第47話 勇太!


 ……こんな、欲望むき出しの……教師失格の大美和さくら先生なんて嫌だよ。



「……………」

 決して聞いちゃいけないキーワード『嫌だ』を、間近で聞いてしまった大美和さくら先生。

 一瞬頭の中は真っ白に……、そのまま肉食動物のように構えていた両手を、だら~んと下ろしてしまい沈黙した。




「起きなさい。起きなさい、私のかわいい大美和さくらや……」


 しばらく、RPGモード『大美和さくら・クエスト』をお聞きください――


「おはよう大美和さくら。もう朝ですよ。今日はとても大切な日。あなたが初めてお城に行く日だったでしょ?」

「この日のために、お前を清楚な女の子として育てたつもりです」


 そう!


 今日は、お城の王子様が私のような城下町の町娘と会って、花嫁候補を見つける大切な日――

 城下町で暮らす私のような女の子でも、もしかしたら、王子様の目に留まって花嫁に選ばれるかもしれないという大切な日――


 さあ!


 こうしちゃいられない!! おめかししないと……


 髪をいて、お化粧して、お洋服はどれにしょう? ああ、髪飾りも決めなくっちゃ!


 え~? もう、こんな時間? 


 早くしないと、お城の門が閉まっちゃうじゃない!?


 はあ…… はあ……。間に合った。

 門はまだ閉まっていない。

 これで王子様に会える。


 でも、ああーなんか緊張しちゃう。

 だって、王子様を一度も見たことがないんですもの。

 どういうお姿なのかしら? どういう人柄なのかしら?

 この城下町をとっても大切に保護してくださっている王族の王子なのですから、それはそれは素敵なはずです! 

 そうに違いありません!!


 さあ! お城の中に入りましょうか……


 入りま……しょうか?



 ??



 大美和さくらは、城門の前の立て看板を見つけた。


 立て看板を読みますか?


 > はい  いいえ


 大美和さくらは[はい]を選んだ。



“本日、王子と接見する城下の乙女達へ”

“王子と接見できる条件は、


 一つ 乙女であること

 一つ 城下に住む者であること

 一つ 年齢が26歳以下であること


 以上“



 ……こんな、欲望むき出しの……“推定年齢27歳”の教師失格の大美和さくら先生なんて嫌だよ。


(年齢の部分は先生の被害妄想です……)


「……あの? 忍海勇太君。先生にそれを言っちゃうの? それを言っちゃ、私……」

 大美和さくら先生、推定年齢27歳。

 恋の秋――彼女の短い恋は、ここに終わったのでした。



「大美和さくら先生……」

「……先生、大丈夫ですか?」


 ――教会の出入り口の扉の入ったところ数メートルに、2人の女子が口を挟めないシチュエーションに圧倒されて、唖然というか……絶句してというか、ずっと前から立っていた。

 その女子2人は誰かと聞かれれば、新子友花と生徒会長の神殿愛である。


 円形演技場の舞台の上から、大美和さくら先生が忍海勇太を無理矢理に聖ジャンヌ・ブレアル教会まで、強引に引っ張って、その後を駆け足で追い掛け追いつこうとして……追いついたはいいものの……。

 新子友花と神殿愛は、大美和さくら先生のエイリアン・バージョンを大分前からずっと目撃していた。

 ――なんだか見てはいけないものを見てしまった……という気持ちで、大美和さくら先生と忍海勇太のやり取りの一部始終を見ていたのだ。


 2人もドローンが撮影しているモニターで見入っている学園中の生徒達と同様に……内心はどん引きである。


「ゆ、勇太…………大丈夫か?」

 新子友花、忍海勇太への励ましのメッセージである。

「せ、先生…………?」

 神殿愛が恐る恐る、先生に話し掛けた。

「……ああ、なんとか」

 忍海勇太がまだ抜けている腰を摩りながら、新子友花に親指を立てて教える。


「……………」

 一方、恐らくあまりのショックだったのだろう?

