3.進路希望と百五十円

「来週あたりに進路希望調査するからなんとなく考えといていよ。」生徒達がざわつく。真っ直ぐ担任を見つめる少女。めんどくせえと文句を言う生徒。清香はただ前を見る。

 挨拶をして教室を出る。サッカー部が一斉にエナメルバックを肩にさげ部室に駆ける。「清香帰ろう。」瑠美の声かけではっとする。「うん。」とカバンを肩に掛ける。

 門を出る。同じ制服を着た学生が続々と道をなしていく。

「もう進路なんて考えたくないよ。まだ三年生になったばかりなのにさ。せっかく風が気持ちくてもテンション下がるようなこと言わないで欲しいよね。」瑠美は桃色の唇を尖らしている。

「ほんとそうだね。」

「まあ、清香は頭が良いから心配いらないんだろうけどさ。せっかくこんなに仲良くなれたのに離れたくないよ。」

「そんなことないよ。第一何になりたいかなんてまだ決まってないしね。」

 そんな会話をしながら坂の麓で二人は分かれた。清香は一度空を見上げる。鳥が空を横切っていた。

 近所のコンビニに入って、ドリンクコーナーへ進む。瑠美が飲んでいたのと同じメーカーのイチゴミルクがコンビニ限定サイズで発売されていた。その隣にあるジャスミンティーを手に取り、レジに進む。カウンターに商品を置くと男の店員がバーコードを読み取った。「百五十円です。」と言いながら顔を上げる。清香が財布を広げてお金を払う間もずっと顔を上げていた。小銭を渡されるとワンテンポ遅れてから精算をした。レジを離れると爪先から頭のてっぺんまで清香を見た。まるで品定めをするかのようなその視線は清香が店を出るまで続いていた。

 家に帰ると階段を上り二階にある自室に向かった。ドアを開けふぅと静かに息を吐いた。

 制服を脱ぎ黒いハンガーに掛けクローゼットにしまった。ベットの上に畳んである部屋着を着る。修学旅行の時に瑠美とお揃いで着ていたスウェットがちょうどいい。ビニール袋からジャスミンティーを取り出し机の椅子を引く。電気をつけてカバンから筆箱を取り出した。参考書を広げ問題を解く。

 学校から帰ると授業の予習復習をするのが彼女の習慣だ。最近は大学入試に向けての勉強も欠かさずに行う。センター試験の過去問を広げ取り掛かろうとすると、先程の瑠美との会話が頭をよぎる。頭を振り払い問題に取り組む。三角関数の問題を解くのに夢中になりその会話は頭から抜け落ちた。

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