第13話 VSヤメーメ族!


「か~、こいつら強そうだなぁ。 筋肉が凄いぞ」

「で、で、出たーっ! ヤメーメ、ヤメーメ族だっ!!」

「師匠も本当に凄い人だよな。コイツらと素手で戦おうってんだからな」


 バルカスは驚いて尻餅を付きながらも、手足をバタつかせて後方に逃げようとする。


 それを見たウェインは驚く。


「師匠、変わった戦法だな!? よし俺もやるぞ!」


 ウェインもバルカスの様に尻餅を付いてから、手足をバタつかせて後方に進む。


 それを見たヤメーメ族達は驚く。


「スワリヒ、テイマン、ヤラセイロ!?」

「スワリヒ、スワリヒ!!」


 現地語なので、ウェイン達は彼らが何を言っているか分からなかったが、バルカスの戦法が効いているとウェインは勘違いした。


「流石師匠だな! こいつらビビってるぞ!」


 ヤメーメ族は、恐る恐るウェインやバルカスのそばに近づく。

 やがて、ウェインやバルカスの顔近くには、鋭く尖った槍が突きつけられた。


「ひ、ひいいぃぃいいーっ!!」


 2人は5人のヤメーメ族に追い詰められた。

 恐怖したバルカスは、そのままの姿勢で加速して後方に逃げる。

 それを見たウェインも真似して、後方へと進む。


 すると、ウェインの懐から、先ほど捕まえたカブトムシがぽろっと落ちた。

 落ちたカブトムシに気が付いたヤメーメ達は、驚愕の表情を浮かべる。


「ウンポコ・モコミチ! ウンポコ・モコミチ!」

「モコミチ・ウンポーコ!!」


 ウェインは彼らをじっと見つめる。


「ん、何だお前らもカブト好きなのか? 欲しければやるぞ?」


 ウェインは懐から地面に落ちたカブトムシを拾い上げ、ヤメーメ達に渡してやった。


「オウっ!?……トゥモ・ダチンコ!」


 何やらヤメーメ達は喜びの表情を浮かべ、ウェインに抱き付いて来た。


 そう、実はヤメーメ族にとって、カブトムシは最高の「おやつ」だったのだ。


 最近では密猟者が大量にカブトムシを取っていくので、殆ど捕まえられずにいた。


 そしてカブトムシをプレゼントするという事は、古来より最上級の「友達の証」とされて来たのだ。


 ヤメーメ族は、まさにウェインを友達だと認めたのだった!


