第12話 RE:Contact-11 決死ノ”ハプニング”ニ対処セヨ
〜 ……ギュゥゥゥゥンッ! ……キキィィィィィッ! 〜
「……ニャァ……ニャァ……ニャァ……ニャァ……」
――何とも
毎度、消失マジックの如き速さで駆け抜ける彼女であったが……どうやら、ボスを”ウルエナ”から助け出した時よりも、
「……ニャァ……ニャァ……ニャァァァァ……疲れたぁ……」
――大分息が整ってきたのか、上を向いて深呼吸らしき”長い息”を
ボスを引きずって走った時と言い……彼よりも重い筈の薪を山のように背負って歩き続けた時と言い……中々に彼女の”疲れる基準”と言うのが謎である……!
だが、今はそんな事よりも大事な事があった……ッ!
〜 ……キョロッ、キョロッ……! 〜
「……ここドコ……?」
――あたかもロボットのように、
……彼女が感じている気温は、彼と一緒にいた時と
「……まぁ、いいや。
それよりも……ボスに認められるように、強く……!」
……と、
「……強く……強くって、どうなればいいんだ……?」
……と、急に目を点にしてほけてしまうオルセット……。
……だが、一応言わせて欲しい。私に聞くなと……ッ!
「えぇっと……強くなるには……マモノを……タオす……?」
――そう言って、頭上の”ケモ耳”をピクピクと動かすオルセット。
おっ! これは、魔物を探知して”
〜 ……ガクガクブルブル……! 〜
「……むっ、ムリ! ムリムリムリムリィィッ!
やっ、やっぱ……”オクビョウ”なボクじゃあ……!」
……ウルエナにプロサッカー選手張りの”シュート”を喰らわせたと言うのに、この
「……まっ、マモノをやっつけるのがムリなら……ムリなら……」
――そう言いつつ、しゃがんだまま頭を
「……あっ、アレッ? だっ、ダメだ……分かんない……!
強くなる方法が分かんない……ッ!」
――ボスの前で「世間知らず」を連発し続けるようでは、ある意味当然である。
「
「どっ、どうしよう……! どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……ッ!? 分かんないまま、分かんない所に来ちゃったよぉぉ……!」
――ようやく自身の”無鉄砲さ”に気づいたオルセットは、更に身を
しかし、この時彼女にとっては”アイザック・ニュートン”が、
「そっ、それに……! ひっ、
ぼっ、ボクからなっちゃってる……! ボスにヒドイ事も言って……!」
――イヤ……そんなに”バカ”だのなんだのは、言ってなかったが……。
しかしながら、ハッキリとはしてなさそうではあったが……ボスに
〜 ザザァァ…… 〜
「……ヒィッ!?」
〜 ……ギシギシギシギシギシ…… 〜
――風がなびき、無数の葉のない枝達が
「もっ、戻らなきゃ……! 早くボス達の所に戻らなきゃ……ッ!」
――そう言うや
だが、この後は「あっ、かっ、帰り道が分からない……!?」……と、更に”
しかしながら残念……ッ! 彼女の種族に由来するであろう”
……ただ自身の
「……にゃ、にゃ……! ……ニャックシュッ!」
――とは言っても、余裕……と言うか
ただ
拭き取った手を、地面に向けて軽く2回程振り払った後……既に頭は冷え切っていたが、ようやく拭き取った手に握っていた物にも気づいたようであった……。
「……あっ、ボスに返し忘れちゃったなぁ……」
――そう言って見つめる
その証拠に、挙動不審に周囲を見渡しつつ……時たま地面の足跡を確認する他、常に彼女は
時折、「……ウェェェッ!? クサッ! ゴブリンの
「ハァァァァッ! クッソッ! ロォックな
――
「おい、そんな苛つくなよ……。せっかくの獲物が逃げちまうぞ?」
「そんなのが、さっきから
「……近くで叫ぶなよ……耳がイカれちまうって……」
――こんな”不毛な森”に人とは珍しい、冒険者だろうか……? ……と、私なら考える。だが、オルセットはそこまで考える事もなく……何となく木の幹から僅かに顔を乗り出し、ビクビクしながらもチラリと様子を
……どうやら、彼女が
片方の男は、地味な色合いのベストを”上半身裸”の上で着ていたり……もう片方の男は、”チェニック風のシャツ”などキチンとした衣服を身に纏っていたが、どれも”ボロボロ”であったり……二人が持つ”
それに極め付けは彼らが漂わせている”匂い”だろう。
伸び放題な
流石にここまで”悪臭”や”汚れ”に
「しっかしよぉ〜?
何でオレらはこんな危険でシケた”アジト側”で、探さなきゃならないんだ?
