残した印

 日記から落ちた便箋を手に取り、僕は開いた。

 深呼吸をして心を落ち着かせ、読むことにした。



『この手紙を読んでいるってことは私は春樹の側にいないんだよね。春樹には謝らないといけないことがいっぱいある。まず、涙解離性障害のことについて。日記を読んでるならわかると思うけど、旅行に行った日ぐらいから、治ってた。でも春樹に言う勇気は出なかったの。春樹が遠くに行ってしまう気がして怖かった。騙してたわけじゃないよ、私に勇気がなかっただけ。これは内緒の話。治ったのが分かってから私は春樹に何回も泣かされてるんだから!春樹は無意識に人を泣かせるから罪な男だよ。だからこそ、結婚することになったら、奥さんを大切にしてあげてね!

 それと転校のことは本当にごめん。多分春樹がこれを読んでいる時は、まったくちがう場所で過ごしていると思う。助けを求めなかったのは春樹を信用していなかったってわけじゃないよ。逆に春樹を信じすぎていた。春樹はきっと、私が助けを求めたらどんな手を使ってでも助けるでしょ?(過大評価しすぎかな?^_^)自分のことより、他の人を第一に考えている春樹だからこそ言い出しにくかった。春樹には変なところで道を踏み外さずにしっかりとした人生を送って欲しいからね。あ、それと担任の先生がいいこと言ってたよ。秒針がなんちゃらって。春樹にも同じこと聞かせてあげてって頼んだいた!んー、業務連絡はこんな感じかな。

 ちょっと昔話をするね。中学校三年生のときに私たち病院で何度か会ってるんだよ?気づいてた?(笑)。

 「この人と話してみたい!」ってずっと思ってたの。そこでちょっとズルだけど看護師さんに春樹がどこの高校に行くかを聞いたの。思ってたより頭良かったからめちゃくちゃ勉強頑張ったよ(泣)。だから同じ高校にいるのは偶然じゃなくて必然なの!(笑)。一年生の時は勇気が出なかったけど二年生になって同じクラスになったから嬉しかった。実際話してみたら、思っていたより理屈っぽくてめんどくさいところばっかりだったけど(笑)。でもそんな春樹が私の人生を彩ってくれたの。私の面白くなかった人生を楽しくしてくれたのは春樹なの。私は春樹のことが本当に好きだったんだと思う。友達としても、異性としても。でも私たちはもう会えないと思う。だから私のことは忘れてください。忘れたくなくても、忘れてください。最初からこうなる運命だったんだと思う。だから、忘れてね。君の人生という物語から私を捨ててください。ずっと楽しかったよ。本当にありがとう。私と仲良くしてくれてありがとう。私を叱ってくれてありがとう。私をまだ覚えててくれてありがとう。本当に本当にありがとう。ありがとうよりごめんね。

 そしてこれが最後の言葉。


秒針をどうするかは君に任せるよ』


 長く書かれた文字はこの言葉で終わっていた。

「どっちだよ」

そう静かに笑った。

 目から涙が溢れようとしている。

 だめだ。青葉は忘れろと言っていたけどそれはできない。僕の人生は彼女がいないと成り立たないから。

 「だめだ、忘れるな、やめろ、やめてくれ、これだけは忘れたらだめなんだ」

そう言い聞かせるが体は言うことを聞かない。

 あぁ、ダメだ。

「青葉‥‥、ありがとう」


気がつくと、目の前に見覚えのない手紙とノートがあり、紙に一滴の涙が落ちていた。綺麗に書かれた文字の最後に一輪の花が描かれていた。


「??、なんでパプリカ?」















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る