「あ、あそこにもいるぞ!」


 ウェインは5メートルばかり離れた大木に、カブトムシがいるのを見付け、猛ダッシュで捕まえに行く。


「ほら、これもお前らにやるぞ!」

「オウっ!?……トゥモ・ダチンコ!」


 ヤメーメ族達は大喜びで、再びウェインを抱きしめる。


「な、な、何だ!? 一体どうなってるんだっ!?」


 バルカスはヤメーメ族達と仲良くしているウェインが信じられなかった。


 やがてヤメーメ族達はウェインとバルカスの手を引っ張って、どこかに連れて行きたそうな素振りを見せた。


「ど、ど、どこに連れて行こうと言うんだ!?」

「うーん、コイツらもしかして、昼飯でもご馳走してくれるんじゃないのか?」


 ウェインとバルカスは、ヤメーメ族達に案内されるがまま、急な斜面を歩き続けた。



♨♨♨



 1時間ばかり歩くと、山の頂上付近にあるヤメーメ族の集落らしき場所にたどり着いた。


 門番らしき人物と、ウェイン達を連れて来た男達が何やら話し合っている。


「トゥモ・ダチンコ!!」


 門番はそう叫ぶと、ウェイン達を歓迎するような笑顔を浮かべ、集落の中に招き入れてくれた。


 やがて2人は、集落の奥にある大きな広場に案内された。

 集落はほぼ山頂にある為、広場からは辺り一面の景色が見渡せた。


「す、すげえ! 師匠、俺はこんな素晴らしい景色は、生まれて初めて見たぞ!」

「これは凄い! 勿論私も初めてですよ、ウェインさん!」


 2人は海や山々、そして自分達の暮らす陸地を見下ろして、感動に包まれていた。


「友達よ、ようこそ、いらっしゃったな」


 景色を見渡していた2人に、ヤメーメ族の老婆が話しかけて来た。


「俺達と同じ言葉を話せるのか!?」

「はい。昔は陸地の民族達と交流がありましたからな。まあ、今では私と族長の家族くらいしか話せませんがの」


 バルカスは、自分達と同じ言葉を話せる老婆を見て、胸を撫で下ろした。


「あ、あの、その、私達は無事に帰して頂けるのでしょうか?」


 バルカスは恐る恐る老婆に尋ねた。


「無論です。カブトムシを与えるという事は、友好の証。私達ヤメーメはあなた達を歓迎いたしますぞ」

「そ、そうですか! それを聞いて安心しました!」

「とりあえず、今晩はこの集落にお泊まり下さい。族長もあなた方と話したがっておりますからの」

「そうか、悪いな婆さん。じゃ世話になるよ!」

「どうぞ、ごゆるりと。自然の恵を堪能下され」


 ウェインとバルカスは老婆に勧められるがままに、大自然を満喫した。


「か~、癒されるな師匠! まさに大自然の恵だな」

「そうですねぇ。苦労して登山して来た甲斐が有りますね」


 この時ばかりは、バルカスもギルトンのからの依頼を忘れて、自然を楽しむ事が出来た。


「よし、決めたぞ! 俺はこの山にキャンプ場作るぞっ!」

「ほう、それはいいですね。(またバカな事を言ってるな)」

「近代化で疲れた奴は、きっと癒されるはずだぞ?」

「なるほど。(3時間のハード登山なんて誰もしねえよ!)」


 そうこうしている内に日は暮れて、夕食の宴に彼ら2人は招待されたのだった。


 集落の広場には大きな焚き火が置かれ、それを囲むようにヤメーメ族が集まって、2人に部族の踊りを披露してくれた。


 すると、ウェインとバルカスの前には、オオトカゲの丸焼きやカブトムシの素揚げなどが置かれた。


「さあ、親愛なる旅人よ! 我らのもてなしを存分に楽しんでくれ!」


 ヤメーメ族、族長トシミテは、酒の入った器を高々に掲げた。


「ウンポコ・ルーヤ!!」

「「ウンポコ・ルーヤ!!」」


 ヤメーメ族達は手に持った酒を飲み干していく。

 ウェインとバルカスも、それを飲み干すが、相当アルコール度数が高いのか、バルカスは激しくえづいてしまった。


「さあ、あんたらの見付けたカブトムシも食べてくれ! これはヤメーメでは最高の珍味だぞ!!」

「は、はあ……ありがとうございます」

「ん? どうした食わねえのか!? ヤメーメでは相手のもてなしを堪能してこそ、友情の証となるんだぞっ!?」


 族長は目玉を見開いて、悪魔の様な形相でバルカスを睨んだ。


 バルカスはどうしてもカブトムシが食べられずにいたが、族長トシミテの物凄い圧力に押されて、恐る恐るそれを口に入れて噛んでみた。


「どうだ!? 旨いだろう!?」

「は、はい。……カ、カブトムシの味がします」


 族長は満足そうにバルカスを抱きしめた。

 そして彼は、今度はカブトムシをウェインに勧めた。


「そっちの兄さんも遠慮なく食べてくれよ!」

「ん? ああ、カブトムシは流石に食えねえだろ。族長が食ってくれよ」

 

 ウェインはカブトムシを摘むと、それを族長の口に運んでやった。


 すると、見る見るうちに、族長の顔色が凍り付いていく!


「き、貴様~!! ヤメーメのもてなしを返すと言うのか!?」



 バルカスは思った。


 や、ヤバいっ! せっかく仲良くなれたのに!!

 何でこの男は、我慢してカブトムシ食わねえんだよっ!?

 俺だって我慢して食ったのに!


 こ、殺される!

 コイツらヤメーメ族は人喰い人種なんだ!

 殺されて喰われてしまうに違いない!!



 バルカスはまたしても、死に直面するような試練を迎えていたのだった。


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