食料調達なんて、東側の森の方でワンサカ取れるんだし……それにやろうと思えば、
「バカヤロウ! 声を抑えろって!
気持ちは分かるが、もしこの近辺を”冒険者のヤロー共”が
「来る
それに最近じゃあ、とんとその姿を見せてねェだからバリャあしねェよ!」
「……ハァ、だと良いんだが……」
――「……カモになる村? 何、あのクサイニンゲン達……?」
……
「にしてもよぉ〜、こっちで獲物が取れた覚えなんてほぼないだろ?
こんなとこ探していて、なんの意味があるって言うだよ〜?」
「バカヤロウ、”団長”の話を聞いてなかったのかよ?
最近、
「……そんなのあったかぁ〜? ”お
「……おい、新入り! ちゃんといつでも”団長”って言うようにしとけ!
どっかで聞かれでもしたらオマエ……ブチ殺されるぞッ!?」
「……おっ、おう……ワリィ……」
――流石に、この脅しは効いたのか……”片手斧の背”で”肩叩き”する事で、苛付きを表現していた”新入り(?)”は、一瞬
「
後、せめて”ワリィ
「うっ……ウッス……」
「……で、話を戻すが……オマエは何処まで聞いていたんだ?」
「……スンマセン、多分……そん時は酔っていて……」
「……全く……。いいか、特別にもう一度聞かせておいてやる。
昨日、夕方頃に西側の森の入り口近くで
「ヘェ〜! 大量じゃあないですかッ!? そいつはラッキーですねェ!
ここいらじゃあ、ゴブリンばかりで”コーカサス・ボア”なんて
「……まぁな。ウルエナは
「……仕留めてあった?」
「あぁ、ご
それに、普通なら”六頭ものウルエナの群れ”に囲まれたら、熟練の冒険者一行じゃあない限り……速やかに撤退しなきゃいけないってのを、仕留めたのにだぜ? オマケに”魔石”も抜いていないマヌケと来た……」
「ソイツはもったいねェ……。
あんな”破裂するモン”、危なっかしくても売れば”粒銀貨一枚”ぐらいにはなるってのになぁ……」
「だよな〜? 世の中、物好きは居るってのになぁ〜?
けどなぁ? 問題はそこじゃあない。その”獲物”らの
――「……仕留め方?」「……シトめカタァ?」
……奇妙にも、オルセットとベスト男の発言が重なる……。
「持ち帰った後、調理当番の奴らが肉を
「……キン◯マァ……ッ!?」
――失礼、”
「おい、だから声がデケェって!
”変な事”を想像してないで、もうちっと静かに反応しろよッ!?」
「う、ウッス……! スイヤセン……」
「……ったくもう……でだ。
話は戻るが、”取り出した球”と一緒にその”獲物供の事情”を団長に話したら、団長がこう言ったんだよ……! 「その武器を使った奴を探してこい」……って」
「ッ!?」
――”ボア”と”ウルエナ”辺りの下から「もしかして」……と思っていたオルセット。
だが、直近でボスの”
「……武器? 何でお頭は、”武器”だって分かったんッスか?」
「……ハァ……」
「……?」
「いや、何でもない。何でもないが……考えなる間も無く分かる事だろ!?
矢傷じゃあないが、傷にその”金属の球”が入ってたら何となく察しは付くだろッ!?」
「いやぁ……分かったッスけど……。
何で……何で、お頭はその武器を欲しがってんでしょうかねェ……?」
「……察しの悪い奴だなぁッ!?
いいか? 討伐に苦労する”ボア”や”ウルエナ”を
「ッ! 取立ててもらって、騎士団入り! そして、戦争で大活躍ッ!
だから、その武器を持った奴を見つけて……ブッ殺す!」
「「そして、その武器を奪うッ!」」
〜パンッ!〜
――興に乗ったかは知らないが、何故か度し
「やっと分かったか、新入り……!