 大美和さくら先生は、すっかり無言になってしまっていた。

 へなへな……と、彼と同じように先生も腰を抜かして、向こうずねをハノ字に折り曲げ、その場にへたり込んでしまっている。


 刹那――忍海勇太、大美和さくら先生が意気消沈している姿を見て、考えて……、


 今が! 今しかチャンスはないぞ!!


 と、即決!

 水を得た魚の如く、精神的にダメージを受けて残り少ないけれど、残されたパワーをリミッター解除して! はいつくばって……。

 なんとかもがきもがきで、その場から脱出しようと――


 はいつくばって、はいつくばって……

 もがきに、もがいて……


 新子友花と神殿愛立っている教会のバージンロード中程の場所まで、なんとか逃げ切ることに……成功した。

「あの……新子さんと神殿さん?」

 忍海勇太、珍しく『お前』って言わなかったね。

「……ちょ、ちょっとさ、お願いがあるんだけど。……俺をさ、腰が抜けた俺をさ、助けてはくれないかな?」

 はいつくばっている状態の忍海勇太……2人に懇願。

 その姿は公園の一角で、段ボールがあって、中を覗くと猫が一匹が――

 更には、中に小さな紙切れが一枚入っている。

 当然、文字が書かれていて『オスです。大切にしてあげてください』というメッセージ。

 そう……捨て猫がお腹を空かせて、覗き込んだ子供達を見上げている……。


 そういう表情に彼はなっていた――

「あの? どうか……新子さん? 神殿さん??」


「……………」

「……………」

 新子友花と神殿愛は、

「……………」

「……………」

 しばらく、お互いの顔を見合して沈黙した。


「……………」

「……………」

 2人は、……しばらく、お互いの顔を見合して沈黙している。


 !!

 !!


 そして、コクりと互いに見合いながら、同時に頷いた――

 最初に口を開いたのは、神殿愛。

「……勇太様。まだ『学園 殿方争奪バトル!!』は終わっていませんわよ」

 神殿愛が腰砕け状態の忍海勇太に、両膝に両手をついて前屈みになってそう言った。

 次に口を開いたのは、新子友花である。

「……そだよ、勇太。終わってないんだからさ……」

 新子友花は目下の忍海勇太を見つめながら、両手を腰にあてがい言った。


 それも2人共に真顔……無表情で、である。


「……はっ!? 神殿? お前?」

 2人に対して、忍海勇太がいつもの呼び名に戻して聞き返す。

 言い放たれた言葉に耳を疑い、またしてもガクッと腰から下の力が抜けてしまう。

「……勇太様。私の恋愛“アプローチ”がまだ終わっていないのですよ。だから、これからやらせてください」

 無表情のままの神殿愛が、本来あるべきメインイベントの姿? 神殿愛が忍海勇太に“アプローチ”しますと宣言。

「……これから?? はあ!?」

 忍海勇太は絶句する。

「そだよ、勇太。あたしの恋愛“アプローチ”も同じく、これからなんだからさ。……あと、あたしのこと、お前っていうな!」

 新子友花も無表情で『学園 殿方争奪バトル!!』に参加して……いつの間にかなのか?

 当然のこと、生徒会長神殿愛の越権行為を阻止するためでもある。


「…………何? この展開??」

 瞳孔を大きく開いて、数回程瞬きをする忍海勇太。頭の中がかなりコンガラガッテいた。

 

 瞬間的に彼は気が付いた――


 ああ、こういうことだったのね。……本来、楽しい思い出を作るはずの文化祭。

 しかし、忍海勇太にとっては、はっきり言って厄日であろう。


(俺の運命は、結局変えられないんだ……)


 心の中で、そう気が付ついた――

 それは、聖人ジャンヌ・ダルクさまの火刑という悲哀な運命が、結局は変えられなかったように――

 ああ、俺は聖ジャンヌ・ブレアル学園の生贄になってしまったんだ……。

 この文化祭のメインイベントで、学園中の生徒達を楽しませるための道具に……成り下がってしまったんだと。


(ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま……。どうか、この俺に……慈悲をください。今の今まで、真面目にあなた様を信仰してこなかった罰が、この現実なのですね? ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま、お許しください。お許しください。そして、どうかお助けください。俺は、これからあなた様を本気で信仰しますから……だから、このバトル!! から、俺をお救いください――)


 この時、忍海勇太は心の底から本気で本気で祈ったのであった――



 それにしても、誰が始めたか『学園 殿方争奪バトル!!』は?

