第23話 僕の決断

 その後、僕は真波を土の中に埋めました。誰にも掘り起こされることがないよう。誰かに汚されることがないように。そして星が一番見えるであろうところに、そうっと埋めました。


 それが僕の全てです。気づいた時にはあの病室にいました。春田さんは何も言わずに僕を見つめる。

「そう。あなたは病院の近くで倒れていたそうよ。車に轢かれたって聞いたわ」

「じゃあ、多分そうなんですね」

違う。春田さんはどうしてそんな普通なのか。僕は人を殺してしまったのだ。普通もっと他に言うことがあるんじゃないか。そう思ったのが表情に出たのかもしれない。

「他に何かある?」冷たく放たれた。

「それだけですか?」

「別にあなたが何であろうと私には関係ないわ。それとも何、大変だったわねって慰めてほしいの?あなたは悪くないわって言ってほしい?そんな言葉でどうにかなるほど単純な話じゃないんじゃないの」腕を組んで言う。 

この人は他人に興味がないのか。いや、全てをわかった上で言っているのかもしれない。

「僕はこれからどうすればいいんでしょうか?」

「さあ、私にはわからないわ。このまま無かったことにする?それとも私と一緒に終わらせる?この人生を」春田さんがフェンスに手を掛ける。細い足が上げられた。あっという間に向こう側に降り立った。

「おいでよ、君もこっちに」一瞬だけ躊躇った。それでも伸ばされた手を掴んだ。フェンスを越えて横に並ぶ。

空を遮るものは何もない。一歩踏み出せば僕は楽になれるのだろうか。春田さんの手を強く握る。春田さんも握り返してくれた。春田さんの体温が僕に循環する。ずっとこのままでいられたらどれほど幸せだろうか。僕は前に進もう。

 踏み出そうと足元を見た瞬間、下から風が吹きあげる。それを避けるように上を向いた。前髪が強く揺れる。あぁ、そうだ。僕はまだ終われないや。目の前が光輝いている。

「春田さん、僕にはまだやることが残っています。全部終わらしてからじゃないと僕はきっと後悔する。それを終えてからでも良いですか?」彼女を見上げる。

「そうね。後悔するのは良くないわね。じゃあ、明日にしましょう。明日またここに来て。鍵は開けとくから」トンっとすぐにフェンスを越えてしまった。右手を上げて行ってしまった。

僕に振り返ることもなく。僕も急いでフェンスを乗り越える。そして走って行った。後悔しないために。やり残したことを終えるため。僕を終わらせるために。


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