だから気合を入れて探せよ? こんなシケた生活を続けたくないだろう……?」
「勿論ッスよッ! 兄貴ィッ! 気合入れて探しやしょうッ!」
「良しッ! そうと決まれば……!」
〜 ……グゥゥゥゥゥ…… 〜
……”腹の音”も興に乗ったかは知らないが、二人同時にタイミング良く……二人のやる気を
「……が、まずは飯になる獲物を探さないとな……」
「……ソウッスネ……。
ここんとこ、”野草”と”少量の木の実”に”水”しか食べた記憶が無いっすからねェ……。あぁぁ……不味かったのに、あのウルエナの焼肉ががが……」
「おい! しっかりしろッ!?」
――覗いていた体勢から、再び身を隠す樹木へと背を合わせるオルセット……。
「……ど、どうしよう……!? 早く、早くボスに伝えなきゃ……ッ!」……とんでもない”偶然”に当たってしまった彼女だったが……”オツム”はまだまだ足りなくとも
しかしながら、彼女はすぐに行動を移せなかった……。
……道を忘れた? ……半分は正解だ。
そう、原因は先程述べていた”悪臭”……! あの”野蛮な男”達から発される悪臭が、彼女が辿っていた
じゃあ”足跡”を追えば? ……と思うだろう。
だが実は、現在の彼女の周辺には
それ故に、話を盗み聞きした後に気づいた後に彼女は”どうしよう!?”……と、若干
「……んっ?」
――さて、私が実況する間の数十秒……。
その間に、ほとんど時計の針が進んでいなかった”野蛮な男達”の片方は、以前に食べた”ウルエナ肉”の不味さか何かに”危ない視線”になると共に、現実逃避していた最中……”トアル物”に目が止まっていた。
「おい!? ちょ、ちょっと!? 本当に大丈夫か!?」……と、もう片方の男の心配を無視して
そして、着いたかと思えば……一心不乱にそこを掘り始めたのである……ッ!
「……おい、オレも”ウルエナの肉の不味さ”は解るけどな……?
人様の心配を無視して勝手に飛び出して
――呆れた態度をしながら、”新人(?)クン”に歩み寄ってきた”兄貴(?)”……。
「へへっ、何故だか知らないッスけど……オレはいつもこうやって……ホラ!
こういった土の山の下には、獲物がいる事を知ってるッスからね〜!」
「……そういえばお前、襲撃で良くヘマする割には……いつも”獲物”は獲って来てたな……」
――そう言う”新人(?)クン”が、掘った土の山前から退くと”兄貴(?)”はそこを覗く。
すると、そこには立派な
ただ、やはり異世界と言うべきか……その立派な角は、普通の鹿のような”枝状”に広がったものではなく、何故か”テレビのアンテナ”のように
「……おい、お前……コレ……!?」
――土の山の中にあった獲物を見た途端、”兄貴(?)”は何故か冷や汗をかいてしまう……!?
「へへ〜ん、どうっすか? スゴイでしょ〜?
腹の部分が喰われているとは言え、こんな立派な”パルト・ディアー”!
これで今日のノルマは……!」
「馬鹿野郎ッ!? お前はなんて事をしやがってんだよッ!?」
――
「なっ……何を言ってんすかぁぁッ!?」
「これはどう見ても”魔物の食い残し”だろうがッ!?
お前はいつもなんてモンを持ち帰ってきてやがるんだッ!?」
「まっ、”魔物の食い残し”……?
……狩った奴がたまたま持ち帰りきれなくて、埋めた奴なんじゃあ……?」
「お前の目はゴブリンかよッ!?
よく見てみろッ!? あの”噛み
――成程。確かに、”兄貴(?)”の言う通りだろう。
彼の言う”噛み
「……たまたまじゃあ無いっスか? 切れ味が悪かったとか……」
〜 スコンッ! 〜
「イッ……タァァァ!?」
――”兄貴(?)”の鋭い
「馬鹿野郎ッ! あんなゲロ不味い”内臓”を、
「あぁ……いや……そのぉぉ……」
「そんな”たまたま”が何度あってたまるかッ!
とっととこっからズラがるぞッ!」
――そういうや否や”新人(?)クン”をほっぽり、近くの茂みの方へと歩み出す”兄貴(?)”……。一方で”新人(?)クン”は痛む
「……そういえば、兄貴ィィ〜?
何で、そんな”カミアト”? の事が分かったんッスかぁ〜?」
――
「……ハァ……昔、仲間が
丁度、お前みたいな新人だった頃に……こんな状況でな……?」
「……ッ!? あっ、あぁぁ……あぁぁぁッ!?」
〜 ……ズッ、デンッ! 〜
――突然、青ざめた表情で「”兄貴(?)”の頭上の先」を見つめながら後退りしたかと思えば……急に
「ハァ……おい新人! 何してんだよッ!?
そこにヘタりこんでいないで、とっととそこの”食いカスの
「……あっ、あぁぁ……兄貴ィィィ! うっ、後ろぉぉぉッ!」
「はぁ? 後……」
〜 ……ブゥゥゥゥンッ! バッキャアッ!
ゴッ、ゴッ、コロコロコロコロコロコロ……ピタァ! 〜
「……あっ、あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁッ!?」
――だっ、誰も見ていなかった……!
い、一瞬であった……! こんな……こんな……ッ!?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
……殴り飛ばされて来た「”兄貴(?)”の首」と、目を合わせてしまった”新人(?)クン”と……!