(ああ……、あの人でしたね……)


 聖人ジャンヌ・ダルクさまの名の下に繰り広げられる、女同士のカーニバル。

 ……しかしてその実態は、必然的に男子が被害者にされてしまうシステムだった。


 これでいいのか? 聖ジャンヌ・ブレアル学園よ――



「さあ! 勇太様?」

 グイっと! 忍海勇太の右腕を両手でつかむ神殿愛。

「さあ! 勇太?」

 こちらもグイっ! 彼の左腕を両手でつかんだ新子友花。


「勇太様! 私の“アプローチ”、勿論、お受けしますわよね?」

「勇太! あたしの“アプローチ”、勿論、受諾するよね?」

 受諾って……、最後通達みたいに言って。

 今のこの状況――

 傍から見ている男子にとっては、なんとも羨ましい限りの光景である。

 神殿愛と新子友花が揃って、忍海勇太に“アプローチ”という名を借りた愛の告白? ……をした。

 強引に彼の腕を、互いに引っ張り合ってのそれである。


 忍海勇太がヤジロベーのように左右に大きく振れている……。

「……ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま。どうか、俺をお助けください」

 その揺れ惑う世界の中で、彼は聖人ジャンヌ・ダルクさまに祈り希望を探した。

 ……でも、そんなに嫌悪する場面かな?

 作者から見れば、女子高生2人に迫られている君って、やっぱし羨ましいぞ!!

「勇太様! 聖人ジャンヌ・ダルクさまの名の下に、ご決断を!!」

 一層力強く、忍海勇太の腕を神殿愛はグイっと引っ張った。


 名の下にって――

 学園の神様として祀っている聖人ジャンヌ・ダルクさまが、今この瞬間、恋のキューピットになっていることに(させられていることに?)気付きました……。


「勇太! 聖人ジャンヌ・ダルクさまの名の下に、今すぐ決断しちゃいなって!!」

 こちらも、力強く彼の腕をグイっとした新子友花である。

「こんな洋風座敷童の何処がいいの? うん……何処もいいとこなんてない。だから勇太! あたしを選んで」

 新子友花が眉間にしわを寄せて、向かいにいる神殿愛の顔を見つめながらのぶっちゃけ発言!

「あ~ら、友花さん? 金髪山嵐のあなたこそ場違いなんじゃありませんか? 勇太様に相応しい乙女は、生徒会長の神殿愛ただ一人ですわ」

 彼女に対して、軽蔑した……しら~とした視線ビームを打つのは神殿愛!


「愛? 何ワザとらしく『生徒会長』って名乗ってんの? そういうところが傲慢だってーの! 大美和さくら先生のありがたい話を忘れたの??」

 新子友花、ここで大美和さくら先生の先の話を持ち出した。

「……それは、ありがたいと思っていますわ」

 と言って、神殿愛はヘナヘナと少し腰砕け状態になり……大美和さくら先生を見つめて、

 けれども――否! 彼女は炎天下で萎れていた花々が水を吸ってピンと茎を伸ばすかの如くに、

「けどね! 成績下の下のあなたに言われる筋合いは毛頭ありませんって」

 生徒会長としてのプライドか、御嬢様としてのそれなのか?

