第2話 広島①

 俺は、大空高く飛び上がると防府の街を眼下に収める。

「取り敢えずは戻った時に着る服を確保しなきゃな」


 家に戻れば間違いなくあるが、この巨体で家の俺の部屋から洋服を取り出すなんてしたら、出来ない事は無いだろうけど、この姿をしているのが俺だって一発でバレる可能性が高い。


 先程の出来事から考えると、このエンシェントドラゴンとしての攻撃力や防御力何て言うのは、人間の姿の時も適用してるっぽい。


 数値が見えないから、ドラゴンと同じなのか差し引いた実力なのかは解らないけどな。

 

 上空でどうしようか考えながら、旋回しているとヘリの音が聞こえた。

「面倒な予感しかしないな」


 そう思っていると、ヘリから機銃掃射が行われて俺を狙って来た。

 そりゃそうだな、俺は見た目ただの化け物だしな。

 死んだか……


 と思ったけど、機銃の弾丸は俺の皮膚を貫く事は出来ず、体に当たった後バラバラと落ちて行った。


 俺の身体に受ける感覚でもどうだろ?

 銀玉鉄砲の玉を、人間の身体で受ければこれくらいの痛さかな?

 と思う程度の感じだった。


 まぁ銀玉鉄砲でも目玉とかに当たれば、十分に威力はあるけどな。

 実際にこいつを倒した時に、俺が重野を目玉に突き刺して倒したように。

 狙った訳じゃないけどな……


 でも、どうしよう。

 攻撃されたんだから、正当防衛で攻撃していいのか?

 いや、駄目だろうな。

 あの人たちにきっと悪気はない筈だ。


 モンスターを倒そうと、街の人達を守ろうと、一生懸命なだけな筈だよな?


 まぁ、機銃であの程度なら問題無い。

 無視だ無視。


 方向感覚は良く分からないな。

 今は夕方5時くらいか?

 太陽がある方角が西だよな?


 じゃぁ反対に行って見るか、太陽目指すと眩しいし……

 確かテレビで広島にダンジョン有るって言ってたよな?


 親父やお袋、妹の夢は無事なのかな?

 この辺りはダンジョン無いから、今日明日でどうにかなる事は無いだろ?


 さらに高度を上げた俺は、東の方向を目指した。

 どれくらいの速度が出てるんだろ?

 新幹線よりは早いと思う。


 そう思いながら、東へ向かう。

「あ、そういや、岩国に米軍基地があったな、攻撃とかされないかな?」


 そうつぶやいた瞬間に、5基の戦闘機が確認できた。

「フラグかよ……」


 迷わずミサイルを撃ち込んで来た。

 初撃が機銃じゃ無いのは恐らく防府基地から連絡が入ってたのかな?


 どうする? 避けたほうがいいのか? それとも当たってみて威力を確かめたほうがいいのか?


 迷ってるうちに、俺に着弾した。

 派手に爆発する。


 だが、それだけだった。

 俺の表面には傷一つない。

 ミサイルの破片が地上に落下して行く。


 下にある工場のような建物に直撃して、大破する様子が確認できた。

「え? まさかこれ、俺のせいにされないよな? 俺は撃たれた被害者だよね? 壊れた建物弁償しろとか言われないよな?」


 5機のF35BライトニングⅡは、まだ諦めずに俺に向かって来た。

 どうしよ?反撃とかしちゃったら、簡単に落とせそうだけど、一機127億円とか前にニュースで見た気がするし、返り討ちでもいちゃもん付けられそうだな?


「まぁいいや、無視だ無視」


 俺は広島方面にそのまま飛ぶ事にした。

 広島市内上空に入った時点で、諦めて帰って行ったようだ。


 きっとベストな選択だったよ!

 近くに寄られたら、俺が羽ばたくだけで気流に巻き込まれて落ちてたと思うしね。


 ああ、こんな状態なんだ……

 日本って言うか、世界終わって無いか? これ。


 広島のダンジョン発生地域では、ほぼ生きている人間を見つけるのは困難な状態だった。

 見渡す限りに死体が見て取れ、それを貪り食うような、モンスターの姿が見える。

 更にダンジョンから、モンスターは湧きだしてきている。

 どうする俺?


 と思ってたら、何だか身体が縮んで来たような気がする。

 ヤバイ、もしかして変身時間に制限とかあるのか?