〜 ……グンモオォォォォオォォォォォォォオォォォォォォッ! 〜
……2、3メートルを優に超す巨体をそびえ立たせる、熊らしき
〜 ……バッ! ザッザッザッザッザッ……ダダダッダダダッダダダッ……!
ゲシッ! バタンッ! ……グンモオォォォォオォォォォォォォオォォォォォォッ! 〜
「うわあぁぁぁあぁあぁッ!?
やめろッ! やめろぉぉッ! こんなッ! おえぇぇぇッ……!?」
――同時に走り出すも、ほぼ瞬時に捕まる体……一気に組み伏せられ、
誰もが経験したくないだろうが、遠目から「”新人(?)クン”の
「……ニャァ、ニャァ、ニャァ、ニャァ、ニャァ、ニャァ……!」
……そして、この光景を
……だがしかし……ッ!
〜 ……グチャ、グチャグチャ、グチャァァァ……グンマァァァァァ? 〜
「ッ!?」
――気づいてしまった! 恐らく、気づいてしまったのだ!
オルセットは、ほぼ目前で「”新人(?)クン”だった物」を
息を殺そうとしたのか……背後の樹木に貼り付けていた両手を、交差するように口に押し当てる……ッ!
「……ニャァ、ニャニャニャニャニャニャニャニャァ……!」
〜 ……ノシッ、ノシッ、ノシッ、ノシッ、ノシッ…… 〜
――オルセットの呼吸の
「……イヤだ、イヤだ……! ボクはボスのトコロに帰るんだ……! ゼッタイ帰って、”ボクが悪かった”……って、アヤマるんだ……!」……そんな張り裂けんばかりの思いを胸中に浮かべながら、ついに彼女は
〜 ……スンッ、スンスンッ、スンッ、スンッ…… 〜
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ……!
アッチ行って……ッ! アッチ行って……ッ! アッチ行ってって……ッ!」
――蚊が鳴くような声で
しかしッ!
……そしてこの後の展開は、「振り向いて確認してもおらず、安心して反対を向くと
〜 ……ノシッ、ノシッ、ノシッ、ノシッ、ノシッ…… 〜
「……ハァ……た、助かったぁ〜」
――しかし、予想を反して”熊の
「……ハッ!? そ、そうじゃあなくて! どうしよう……ッ!?
ケッキョク、まだニオイが判らないよう……!」
――そのように言う彼女の鼻は、ヘタリ込んだ直後でも動いていた……。
だが、動いていたからこそ……より強くなってしまった悪臭を前に結局、
〜 ……ダダダッダダダッダダダッダダダッ……! 〜
……そして、両手で頭を抱える彼女への”試練”は続く……!
〜 ……ブゥゥンッ! ドッバ〜ンッ! 〜
「ッ!? なっ、何!?」
――突然の
〜 ……メキッ、メキメキッ、メキメキメキメキメキ……! 〜
「ッ!? えッ!? う、ウソッ!? 何でッ!?」
――動いていた! 彼女が背を預けている樹木が、彼女に
〜 ……グンモオォォォォオォォォォォォォオォォォォォォッ! 〜
――そして! その犯人は言わずもがな、去って行った筈の”熊の
潜伏場所を消すと共に、あわよくば現状のように樹木を押し倒し、逃げられなくしてやろうとでも思っているのだろう……!
”ウルエナ”に続き、この”熊の
〜 ……ググググググ……! ミシミシミシミシ……ッ! 〜
「も、戻って……! ……戻って……ってッ!」
現実で有名であろう
だが、この”熊の
そのブルドーザーの如き
〜 ……ググググググ……! ミシミシミシミシパキッ、パキバキ……ッ! 〜
「ウゥゥゥ……おっ、オモいィィィィィ……!」
――更に、(異世界のため”確実”ではないが……)樹木の重さはおおよそ”1トン前後”である。しかし、これぐらいになるのは乾燥していない”
この枯れ切った木々ばかりが生える森の木々では、水分がほぼなくなっているため
〜 ……ググググググ……!
ミシミシパキッ、パキッパキッ、パキバキバキ……ッ! 〜
「……イヤ、イヤァ……! イヤだよぉぉ……! ボスゥゥゥ……ッ!」
――そしてグリズリーでなくとも、熊の最低の平均体重は「約80kg」!
最大だと、”シロクマ”の名で親しまれる”ホッキョクグマ”が、「800kg」という記録を叩き出している個体も存在しているのであるッ!
……この
……だが、少なくとも”樹木の重さ”に加えて、その中間の”500kg前後”の体重を持つと仮定すると……”熊の化物の重さ”を合わせた「1トン近い重さ」が、オルセットに襲いかかっていると予想される!
人間の成人男性は、”
「……ボスゥ……ッ! ボスゥゥ……ッ!
ボォォォスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!」
――現在、樹木の傾き具合は「約45度」。
オルセットが、一向に押し返す
〜 ……ザッザッザッザッザッ……キキィ! 〜
「……ハァハァハァハァハァハァ……クソォッ!
オルセットの奴、何処に行ったんだよッ!?」
――そして、その一方での両手を膝に付き……呼吸を整えていたボス……。
オルセットが残した”土煙”を頼りに、全力疾走で追跡していたのだが……途中で一瞬、運悪く強風が吹いてしまっていたのだ……! その影響か、彼女が向かったと思われる”西側の森”で彼女の
「そんな時間が経っていないハズなのに……足跡が見つからないとか……。
――額の汗を拭いつつ、周囲を見渡すボス。
だが、見渡す限り……何処も似たような枯れ木が立ち並ぶばかりで、彼女の痕跡はないに等しかった……。
「……ボォォォスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!」
「ッ!? オルセットッ!」
――不意に聞こえたオルセットの叫び声……ッ!
穏やかじゃあない状況だと思ったボスは、再び全力疾走で彼女の元へと急行するッ!
「……ハァハァハァハァハァ……アァクソッ! ジャマだッ!」
――意図や害意はなくとも、全力疾走する中で引っ掛かってしまう枯れ枝などがボスを
「……ボォォォスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!」
〜 ……グンモオォォォォオォォォォォォォオォォォォォォッ! 〜
――より
それと同時に、聞き慣れない獣らしき声もボスの耳に飛び込んで来る……ッ!
「……ハァハァハァハァハァ……待ってろォォォッ! 今行くぞォォォッ!」
――直後に石にツマズき、つんのめりそうになるが……なんとか体勢を立て直して更に
〜 ……グンモオォォォォオォォォォォォォオォォォォォォッ!
……ググググググ……! パキパキパキッ、バキバキバキバキバキ……ッ! 〜
「……イヤ、イヤァ……! 助けて……! 助けてよぉぉ……!
……ボォォォスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!」
――角度にしておよそ「30度」……!
腕では無理と判断したのか……今にも倒れそうな樹木に背中を押し当て、必死に足の力で踏ん張るオルセットの姿があったのだ……ッ!
当然、そのような光景を見れば……誰であろうと、その「原因」を探すだろう……。
私だってそうだ。ならボスだって見つけようと……
「ッ!? このクソッタレグマ野郎ッ!
〜 バッ! カチッ! キンッ! シュボッ! ズバンッッ! 〜
……見つけた瞬間、銃をブッ放す人は現実に
まぁ……ここは異世界だし? 原因となる樹木にのし掛かる”熊の化物”を見つけたとなれば……瞬間、感情が”プッツン”に達してしまって、咄嗟に胸ポケットから
ウン、そうだろう……!
こんな非常事態に、”熊の弁護か何か”を主張している場合か!? クソがッ!
「逃げろォッ! オルセットォォォッ!」
「ぼっ、ボス……? ボスゥゥッ!」
「クマ野郎は倒した! 早くそっから逃げて……!?」
「……ぼ、ボスゥ?」
〜 ……グンモオォォォォ……ッ? 〜
「うっ、嘘だろ……!?
何で、くたばっていねェだよッ!?」
――
大事なオルセット君が絶体絶命であるのは、私にも痛いほど分かるが……
……ッ! チッ、余計なお世話だよ!
「……クソッ、距離が離れ過ぎだったか……!」
――まぁ、至極単純な話……ボスが”熊の化物”を仕留めきれなかったのは、彼が持つ”
……因みに、「有効射程」というのは「投げられた紙飛行機が、
現代の警察や軍隊がよく使う「9mmパラベラム弾」という拳銃の弾は、有効射程が大体「50m」である。
しかしながら、彼が使う”フリピス”は同じ有効射程「50m」でも、実は短かったりする。
今は詳細は省くが、現代の銃のほとんどには”アタリマエ”にある……「ライフリング」という加工がない故に、狙った所に確実に当たる確率が
その証拠に、恐らく「
それでも、命中した”熊の化物”にとっては
「ッ! オルセットッ! 今の内だッ!
クマ野郎がのたうち回っている内に、早くそっから逃げろッ!」
「うっ、うん! 分かったよォ! ボスゥッ!
フッ……! ウゥゥゥゥゥん……ッ!」
――だが、銃の性能が残念でもコレはチャンスである……!
一瞬、構えから胸元に引っ込めたフリピスに意識を奪われていたボスだが、”熊の化物”が
無論、彼女もそうと分かれば、ボンヤリしている場合じゃあない事は理解出来る。残る力を振り絞り、脚に力を込めて踏ん張りつつ……のしかかる樹木を押し返そうとする……ッ!
