第10話 不思議ちゃんの思考パート2

「・・・えーとっ、黒糖でもいい?」

「別にいいですよー」


 今、僕と先輩は平凡坂のエキナカにあるマイスドにいる。

 僕は昨日の先輩との約束である「先輩を100円で買う」というのを『リング・デ・ポン』を1個買うという形に変える事を先輩に提案し、それを先輩も受け入れた形だ。要するに、お金のやり取りをしたくなかったから別の提案をしたに過ぎないけどね。

 ただ、先輩に「どうせなら、ここで食べて行かない?」と言われたから、伊勢国書店からマイスドに直行したのだ。


 僕はちょっと早いけどお昼ご飯のつもりでいたから、オールファッションとフレンチルーラーに加え、ホットドックをトレーに乗せた。

 でも・・・先輩のトレーに乗せられたドーナツを見た僕は目が点になった!

 普通の『リング・デ・ポン』だけでなく、ストロベリー、抹茶、きな粉、ショコラ、ダブルショコラと全て『リング・デ・ポン』じゃあありませんかあ!これに黒糖を加えたら、7個も『リング・デ・ポン』を食べる気なんですかあ!?

 そんな先輩は僕がジロジロ見ている事に気付いたようた。

「・・・並野くーん、これ、全部食べる気はないよー」

「へっ?」

「ここで食べようと思ってるのは3つだけ。残りの4個はテイクアウトだよ」

「はーー、そうですよねえ」

「あれっ?その口ぶりだと、私が全部食べるとでも思ってたの?」

 そう言うと先輩はニコッと微笑んだから、それだけで僕はお腹満腹です!最高のお昼ご飯です!

「あらあらー、並野君のその顔だと、どうやらビンゴみたいですねえ」

「違いますよー。お姉さんとかー、お母さんの分も買ってるんですよね?」

「あれあれー?なのにー」

「はあ!?」

 僕は先輩の予期せぬ言葉に思わず間抜けな声を出してしまったけど、当の本人は相変わらずのスマイルスマイル!何だこりゃあ!?

「まあまあ、私に色々と気を使ってくれるのは嬉しいけど、気疲れすると損だよ」

「そんなモンなんですかねえ」

「そうそう!こういう時こそマイペースよ!!」

 先輩は右手をビシッ!とばかりに上に突き上げたけど、ホント、先輩はハイテンションすぎて僕はついて行くのが精一杯ですー。

「それじゃあ並野君、君のトレーに黒糖を乗せておくよー」

「はいはーい、これは僕が払っておきまーす」

「頼んだよー」

 先輩は僕のトレーに『黒糖・デ・ポン』を乗せると、そのままレジに歩いて行ったから、僕も先輩と並ぶようにしてレジに行った。


「・・・お待たせいたしましたー。お召し上がりですか?それともお持ち帰りでしょうか?」

 マイスドの女性店員、まあ、ほぼ間違いなく高校生か大学生のアルバイトだと思うけど営業スマイル全開(?)で僕と先輩に聞いて来たけど、僕は全部イートイン、先輩は2つのショコラをイートインで残りはテイクアウトにするようだ。

「お飲み物はいかが致しましょうか?」

 僕はカフェオレにしたけど、先輩は僕と違ってブレンドコーヒーのようだ。

「ミルクとお砂糖はこちらからご自由にお持ち下さーい」

 女性店員はそう言うと右手でレジの横にあるスティックシュガーとミルクを指差したけど、僕は最初から何も入れる気はないから取らなかった。

 でも・・・先輩はミルクを6つ!それとスティックシュガーを4つ!!右手で取ったかと思ったらトレーに乗せるじゃあありませんか!一体、どれだけの甘党なんですかあ!?

 そんな僕の戸惑いを知ってか知らずか、先輩は窓際の席に座ったから僕も先輩の向かいの席に座った。

「・・・それじゃあ、遠慮なく貰っちゃいまーす!」

 先輩は僕の皿から『黒糖・デ・ポン』とサッと取ると自分の皿に移して上機嫌だ。あまりにも無邪気な笑顔だから、僕の方が癒される気分ですけどね、はい。

 先輩はニコニコ顔のまま、スティックシュガーを1本、コーヒーに入れた。

 でも僕は正直、先輩が2本目のスティックシュガーを入れるとばかり思っていたから、その先輩が次にミルクを手に取った時『あれっ?』と思ったくらいだ。何のためにスティックシュガーを4本も持って来たんだあ!?

 先輩は僕の戸惑いに気付いてないのか、ニコニコ顔のままミルクをコーヒーに入れた。まあ、これ自体は別に珍しくはないが・・・2つ目のミルクも入れ始めた!おいおい、ここで2個も使うなら、最初からカフェオレにしても良かったような気がするんですけどお・・・

 先輩はミルクを2つ入れ終えたらスプーンで軽くかき混ぜ、そのまま左手でカップを手に取った。ちょっと猫舌なのか『フー、フー』と冷ましているのがちょっとだけ面白い。


「・・・並野君、私の顔に何かついてる?」

 僕は先輩の顔をあまりにもマジマジと見ていたから、さすがに先輩も僕の視線に気付いたようだ。

 僕はちょっと『ドキッ』としたけど、「あー、いや、別に」と言ってカップに手を伸ばした。僕はマイスドではカフェオレと決めてるから、別に何も入れる気はない。WcDワクドナルドだったらブレンドコーヒーにミルクを入れるけど、カフェオレなんだから別にミルクを入れる気はないです、はい。

 その先輩はコーヒーを少しだけ飲んだかと思ったらテーブルにカップを置き、右手をスティックシュガーに伸ばした。僕は内心『あー、やっぱり甘さが足りないのかなあ』と思ったけど、先輩の行動は僕の予想を超えていた!


 先輩はスティックシュガーの袋を破ったかと思ったら、グラニュー糖を3つの『リング・デ・ポン』にサラサラッとかけ始めたではありませんかあ!!しかもショコラを手に取ると、グラニュー糖がタップリ乗ったまま口の中に入れた!おい、マジかよ!

 普通に人間だったら甘すぎて逆にゲッソリしそうだけど、先輩はさっき以上のニコニコ顔でショコラを口に運び続けるから、あっという間にショコラは無くなってしまった!しかもショコラを食べ終えたと思ったら、残ったコーヒーを一気に飲み干し、そのまま立ち上がるとカウンターに向かった。


「・・・すみませーん、コーヒーのお替りをくださーい」


 せんぱーい!何を考えてるんですかあ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る