記念すべき第10回のBパートです!

 さて、海へ逃げたシンデレラは、まずファーダム王子の服を剥ぎ取り、ドレスを脱いで着替えました。


「ふう、ここからどうすれば」

「まてアメリッシュ。何故俺が追い剥ぎされなきゃならん」

「アメリッシュじゃなくて、アメリ・シンデレ

・ラッシュです」


 仕方ないじゃないですか、とシンデレラ。


「十二時になると魔法がとけてポロリなんて、うら若き乙女にさせていいと思うんですか?」

「お前は一国の王子が追い剥ぎされていいと思っているのか?」


 真顔で即レスしたファーダム王子でしたが、魔法という言葉に引っかかりました。


「待て、魔法? お前のドレスは、魔法使いから授かったのか?」

「ええ。……確か魔法使いの名前は……」


 えーと、と考え、シンデレラは思い出しました。




「スープ・ユッケさんだったかと」


 シンデレラはお腹が空いてました。


「ふむ。……一瞬知人かと思ったが、別人だな」


 ファーダム王子は真に受けました。


「しかし何故十二時に魔法が解けるのだ? その魔法使い、ケチではないか?」

「ねー、おまけにこの蒸気船ですよ。操縦者ぐらいつけてって感じです」

「しかし聞けば聞くほど、俺が知っている宮廷魔術師に似ているな。あやつの働き具合も半端な癖に、一言目は必ず『給料上げろ』だからな」

「うわー」


 こうして魔法使いスー・ユケの悪口を言うことで、シンデレラとファーダム王子は仲良くなりました。

 ひとまずお腹が空いたので、その辺にあった『深夜でもやっている喫茶店』に入りました。


「いらっしゃいまっ!」


 女性店員はぎょっと目を剥きました。

 ファーダム王子の装備はパンツだけだったからです。


「すみません、怪しいものではないので、服とご飯をいただけないでしょうか」

「これにはやむを得ない事情があってだな」

「……少々お待ちください」


 店内を通された二人は、「どうぞ」とコーヒーを渡されました。


「……ふむ」

「とても美味しいですね」


 そう言うと、通してくれた女性店員・柏子かしこが、ふふん! と得意げに説明しました。


(※7)「マスターの淹れたコーヒーは格別さ! でも彼女持ちの男が飲むと死ぬほどマズいんだ!」

「マスターは念能力者か何かですか?」


 とんでもないものを盛られてました。

 そこに、マスターらしき男性がやって来ます。


「しかしその様子を拝見しますと、あなた方は痴情のもつれでやって来たわけではないようですね」

「痴情のもつれでパン一で二人揃って深夜に喫茶店にやって来ると思うか???」


 ファーダム王子のもっともなツッコミを華麗にかわして、ダンディーなマスター・久瑠熊くるくまは言いました。


「さて、お二人はシンデレラ様とファーダム王子とお見かけいたしますが」

「え……何故わかったんですか?」

「先程、柏子かしこが、『ああ(※8)あれ、知らない人がいる。あああ明らかに不審者』だとテンパってましたので」

「確かに深夜のパン一は不審者だろうが……それでよく俺たちを特定できたな……」

「魔法使いスー・ユケさまから、お二人が来ることは事前に聞いておりました」


 その名前に、ピク、とファーダム王子の眉が動きました。


「なぜ、そやつの名前が出てくる?」

「あ、なんかそんな名前だった気がします。魔法使いの名前」


 鶏ガラスープとユッケをつつきながら、「あ、これ凄く美味しいです。作った人天才」と褒めるシンデレラに、(※9)「えー?! やーだ、そんなことないよぅ。もー。褒めるの上手なんだからー」とテンション上げ上げの柏子。


「スー・ユケさまはあなたがアトランティスに行きたがっていることをご存知でした。そこでさり気なく、アトランティスへ導くことをお決めになったのです……」


「さり気なくか???」

「十二時に解ける魔法をかけて乙女を蒸気船で送り出すのがさり気なくか???」


「何せこの店は、『普通の人間』には見えない店ですので……」


 魔法使いに導かれない限り訪れられないのです、と、マスター・久瑠熊は重々しく告げました。


 柏子かしこの傍には、今までいなかった別の女性店員が、勝手にシンデレラのユッケを食べています。


「何を隠そう、そこの野林はアトランティス大陸の秘境・『サーガ』からやって来た者」


「私のユッケー!」「やかましい!」


 シンデレラは叫びましたが、ファーダム王子に口元を抑えられました。ファーダム王子にとって、アトランティスの情報は何より大切だからです。


「この店はアトランティスの情報を秘匿するための機関なのです」

(※10)「今年はバルーンなかやっかーーー!」

 突然ユッケを食べていた野林が叫びました。

「何か叫んでいるが」

「今年は諸々の事情でアトランティス行きの飛行船がなくなってしまい、そのことを嘆いています」

(※11)「地獄の郷土料理かよ……」

 今度はなぜか落ち込んで呟きました。

「マスター、また何か言ってますが」「というかこの者躁鬱激しくないか?」

 野林のテンションのジェットコースターに、ファーダム王子は心配になります。

「彼女が住んでいた土地は玉ねぎの産地で有名で、大量に食わされて玉ねぎが苦手になった彼女はシンデレラ様の透明な靴を見て玉ねぎを思い出してます」

「こじつけじゃないですか!? ……って、え?」


 シンデレラがふと足元を見ると、煮込んだ大根のような、それでいて生の玉ねぎのように透明な靴が輝いていました。

 時刻は喫茶店に来る前には既に、十二時を過ぎてます。


「どうして? 魔法は十二時に解けるはずじゃあ……」

「いいえ、こちらの靴は魔法で作られたものではありません」


 それはアトランティスで作られた靴でございます、とマスター・久瑠熊は言いました。


「我々は、こう呼んでいます」


 細目をカッと見開いて、彼はこう言いました。


「ーー『アトランティスの玉ねぎ』、と」




 次回予告

 シンデレラが履いていた靴は、『アトランティスの玉ねぎ』と呼ばれる物だった!


「アメリッシュ、俺もう疲れたぞ……」

「アメリッシュじゃないです。アメリ・シンデレ・ラッシュです」


 アトランティスの果てなき道を行くために、再び蒸気船に乗ったシンデレラとファーダム王子。

 しかしテンションがヤバめの野林に振り回されるファーダム王子。


「お願い死なないでファーダム王子! あなたがここで倒れたら、私の食費はどうなるの!?」

「シンデレラお前……中々アレだな……」


 そんな中、蒸気船には謎の男が現れる!


 次回(※12)「や、そこはパーカッションでよくね?」

 私たちの冒険は、これからだ!



   ~続きません~




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