パートあるある 私の失敗談

有間 洋

第1話 最初からの~「厳しくするから」

「厳しくするから」

それが、Aさんの初対面の挨拶だった。求人欄に書いてあった「わからないことはスタッフが親切丁寧に教えます」の文章が頭に浮かぶ。「え、この人喧嘩売ってんの」と内心思ったが「よろしくお願いします」と一応頭を下げた。店長でもない言わば平のスタッフに、いきなりものすごい上から目線の挨拶をもらって、正直ぶったまげた。「最初からこれかよ、どこが親切丁寧だよ。求人票の嘘つき!」と心の声は叫びを上げた。

 「けど、もしかしたら、半分冗談で言ったのかもしれない。いわゆる受けねらいでってこともあるよね」と思い、とりあえず、何も言わず彼女の下で働くこととなった。

 だが、残念ながら、それは受け狙いでも何でもなく、文字通り、厳しい指導が私を待っていた。まず、レジ。私が慣れないながら、もたもたと打っていると「遅い、遅い、もっと早く」と急かす。急かすからミスがでる。ミスが出ると怒る。怒るから私は委縮してしまって、またミスをする。また怒る。勤め始めてから何日も経たない私に、自分と同じ速さを求める上に、極めつけは、他のスタッフが言わない余計なことを私に求めてくる。もはや、私の指導は彼女の独壇場。強烈なAさんの性格に他のスタッフも見て見ぬふりだ。だから、ますます私はAさんの目の敵となり、Aさんと離れて仕事をしている時も、見張られていて、すぐに「遅い」とか「そうじゃない」とかいろいろなことを言ってくる。

 「私のこと見張ってる暇があったら、自分の仕事しろよと」思うけれど、Aさんの私への¨指導¨は日に日に激しくなり、ダメ出しも次から次へと増え、挙句の果てはお客様の前で「お金の渡し方が違う。そうじゃなくてこう」と、ダメ出しする始末。お客様は苦笑いして「頑張ってね」と励まされた。「お客様の前ではNGじゃね」と思うものの、反論できず、ただただ、Aさんのうっとおしい、¨指導¨に泣きそうになりながら、従うしかなかった。

 男性の店長はちゃんといるのだが、実態はそのAさんが職場のボスみたいな感じで、Aさんの言うことには誰も逆らわない。逆らえないのか。どうにかしてくれ。

 ある日、初めてレジ開けという仕事をやった時、やる前からAさんは「3回教わったよね」とプレッシャーをかけてくる。確かに3回教えてもらったけど、まだ、他のスタッフのようにできるわけがない。相変わらず喧嘩を売ってるに等しい。その日の私は体調も悪く、また、度重なるAさんの¨指導¨に、もう限界で、「売られた喧嘩は買ったろうやないかい」といつもと違うテンションでレジ開けをやった。案の定、時間がかかっていたら、後ろでその様子を見張っていたAさんが「そんなんじゃ開店に間に合わないよ。何チンタラやってんの」と怒鳴りつけてきて、ついに堪忍袋の緒が切れた私は「そんなにダメなら、店長に言って、私のこと首にしてもらってくださいよ」と怒鳴り返した。Aさんは相当同様して「じゃあ、もう知らない」と言って他の場所へ行ったが「ああ、ついに切れてしまった。言わなきゃいいことを言ってしまった」と思ったけど、後の祭り。結局、その後私はお店を異動になって、Aさんと仕事をすることはなかった。

 今だったら、そういう人だと思って、適当に流しながら、切れることなく、やれたのに、あの頃は自分の感情のコントロールが下手で、切れてしまったのはとても残念である。せっかく念願の書店勤めがかなったのに、その職場を手放してしまったのはすごく悔やまれる。

 もし、今後就職し、Aさんのような人とまた出会ってしまったら(出会いたくないが)その人のいうことは気にしないようにしようと思う。怒られても、まともに受けずに、はいはいと流すようにしたいと思う。

 結局、異動先でも、いろいろあって、私はこの書店を辞めることになってしまった。そこでも数々の失敗談があるのだが、それはまたの機会に語りたいと思う。

 最後まで読んでくださってありがとうございました。

 

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