虐げられてきたぼっち、崩壊した世界《バイオハザード》で覚醒する
急川回レ
第1話
「ねえ見てこの雑誌! また
「ちょっと、女の子が使う用って……はしたないよ。でも本当にすごいよね。勉強も運動もできてイケメン。将来性抜群だし、あーあ、告白されないっかなー」
「あんたなんかお呼びじゃないっての。あっ、そういえば霧島先輩、また告白断ったらしいよ? もしかして傑先輩の告白待ちだったりして? もしそうならお似合いの美男美女カップルじゃない?」
「わかるー」
女子トークで盛り上がる教室をよそに、机に顔を突っ伏して寝たフリをしているのは俺、
彼女たちが話題に上げている秋葉
ちなみに霧島先輩は日本一に輝いたことのある元剣道部主将。立てば
文武両道、容姿端麗の先輩は市内はおろか、全国でも名が知れ渡っているほど。
まさに高嶺の花。雲の上の存在である。
そんな先輩と兄がお似合いか……。笑っちゃうね、ほんと。
秋葉傑はたしかに完璧な美少年だ。特に運動神経と記憶力。
何をやらせてすぐに県内トップクラスに達してしまう。
さらに一度見聞きしたものはすぐに頭に入り、数年経っても忘れないという。
……ミュータントかよ。
たしかに今の情報だけならば霧島先輩とお似合いというのも分からなくはない。
だが、いくら上手く隠蔽しようとも無類の女好きであることは隠しきれなくなりつつある。すでにごく一部の人間には草食系をかぶった狼――ヤリ○ンだってことに気が付き始めている。
「悪いな瑛太。お前の彼女、寝取っちまった」
俺が感情を失ったのはこの日だ。
幼稚園からずっと一緒だった彼女に肩を回してそう告げられた日、俺の視界から色が消え失せた。目に見えるものがモノクロに変わったんだ。
むろん怒りで我を失った俺は暴力で訴えかけたものの、兄の手先に取り押さえられ、敗北の苦汁を味わうことになった。
喧嘩なんて相手が三人以上いる時点で一方的な展開になる。多勢に無勢。
素手で勝つには絶望的にも拘らず、凶器を使った成敗で罰せられるのがこの国の悪いところだ。法律なんて、秩序なんてクソくらえだ。
そんな兄が口説いているにも拘らず一切なびかないのが霧島先輩だ。
どうやら先輩は上っ面だけで男を評価しない見る目のある女のようである。
優秀な兄を持つ俺は無能だ。
あだ名は出涸らしくん。兄に全てを持っていかれた残りカスでございやす。
中学に付き合っていた幼馴染も寝取られていた。
かつて神童なんてもてはやされていた姿なんて見る影もない。
容姿も、学力も、運動も何もかもが平均レベル。というより、モチベーションが上がらないんだよ。何をするにも億劫だし、面倒くさい。
最近じゃ口を開くことさえダルくなってきた。一人最高。ビバ孤独の人生だ。
だが、なまじ兄が話題に事欠かない人物であるが故に、弟である無能な俺を虐げたい人種というのがいるらしく。
俺は常に陰口を叩かれ、嫌がらせを受けている。
いやいや。なんでそうなる。嫉妬するなら兄に当たれよ。なぜ何もしない、していない俺の方が虐げられなくちゃならんのだ。
弟の俺に八つ当たりするんじゃねえよ。無能、出涸らし、役立たずって……口を開けば同じことばっか言いやがって。しょうもねえ人間ばっかの集まりだな、この世界は。
なんて不満があるわけだが、別に見返してやろうという気概もなく。
どうでもよかった。
この国には法律という人間の可能性を大きく制限するルールがあるからだ。
いわば人が人として生活していくための秩序ってやつだ。
くだらねえ、と俺は思う。
これがなければ人生はもっと楽しくなるはずだ。
秩序が保たれているからこそ安全な暮らしを送ることができる。それはわかる。だから世の中には『普通』しか起こらない。
高校を卒業し、大学で
まったくもって刺激が足りないと思う。
けれどこれが普通なのだ。
このレールから大きく外れた妄想が好きだ。
だが、いつの間にか法に触れているから笑ってしまう。
きっと俺は誰にも才能や魅力を見出されず、兄の活躍を耳にしていきながら一生を終えていくんだろう。
そう思っていた。
――校門に一人の不審者が現れるまでは。
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