 神殿愛が新子友花にきっぱりと反論した。


「下の下じゃない! 中の下じゃい!!」

「あ~ら、これは、ごめんあそばせ……」


 パチッ…… パチッ……


 ――金髪山嵐 vs 洋風座敷童の目と目で飛び交う火花が危なっかしい。




 忘れないでね読者様――大美和さくら先生はというと、

「……教師失格って言われちゃった。教師失格って……どうしよう?」

 しょぼーんとしてしまって……

 さっきから繰り広げられているラノベ部副部長の神殿愛、1学期途中に入部してきた新子友花――

 本来であるならば可愛い部員達のやり取りを見過ごすことは無いのだけれど……。

 なんだか、すっかり意気消沈してしまっていて……力尽きている。



「……あのさ、新子さん? 神殿さん?」

 その2人の恋愛バトル!! ……にしばらく呆気なまでに囚われていた忍海勇太が、……恐る恐る再び2人の呼び名を改めて呼んでみた。

「あのう……、……決断を、しなきゃ……?」


「その通りです。勇太様!」

「うん。勇太……決断しろ!」


 ――女子っていうのは、どうしてこう目的に向かって勢いづくと脇目も振らずに己の欲求に従うのか?

 いや……男子だって好みの女子に一目惚れして、えっちい~気持ちになるのだから、お互い様か。

 神殿愛と新子友花、『学園 殿方争奪バトル!!』の華……だと思うけれど、私に告白しろ! あたしに告れ!

 と、回答を迫って来る。

「……………」

 一方の忍海勇太はというと……。黙秘権を、

「……決断、……ですか?」

 違った……ただ単純に2人の勢いに飲み込まれているだけ、腰砕けで見上げる2人に顎をガクガクさせてたじろぐ。

 ……さあ忍海勇太! ささ、どうする?

 君は……どちらを選ぶ?


 忍海勇太よ!


 ファイナルアンサーだぞ!!




       *





「……………」


「………」


「…俺、選べない。選べないってばっ!!」


 ――ヒットポイント残り僅かで、ステータス画面が赤色モードの忍海勇太。

 与えられた選択権を一方的に放棄し、精一杯に大きな声を荒げて断った!


 えっ? ……断るの??

 こんなチャンス、ハレー彗星ものだと思うけれど――


 まあ、ぶっちゃけ逆ギレである。


「――俺! 正直言って、まだ、そういうの全然興味ないってば! そうだ、そうなんだ! 実は!!」

 2人に掴まれている両腕を力一杯に振りほどき、忍海勇太は居直って教会の床に禅修行のように胡坐を組んで座り込んだ。

「……まあ、いつもお前に『俺と付き合え……』って言っていることは、事実としてあるけどな」

 と言うと、目を細めて冷酷に告られることを、今か今かと真顔で待ち望んでいる新子友花を見上げた。

「でもな! 本当は、そういうんじゃないんだって!!」

「じゃあ……どういうの?」

 掴んでいた腕をさらりと放すなり、腰の後ろで腕を組んで右足を一歩前へ――軍隊流の休めのポーズをとる。

 内心(お前って言うな!)と思っていたけれど、ここはひとまず勇太の言い分を聞いてやろうと思った。

「……ちょっと。……その、からかってやろうっていう気持ちから、言ってたんだ……」

 胡坐を組んで背筋も伸ばして……、忍海勇太は観念した様子で肩の力を落としている。


「あ~ら、勇太様……」

 今度は神殿愛、同じく目を細めて、更には、ふふ~ん……と口に力を入れ、まるで新妻が『あなた……。最近、帰りが遅いわよね……?』と旦那に浮気の探りを入れるみたいに……聞いている。

「友花さんより、私の方がラノベ部の部員として、長~く一緒に活動してきたじゃありませんか? 私のことを勇太様は袖になさるおつもりで?」

 胸の前で腕を組んで仁王立ちする神殿愛、その姿は上官が二等兵の訓練風景に睨みを利かせるように。

 内心、心に思う本音はというと……お可愛いこと。……であった。


「あのなあ……。長~く一緒にってのはさ部活の話だろ? 同じ部員としての話だ! だから、それ以上の関係には……なれな」

 半分はラノベ部員としてそういう冗談は今は勘弁してくれ……という気持ちと。

 もう半分は、もう俺怖いから……神殿の隣には髪の毛を逆なでつつある金髪山嵐がいるんだから、これ以上言うことはない!