一方のボスは、少しずつだが持ち上がっていく樹木を見て驚きつつも安心するのだが、何を思ったのかコメカミ付近に”右手の人差し指と中指”を
~ウィィ~ン、ピピピピピ!~
「……ッ!? おいおいマジかよ……!?」
「ボ、ボスゥ〜! て、手伝ってェ〜ッ!」
――
彼は、一瞬内容の続きを読みたかったのか……勢いは収まってきているモノの、
「ハァハァハァ……どうした!?」
――捜索時の疲労が未だ色濃いのか……短い距離ながらも、息切れしてしまうボス。
「ごっ、ゴメンボスゥ……!
こっ、これ以上……持ち上げられなくて……!」
「何ィ……!?」
――「オレでも無理そうなバカデカイ木を、支えられているのに!?」……ボス君? 君の人生で、そんな事を経験した上で言っているのかい……? しかも、
うるせェ!? 分かってるよッ!
「ホラ、しっかりしろッ! こんな所で”サンドイッチのハム”になるなんて、
――彼女を励ますためか、胸ポケットに”フリピス”を仕舞って冗談を言いつつも……彼女から少し離れた位置から倒れかける樹木の下に潜り込み、力を込めて持ち上げるのであった……!
恐らく、「てこの原理」を利用した持ち上げ方だったのだろう……。
「……スゴイ! ボクでさえタイヘンな木を、ボスはラクラク持ち上げられるなんて……!?」……と、彼女は自身にのしかかる重さがジョジョに軽くなってゆくのを感じつつも、内心勘違いしていたが……。
「……お、オルセット……! 早く……ッ!
オレは後、数秒持てるか分からねェぞ……ッ!」
――産まれたての子鹿の如く……あまりの重さに両脚に加え、支える両腕が小刻みに震えてしまうボス……。
「……えっ!? そんなラクラク持ち上げられたのに……?」
「いいから早くそっから出ろォォッ!」
「うっ、うんッ! 分かったッ!」
――ようやく重さから解放された反動か、その場に両手両足が着くようにへたり込んでしまっうオルセット……。だが、震える両手両足に鞭打ち……四つん這いになっても何とか樹木の下から脱出を、彼女は果たすのであった……!
一方のボスは、彼女がようやく抜け出したのを確認すると一瞬、ホッと
「ニャア、ニャア、ニャア……フゥゥゥ……ッ!?
ボスゥッ! 後ろ後ろッ! 後ろ見てェェッ!」
――
どうしたんだと思いつつも、慎重に支える位置をずらしながら身体ごと横を向いて確認すると……何と!? いつの間にか、悶絶していた筈の”熊の化物”が恐ろしい咆哮を上げながら、彼に向かって突撃してくるではないかッ!?
「うわぁぁぁぁ!? ヤベヤベヤベヤベヤベヤベヤベッ!?」……無論、彼は大慌て……ッ!
すぐに回避行動を取ろうと、左右を見渡し彼女がいる方向に飛び込もうとするが……ふと、思い止まってしまう。「……イヤ待てよ……コッチに飛び込んで回避したら、オルセットも
……気づかなければ……! ……一人だったら……!
一瞬、そんな事を考えてしまいそうになるボスだったが、そんな事を考えている場合じゃあなかった。
ただでさえ、今にも自身を押し潰しそうな樹木を”超ギリギリ”で支えている上に、彼から見て左側から怒り狂った”熊の化物”が突撃してくるのだ……!
……決断の時は、
「……チィィッ! クソッタレがァァァァァァァァッ!」
〜 グッ、ポイッ! バッ! ゴロン、ブゥゥゥン!
バメキャァァァァッ! ドスン! ドスン、ゴロゴロゴロゴロ……! 〜
――正に
勇気を持って
しかし、回避出来てもまだまだ危険は去った訳じゃあない……!
飛び込み前転後、”熊の化物”の背後に回り込めたボスは、すかさず胸ポケットに閉まっていたもう一丁の”フリピス”を引き抜き、右側の後ろ足を狙って発砲するッ!
〜 キンッ! シュボッ! ズバンッッ! ビスゥゥッ!
ドタァァァンッ! ドタバタドタバタドタバタドタバタ!〜
――これは効果的であったようだ!
恐らく人間で言う”足首”に弾丸がヒットしたのだろう……”熊の化物”は、両前足を上げて方向転換する最中に撃たれたのもあってか、背後の地面に前足が着く前にバランスを崩してスッ転び、再び
「は、ハッ!
せいぜいそこで
……やけに小物臭い
……あぁ! なるほど……。余程、オルセット君の事が気になっているのだな?
今考えている”小物臭い台詞のもう一つの理由”をそっちのけに、彼女の安否を確認しに行く程に……
うるせェ! 黙っとけよッ!
