思い出

 病院を出た時、太陽はまだ東に少し傾いていた。この時間帯なら昼には学校に行けるだろう。少し鬱になりそうになるが気をしっかりし、自転車に乗り学校へと向かう。

 昼休みの時間に高校につき、2年5組の教室を見つけドアを開けた。複数の生徒が僕に視線を集めたがすぐにその視線は元の場所へと戻っていく。

 クラス替え後の初の授業日とはいえ、グループはある程度決まっているようだった。後ろに張り出されている席順の紙を少し眺めて、自分の席に座り、本を出した時

「解離なんちゃら障害なんでしょ」

「なんか変な雰囲気だよね」

「少し可哀想」

などと言った言葉が聞こえてきた。すべて自分に向けられているのだとすぐに分かる。

 僕は涙解離性障害という病気だ。

 学校にはそのことを伝えている。

 涙解離性障害は記憶喪失と少し似ている。一部分の記憶を失うのだ。記憶喪失は頭に衝撃などが与えられた時になるらしいが、涙解離性障害は違う。「悲しみ」「怒り」などの感情が顔や態度などに出てしまった時、その物事を忘れてしまう。人によって異なるらしいが、僕の場合は悲しみは「涙」怒りは「殴る」「蹴る」などのことをした時にすぐあらわれる。例えば、桃にイライラし、桃を殴り飛ばしたら、桃に関する情報をすべて忘れてしまう。これが涙解離性障害。いつ、何が原因で治るかは分からない。いつの間にか治っていることもあるらしい。

 友達などがいる場合、ケンカをしたら終わりだ。だから僕は担任の柴田先生に「上里にあまり関わらないように」と朝のホームルームで生徒に言ってもらった。自分のことを忘れる友達なんて、みんないらないだろう。そうすることが皆への配慮。

 なにより、自分の自己満足だ。

 

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