


 今度仕事を始めて、もし、同じようなパイセンと仕事をすることになったら、気にしないで仕事に臨みたいと思う。


 読んでいただきありがとうございました。

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