「オルセット! オルセットォォッ! 大丈夫かァァァッ!?」
――真っ二つに折られた樹木の反対側、その根本付近に走り寄ってきたボスは慌ててその場所を見るが……そこには、
「ウソだろッ!? 何処行ったッ!?」……心臓が飛び出るかの如き焦燥感に襲われるボス。慌てて周囲を見渡すとボスから見て右奥、先程吹っ飛ばされた樹木の近く……そこに、うつ伏せのまま動かない彼女の姿が見えたのであった……!
「ッ! オルセットォォッ!」
――無論、駆け付けない理由はない! ボスは走るッ!
〜 ……グンモオォォォォオォォォォォォォオォォォォォォッ!
……ダダダッ! ダダダッ! ダダダッ! ブォォォンッ! 〜
「……ッ!? ウオォォォッ!?」
〜 ……バッ! スカァァ! ゴロン! ズザザザァァァァァ! 〜
――またもや
悶えていた筈”熊の化物”がボスを八つ裂きにせんと、全速力から飛び込むようにその剛腕を振るうッ! しかしながらも彼はそう簡単にやられる訳には行かないッ! 足音から接近を察知できたボスは、咄嗟に左方向に飛び込んで
そうして再び真っ二つにされた樹木と同じ運命を辿らず、前転して受け身を取っていた彼とほぼ同時に……器用にも滑りながらボスの方にその巨体を向け直す”熊の化物”……!
意外にも両者が
「……クソッ! 戦うしかねェのかよ……ッ!」
――”三点着地”の姿勢からゆっくりと立ち上がりながらそう呟くボス……!
その視線の先には、”熊の化物”から
……逃走? それはない。
仮に運良く、”熊の化物”の隙を突いて彼女を回収できたとしても……彼の考えによれば、
〜 ……グンモオォォォォ……グンモオォォォォ……グンモオォォォォ…… 〜
「……何だ? 随分と不機嫌そうじゃあないか? えぇ!?」
――言葉は通じないと理解しつつも、ボスは
カモメのようで、
まるで”
「……あれは、
……なるほど。食料泥棒をやらかそうとして、その
〜 バッ! 〜
――そして、周囲も観察していたボスは大体の状況を把握していた。
僅かに死体と見て取れる人物には、襲われた背景も知らないために「……ご
……しかしながら、今はどうでも良い事である。
今すべき事は、”信頼性”も”有効射程”も
〜 ……スカッ! 〜
「……エッ?」
〜 ……スカッ! スカッスカッ! 〜
「……しまったぁぁぁぁぁ!
……いや、
〜 ……グンマアァァァァアァァァァァァァアァァァァァァァッ!
……ダダダッ! ダダダッ! ダダダッ! 〜
「うわぁぁぁぁ!? ヤベヤベヤベヤベヤベヤベヤベッ!?」
――ホラホラ、ボス君?
君が盛大に”隙”を
んな事、見りゃ分かるわァァァァァァァァァァァァァァッ!?
〜 ……グンマアァァァァアァァァァァァァアァァァァァァァッ!
……ザッザッザッザッザッ……! ダダダッ! ダダダッ! ダダダッ! 〜
「チキショウッ! さっきから、”
お前見た目は”
……顔面怖すぎで、人気出そうじゃあないけどなッ!? クソッタレェェッ!」
……今更変えようもできないくまモ……失礼、”熊の化物”の”鳴き声”に罵声を浴びせつつ、逃走しているボスはさておき……。参考程度だが、”熊”が走る速度は「時速50km前後」である。
地上最速の動物である”チーター”の「時速約130km」と比べると遅いと思われるだろうが、それでも人類最速の”ウサ◯ン・ボ◯ト氏”のおよそ「時速45km」と比べると速いのは確かである。
勿論、彼は”ウサ◯ン・ボ◯ト氏”並の速度で
それでも
彼は”熊の速度”の事を知っていたのだろう……だからこそ、先程は”足”を狙ったのだ!
〜 ……グンマアァァァァアァァァァァァァアァァァァァァァッ!
……ザッザッザッザッザッザッザッ……!
ダダダッ! ブゥゥンッ! ダダダッ! ブゥゥンッ! ダダダッ! ブゥゥンッ! 〜
――しかしながら、それでも保てている距離は”ギリギリ”の一言に尽きる……!
追いついては、ボスの髪の先っぽを
追いついては、ボスの
追いついては、ボスの頭に直撃しようとした時……! 咄嗟に彼が上半身を
そして、彼の”
”熊の化物”君は、まだまだ元気そうだが……現在の彼は”マラソンの給水場”でもあれば、そこの”スポーツドリンク”を丸々一本ガブ飲みしたい程に、
「ハァハァハァハァハァハァ……クソォォッ!