 ……という気持ちと。

 いまだ顎をガクガクさせている忍海勇太、額にも幾筋もの汗を滝のように流しながら……神殿愛を見上げた。


「……なれ? それ以上の関係ってどういう?」

 ちょっと意地悪な言い方ですよ、神殿愛さん。


「……それ以上の関係ってのはな、つまり」

 ほんの出来心です……まるで、浮気がバレてしまった時の新婚夫婦の旦那状態である。

 離婚に慰謝料に親権問題に――

 日付をまたいでダイニングテーブルに向かい合い、話し合うこと自体気が滅入る。

 ドアの隙間から――隣の部屋でスヤスヤと眠っている幼い我が子。


 ああ、どーしてこーなった?


「……つまり、『学園 殿方争奪バトル!!』のプロポ……もとい“アプローチ”のことだ!!」

 言葉の意味は分からんが、兎に角、すごい説得工作だ……。


 忍海勇太、17歳―― ここが日本男児の踏ん張りどころだと思うぞ!!




 ――と、そしたら。



「ふっ。ふふっ。ふふふ……。ふふっ! ……ふ、ははっ! ……はははっ! ははははっ!!」

「ふふふっ。……ふ! ふふふっ♡ ……は、ははっ! ……はは、はっ……はははははっ!!」



 ――真顔で、真剣で、無表情で、したり顔をミックスさせながら、忍海勇太に尋問……どっちをチョイスするか問い詰めていた神殿愛と新子友花が、口元を緩めて微笑んだ。

 その微笑みは次第に大きくなって、2人揃って笑い始めたのである。

 なんだか暗転明けのカーテンコールのように、場面が一転してしまった――


 意味が分からないよね。

 何? この展開って。


 その通りである――



「……………、……………」


 2人をそれぞれ無言で見つめている。

 当然のこと、忍海勇太は唖然と沈黙したのであった。


 ――しばらくして。


「勇太のバ~カ! あんた、何、本気モード全開なのよ!!」

「勇太様! 何、ムキになってるんですか?? まったく……」


 ……えっ!?


「こんなのさ! ただのカーニバル。お祭りじゃない!!」

「そうですよ! これは文化祭のメインイベントなのですから! 楽しまないと!!」

 神殿愛と新子友花はそう言うと――

 また、ははははっと……2人共、お腹を抱えて笑い出したのだった。

「……カーニバル? お祭り??」

 あっけらかん状態の忍海勇太、放心状態である。

(女子が結託しての悪ふざけ……心痛お察しします)


 忍海勇太は、しばしのシンキングタイム――


 ああ、確かに文化祭とは学園のお祭りだったっけ?

 両隣にいる2人は、さっきからずっと笑い続けている……。

 どうして笑っている?

 それがお祭りと、どういう関係がある?


 ……あっ!


 ……そうか。


 ………そういうことか。



 俺、勝手に勘違いして、思い込んでいたんだ……。

 こいつら、俺のことをからかっていたんだ……。

 そうだったんだ。

 ……だったら、なんかほっとした。


 キツネにつままれた……化かされた、

 いや、金髪山嵐と洋風座敷童に遊ばれたのであった――




       *




「しょぼぼーん……。私、教師失格って……教師失格って……言われちゃったんだな」

 どうして2回言う?


 忘れてませんよ……。


 ラノベ部の部員達3人が青春まっさかりの最中――

 一人、いじいじと畳を突くように教会の床をツンツンと突いて……、死んだ魚の目をしてどんよりと肩を下げて落ち込んでいるのは、大美和さくら先生である……。

「……ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま」

 聖人ジャンヌ・ダルクさまの像を見上げて、先生は十字を切る。


「……ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま。私の生徒達への教育は、本当に、これで良かったのでしょうか?」


 ん?


 先生そのセリフって、……どこかで聞いたことがあったような?

 大美和さくら先生はすがる思いで、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像を見上げ続けた――




 大美和さくらよ……、落ち着けって。



 ジャンヌ・ダルクは像の後ろからこっそりと覗いて……

 人知れずドキドキとして……





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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