雨模様

 翌日、教室に入ると多くの視線を感じたがそんな視線を気にもかけずに自分の席に着いた時に視線の本当の意味を知った。

 窓際にあるはずの青葉の席がなかった。チャイムが鳴り始めたが青葉の姿もない。

 扉が開き、担任が少し暗い顔つきで入ってくる。教壇から生徒を見渡すと重そうな口を開いた。

「夏城さんのことなんだけど‥、転校しました。」

喉に鉛が詰まっているかのように声が出なかった。クラスメイト各々が喋り、教室がざわめいている。

 スマホを取り出したがunknownと表記してあった。

「保護者の方の転勤だと聞いています」

青葉は1人で暮らしている。だからそれは無いと思う、なにより転校なら僕に言うはずだ。

 担任が話している途中だったが、走って外に出た。名前を呼ばれたがその声はどんどん小さくなる。自分でもおかしなくらいに足が動いた。これも青葉が教えてくれた走り。

「なんでだよ‥」

 


 青葉の家に人の気配がなければ、表札すらなかった。チャイムを押すが応答はない。崩れ落ちそうな身体を支え、アパートを出だ。

 太陽から僕を隠すかのように雲が覆い、強く激しい雨が降り始めた。降り注ぐ雨に抵抗することなく、僕は膝から崩れ落ちた。

「なんで‥、お前もそうやって消えていくんだ‥」



 

 次の日、僕は家で静かに過ごしていた。学校があるはずだった今日はもう夕方になる。特に何かをすることもなく、1日を終えようとしていた。テレビでボーリング場が映った。これも青葉と一緒にした。どこに行っても、何をしても青葉が浮かんでくる。『好きな人』ではなく、『親友』としての青葉は、ずっと近くにいると思っていた。

 おかしな話だ。こんなに悔しいのに、涙や怒りが湧き出てこない。たったそれだけの思い出だったということだったのか。それとも体が強い思い出を無くさないように反射的に抑えているのか。

 考えていてもしょうがないと思い、スマホを手にすると着信があった。見覚えのある番号だった。

 青葉叔父だ。

 そうだ。何故思いつかなかったんだ。青葉叔父に聞けばいいんだ。僕は電話をかけなおしたら青葉叔父はすぐに電話に出た。

「春樹くん」

詳細を聞こうと口を動かす前に青葉叔父の声が聞こえた。

「青葉ちゃんのことは何も話せない」

心を読まれたかのように感じた。

「どうしてですか」

「青葉ちゃんの父親から話すなと言われている」

青葉の父親‥。確か仕事人間だと聞いていたが父親が関わっているとは思わなかった。いや、でも

「でも、青葉の気持ちをもっ‥」

「これは青葉ちゃんも了承している」

さえぎるように青葉叔父が話した。青葉も了承している‥?疑問が膨れ上がっていく。

「な、なんで‥」

長い沈黙があった。僕は気が気ではなかった。完全に自分を見失い、何も考えられなくなっていた。

「はぁ、青葉ちゃんには言うなと言われてたんだけど」

長い沈黙の中、青葉叔父が喋り出した。

「なんですか?」

「青葉ちゃんが転校した理由は、学校から『青葉ちゃんがいじめにあってるんじゃないか』と父親に連絡が行き、それを心配した父親が転校を勝手に決めたらしい」

「でも、それじゃ‥」

それじゃあ、青葉の意思はどうなるんだ、と言おうとしたが声が出ない。

「青葉ちゃんがどこにいるかだけは強く言われている。だから言えない。けど青葉ちゃんからの伝言はある」

「青葉から伝言?」

「『担任に、日記を渡しておいた』って言ってたよ。その調子じゃ、今日学校には行ってないね?」

日記には、青葉の気持ちが書かれているかもしれない。僕には言えなかった理由が書いてあるかもしれない。

「ありがとうございます!」

そう言い、僕は電話を切り、制服を着て外に出た。

















 

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