 必死で下降して、ビルの屋上に辿り着いた。

 その直後に、人間の身体に戻った。


 当然素っ裸だ。

 見渡す限りは生きてる人は見えないし、裸でも別に問題は無いけど、羞恥心しゅうちしん的に耐えられねぇ……


 もう一度俺のステータスを確認するが、トランスフォームの後のエンシェントドラゴンの表示がグレーアウトしてる。

 これは表示が明るくなるまで使えないんだろうな?


 俺が変身してた時間はほぼ1時間くらいか。

 取り敢えず裸で解放感を味わってても、しょうが無い。

 服探そう。


 屋上から下に降りて行く。

「ラッキー、ここデパートだ」

 すでに、電源は失われている様だ。

 非常灯のEXITの表示だけが確認できる。


 3分程で目が慣れてきて、その非常灯の表示だけでもなんとなく何が置いてあるかは確認できるようになる。


 いくらモンスターが現れても、まさか何時間かの間に全滅は無いよな? 人はどこかに隠れてるのか?

 探してみるか……


 あ、先に服着なきゃ、人に会った瞬間に通報されそうだ……

 てか警察まだ機能してるのかな?


 取り敢えず俺は服を手に入れるために、階下へと急ぐ事にした。

 物音が聞こえた。

 

「誰かいる?」

 返事は無い、物音の方に近寄ってみた。

 人が……元人だった物が転がってた。


 そして物音の正体が現れた。

 狼がいきなり飛び掛かって来た。

 俺の腕に噛みついた。


 だが、痛くもない。

 変身出来ないだけで、俺の身体能力は、エンシェントドラゴンの時とあまり変わらないみたいだな。


 噛みつかれたまま、狼を床に叩きつけた。

 一撃で首の骨が折れたようで『ギャウン』と言う声と共に、息絶えた。

 それと同時に、光に変わり俺に吸い込まれる。


『グレーウルフへのトランスフォームが可能になりました』


「え? 倒した相手の能力をどんどん吸収できるって事か? でもグレーウルフだと、エンシェントドラゴンの時より大幅に弱くなるとか無いかな? 単純に能力上乗せならいいけど」


 取り敢えず鑑定してみるか。


 グレーウルフ ☆☆

 体長1.8m

 体重100㎏


 夜目

 遠吠え

 

 星2つか弱そうだな。

 夜目か、そういえばさっきまで何とか見えていたデパート内部が、はっきり見えている。


 便利かもな。

 まだ服着て無いし、取り敢えず「トランスフォーム」

 ふむ、グレーウルフの姿になってる様だ。


 さっきまで気にならなかった、血の匂いを強烈に感じる。

 嗅覚も強化されるみたいだなこの形態だと。


 だが、人の死体が普通に転がってるのは、厳しいな。

 あちこちに死体がある。


 そしてそれを貪る、グレーウルフも居た……

 この体の強度を知るのに丁度いいと思って、他のグレーウルフに噛みついた。


 一撃で、首筋をかみ砕けた、どうやら強さは上乗せか。

 だが、口の中に血が流れ込んで、気持ち悪い……


 爪はあまり長く無いが、こっちで攻撃した方が良いかな?

 他のグレーウルフの側に行き、前足で首筋を叩いてみた。

 

 爪が突き刺さり、反対側に突き抜けた。

 十分な攻撃力だが…… 手が血で真っ赤に染まる。


 このフロアには生きてる人間はいないのは間違いないだろう。

 そのまま、下の階に向けており始めた。


 やっと見つけた。男性服売り場だ。

 今更万引きしたとか言われないよな?


 折角だから普段の俺じゃ絶対買えないような高級ブランド系の店の前に来て『トランスフォーム解除』と念じてみた。


 素っ裸の俺に戻れた。

 血まみれだった筈だが人間の姿では別段汚れていなかった。

 安心したよ。


 下着から順に着て行く。

 一通り着てから思った。

 トランスフォームするたびに、絶対服破れるよな?


 売り場の服を全部貰って置こう。

 と思い、収納と念じた。

 どんだけ入るんだろ?


 何件かのショップの服をサイズも関係なしに一通り入れてみたけど、全部入る。

 更に下の階層に降りると女性服だったが、これも全部入れてみた。

 下着も全てだ。

 こんな時に不謹慎かもしれないが、女性下着とかを見ると、なんかちょっとドキドキするよな。


 健全な男子高校生だからしょうがねぇだろ!

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