第10話 師匠ネビルガ

 それは突然であった。

 老人は涙を流す。永遠と思えるくらい泣き続けている。

 僕も思わず貰い泣きをしてしまい嗚咽を上げる。

 自分が1人ではない事。相手が1人ではない事。

 きっと目の前の老人は独りぼっちだったのだろう。

 

  

 敵から自分を守るというより、この屋敷の仕組みは自分と同じ仲間を見つける為であったのだから。彼は必至で仲間を探していたのだから。



「わしはネビルガ、年齢は60歳くらいの爺じゃ、お主は?」

「僕はジェイク、年齢は15歳、もっと強くなりたいからあなたの弟子になりに来ました」

「あたいはネイリ、30年間人形であったけどご主人様が助けてくれました」


 

 3人はこくりと頷き。



「わしは師匠のような存在ではないが、ポイントの使い方については教える事が出来る」


「はい、よろしくお願いします」


「あたいは何が出来るの?」


「ならそこのネイリさんはご飯を造ってほしい、わしがご飯を作ればいいのじゃが、ちと指導に集中したくてな」


「任せてください、ご主人様にはネビルガ様にも美味しいご飯を提供しますわ」



 ネイリが腕まくりをしながら台所にいなくなると、ネビルガがこちらにやってくる。


「あの部屋にいくぞ」

「はい」



 2人は無数にある豪華な部屋の1つに入った。


「ここはわしが考え事をする場所なんじゃ、まずはポイントの使い方じゃ、最初のポイントの10万ポイントはすぐになくなるから50万ポイントに溜まるようにポイントを消費する必要がある。しかしお主はポイントが少なすぎる。何度も使用しているのだろう」

「師匠は僕のポイントを見る事が出来るのですね」

「そうじゃ、これも鑑定の力じゃ、さてポイントを上昇させるには時間経過が必要とされるが、それは認識の違いじゃ、時間が凄い経ったと誤認すればそれだけのポイントが上昇する。よってめちゃくちゃ集中さればいいんじゃ」


「それってどういう事ですか?」

「お主は魔法スキルで炎と水と回復魔法を学んでいる。しかもSランクじゃ、知っとるか、最高位の習得をしてもそれを上手くコントロールするテクニックがないと意味がないのじゃ、お主が出せるのはきっとドラゴン関係の魔法じゃろう?」

「はい、そこまで」

「それが一番初歩中の初歩なのじゃ」

「あれが、初歩だったんですね」



 ジェイクは唖然としてる。

 あの強大な魔法、ドラゴンの炎そのものが一番の初歩中の初歩だったのだから。

 余りにも信じられない話に唖然としていると。



「この部屋は全てを投影する。目を瞑り、どこにいたいかを想像する。魂そのものがそこに導いてくれる。そこで魔法使う集中をしまくれ、そしたらテクニックを学びつつスキルポイントも上昇するという事じゃ」


「なるほどです」

「わしは天の声となって助言しよう」

「助かります。なぜ師匠はここまでしてくれるのですか? 本当はめんどくさいのでは?」

「さっきも言ったかもしれんが、わしはお主と同じだ。わしは孤独じゃった。いつかくる仲間に技を伝授する為に頑張った。お主がわしの生きがいになろうとしている」

「はい、凄く嬉しいです」



 かつて同じ事を言われた。

 彼は村長であり、あらゆる武術を学ばせてくれた。

 村長はある時言った。お主がわしの生きがいだと。



 目をかっと開くと、そこは森そのものであった。

 そこは村そのものであった。

 そこはアーバン村という故郷であった。


 村長が1人でこちらを見ている。


 彼はにやりとほくそ笑んだ。

 そこに村長の頭脳が存在していない自分が作り出した幻影だと悟る。



「それでもあなたを超えたい、強くなりたいんです」


【奴は、レーガンティアではないか、おぬしの村長はレーガンティアなのか?】

「それはどういう事なんです?」

【レーガンティアとは神に認められた最強な戦士の事、わしの大事な仲間じゃった。孤独なうえで、唯一の仲間じゃった。レーガンティアは生きているのだな、あの神の戦いで死んだと思っておったが】


 レーガンティアの意味は分からない、だけど村長はそれなりに凄い人間である事が明白になった。

 

【では最初に炎の魔法を取り出せ、レーガンティアはお前に攻撃しない、翻弄したり避け続けるだけだ。奴の仮の分身がこちらに干渉出来ないからじゃ】


「はい、師匠」



 どうやらジェイクには2人の師匠がいるようだ。

 それがレーガンティアという村長とネビルガという先輩であった。



 炎の魔法を炸裂させる。

 それはドラゴンの形を取りとめる。



【そこでもっと集中してドラゴンをさらに狂暴にさせる。すると】



 イメージする。ドラゴンをさらに狂暴にする。

 するとドラゴンの頭が3つに分離した。

 次にその3つの頭から光線のような炎が吹き飛ぶ。

 もちろんレーガンティアの村長は軽々しく避けているが。



【最初は旨くいくものだ。今の集中でスキルポイントが一気に上昇したぞ数千くらいか】

「そこまで上昇するのですね」

【ようは時間の認識の違いだ。よくあるだろ時間を沢山消費しても気付かなかったり、時間が長すぎると思ったら短かったり、そういう原理らしいぞ】


 

 それからジェイクはひたすらレーガンティアとなった村人を炎魔法で炸裂させ続けた。

 その攻撃がヒットする事はない、必ず避けられるのだから。


 

 いつしかMP切れになるものだと思っていた。

 しかし一行にMPは無くなる気配はない。



【この世界は精神世界みたいなものでな、MPは消費されないから安心して魔法を炸裂させ続けてくれ】

「はい」


 このネビルガという師匠は突然現れたジェイクにこんな修行までさせてくれる。それはとても信じられない事だ。人間というのはある程度相手を疑う事から始まるものだ。

 なのに彼はこちらを疑う事もしなかった。

 ジェイクが豪華な屋敷と認識しただけで、ここまで信頼する。


 

 きっとそれはネビルガの認識の違いなのだろう。

 彼はこちらが同じスキル持ちだと認識した事により絶対に信頼出来ると思ったのだ。

 そう言う所のメリハリが付いていたのだ。


 

 ついに数時間が経過していた。

 だが現実ではどのくらい経過しているか分からない。

 沢山のドラゴンが四方に散り散りになる。


 数えきれない無数のドラゴンがレーガンティアを捕える。

 レーガンティアの村長は粉々になり、それが連鎖すると、次から次へと分離した小さなドラゴンの炎が爆発する。



 そこら一帯はあっという間に炎の海となった。


【すごいなぁ、合格だ。次は水だ】



 かくしてまだまだ修行は終わりそうにない。

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