第28話

 目的地に到着するや否や、俺と霧島先輩は家電量販店に突入する。万引き防止ゲートをあらかじめ破壊しておく。

 瀬奈から渡されたメモ用紙には今後のサバイバル生活で役に立ちそうなものがリストアップされていた。

 余力があれば一緒に拾って来て欲しいとのことだ。


 ……なるほど。なかなか面白そうなものが書かれていた。

 瀬奈のメモからインスピレーションを受けた俺はチーム強化にも思考を巡らせてみる。

 これから俺たちは感染者を退けながら日本各地を旅していくわけだが、鈍器だけで奴らを退けていくのは限界があるだろう。


 最悪の場合、キャンピングカーを捨てなければいけないかもしれない。

 なにせこれだけの緊急事態だ。すぐに渋滞が起きるだろう。道路整備などの行政サービスが停止するのも時間の問題。障害物で前に進めないことも想定しておく必要がある。


 下車することになれば俺たちは四人は徒歩を強いられるわけだが、うち半分――瀬奈と村雨先生が戦力にならないようでは話にならない。

 チームで行動する以上、己に降りかかった火の粉は振り払ってもらいたい。


 とはいえ、だ。

 霧島先輩はともかく瀬奈は普通の女の子だったわけだ。

 ハッカーという一面こそ持ち合わせていたが、感染者を撃退できるほどのチカラはないだろう。もちろん物理的にという意味でな。


 となれば瀬奈と村雨先生には女性でも扱える武器が必要になってくる。

 その筆頭が銃だろう。これが使えないようでは緊急事態に対応できない。

 バイオハザード初日(瀬奈がSNSから収集した情報から断定)ということもあり、警察はまだ機能しているはず。銃の入手は少し先の方がいい。感染者と間違って発砲されてはたまらない。


 よって俺は銃を入手した当日から瀬奈たちにある程度使いこなしてもらう――もしくは銃の扱いを劇的に早くするための機器をこの家電量販店で入手する腹づもりでいる。

 これは面白くなってきそうだ。


 ☆


 家電量販店内で集団感染は発生しておらず、感染者がまばらに散っている程度だった。店員も何が起こったのか分からずパニックになっており、店内の家電等が盗まれていることに意識が回っていまい様子。不幸中の幸いというやつだろう。


 奴らが大量発生していないということもあり瀬奈のおつかいは超イージーモードだった。

 ゆっくりと迫ってくる感染者は慌てず、騒がず、焦らず対応すれば問題ない。

 言わば奴らを例えるなら蟻だ。大群で迫られればどんな巨大な動物でも侵攻を止められないが、反対に数匹、数十匹程度なら脅威になりえない。


 まして俺が品定めをしている間は霧島先輩が警護してくれているのだ。

 鷹のような眼を持つ先輩の警戒網を奴らがかいくぐれるわけもなく。

 こうして俺たちは今日一番のお目当であるFPVドローンを筆頭に、カートいっぱいの電子機器を手に入れた。


 ☆


 その後、俺たちは衣料品販売店に場所を移し、衣服の調達に。

 村雨先生は下着と白衣さえあれば、服には拘らないとのこと。キャンピングカーで待機してもらっている。俺と霧島先輩が瀬奈を警護しながら衣服をカートに入れていく。


 お金も払わずに欲しいものを欲しいだけ店外に持ち出す快感を覚えていたのは瀬奈だ。

「ふふ。石油王になった気分だわ」

 棒付きキャンディを口の中で転がしながらご機嫌に言う。


「キャンピングカーは広いといえど四人分の衣服を収納する。できるだけ数は絞ってくれ」

「無粋だぞ秋葉。女の買いものには黙って付き合え」


 なんとあの霧島先輩も乗り気ときた。

 やはり女は噂と買いものには目がない生き物ということか。

 先輩がオシャレに興味があったのは意外だったが。


「これなんか私に似合いそうじゃないかしら。ねえ秋葉くん」

 瀬奈に手招きされて呼ばれたのは下着コーナー。

 薔薇の刺繍が入った黒のブラジャーを見せつけてくる。


 さすがの俺も女の下着に関して意見を言えるほど知識があるわけじゃない。

 ここは無難に答えておくべきだろう。

「似合うんじゃないか」


 顔色変えずに言い放った俺になぜか瀬奈は不満げな表情を浮かべていた。

 納得がいかない。そう顔に書いていた。

 おい。なんでだよ。ちゃんと似合うと賛成してやっただろ。喜ばれこそすれ、怒られる筋合いはないぞ。


「今夜寝るとき覚えてなさいよ……」


 踵を返す際に瀬奈が何かを呟いた気がするが……まあいいか。

 わざわざ聞き返すことでもないだろう。


「秋葉。これはどうだ?」

 今度は霧島先輩だ。

 手にはセクシーなランジェリーを持っている。


 ……まったくこの人は。本当に自分のセックスアピールを認識していない。

 それを男の俺に見せつけることがどういうことかわかっていないんだろうか。


「ちょっ、まさかそんな格好で寝るつもりじゃないでしょうね?」

「?瀬奈くんこそ下着の感想を聞いていたじゃないか。お互い様だろう」


 やいのやいのと言い争う二人にため息がこぼれる俺。

 とりあえず声を大にして言いたのは、バイオハザードだということを忘れてませんよね、お二人さん?

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