タイコウサク……対抗策を……! 考えねェと……ッ!」
――逃げるばかりに集中し、
周囲にある、他の枯れた木々よりも
「ッ! アレだッ! アレを使えばッ!」
――
特にその樹木に何をすることもなく、ただピッタリと背中を合わせただけじゃあないかッ!? その光景に呆れたのかは知らないが……”熊の化物”君も少し距離を離して、止まってしまっているぞ!?
「ハァハァハァハァ……ヘヘッ、どうしたぁ!?
テメェの足をダメにした、
――効くかどうかの確証もなかったが……”自身への
そして、その後の閃光に驚いたかは知らねェ〜が……”熊の化物”君は、突撃してきたのだッ!
〜 ……グンマアァァァァアァァァァァァァアァァァァァァァッ!
……ダダダッ! ダダダッ! ダダダッ! 〜
「……ここだァァァッ!」
〜 バッ! ブゥゥンッ! バメキャァァァァッ!
ゴロン、ズザァァァァ! 〜
――助走を付け、
その剛腕を三度も”飛び込み前転”でギリギリに
しかしながら矢張り、腐っていたとは言え
……サラッと流さず、もっと褒めてくれて良いんだぞ!? クソッタレェェッ!
「ハァハァハァ……残念だったなぁ、マグズリーさんよぉ!
ご覧の結果……オレはピンピンしているぜ?」
……好きなのかは定かではないが、再び”三点着地”の姿勢からゆっくりと立ち上がりながらそう呟くボス……!
「だがよぉ……?
そうやって何も”反省”せずに、
〜 ……グンモオォォォォ……ッ? 〜
――頭だけをボスの方に向けていたマグズリーが、その場で回って体も向け直す。
「テメェの”理不尽”に付き合わされたオルセットの気持ちを……テメェ自身も味わいやがれッ!」
――ビシッ! ……と、右手の人差し指でマグズリーを指差しながらボスが叫ぶ! それを相手の”威嚇”とでも思ったのだろう……なんの疑問も抱かず、奴は! 彼に向かって
〜 ……ミシッ、ミシミシッ、ミシィィバキバキバキバキ……! 〜
――しかし、その雄叫びの所為で……マグズリーは聞き逃してしまっていた……!
〜 ……グンマアァァァァアァァァァァァァアァァァァァァァッ!
……ダダダッ! ダダダッ! ダダダッ! ギギギギギギ……ドゴンッ!
……グッ、グンマアァァァァ……ッ!?〜
「……ヘッ、正直……
――ある意味、”
彼が奴の攻撃を誘っていたのも、
そして彼のステータスの中で最も高い”
〜 ……グッ、グンマアァァァァ……ッ!
グッ、グググ……グギギギググググ……ッ!〜
――人間だったら、良くて重症……悪ければ即死というダメージを負ったにも関わらず、マグズリーの血走しった目がしっかりとボスを捉えていた! マグズリーはまだ、”
今も尚、「こんな物ォォ……!」と言う気迫を全力で
「……それでも倒せねェってのは、薄々思っていたよ……。
けどなぁ……一瞬でも……その一瞬でもッ!
〜 キンッ! シュボッ! ズバンッッ! ビスゥゥッ!
ドタァァァンッ! ドタバタドタバタドタバタドタバタ! 〜
――持ち上げる事に夢中な余り、無防備になっている”マグズリーの頭”を狙う事は……追いかけられてる最中に撃ち込めと言われるよりも、遥かに
そして、◯者の皆さんはお気づきであろうが……先程の樹木を倒す過程で、どうやってか既に”
……再び襲われる激痛! 溜まらずに奴は、またもや樹木の下敷きになってしまい……無様にも4本足をバタつかせて、何とか足掻こうとしているのであろう……。
「……悪いな。でも……弱肉強食ってのは、分かってるだろ?」
――動けなくなったマグズリーの側面、その頭近くにゆっくりと歩み寄りながらボスは語る。
「オルセットの件でムカ付いているのもある……が、それと並ぶかそれ以上に……!」
――再びボスの右手が赤く光り、眩しい閃光の後に”フリピス”が姿を現す……!
彼はそれを静かに、マグズリーの
〜 キキキ……カチッ! 〜
「普通じゃああり得ない、
まだまだ序盤で”
〜 キンッ! シュボッ! ズバンッッ! ビスゥゥッ!
ビクンッ! ピクッ、ピクピクッ……シ〜ン…… 〜
……今度こそ、マグズリーは
眉間から血が垂れ流れる様を見ながら、ボスはゆっくりと銃を構えていた右腕を下ろすと……尻餅をつくように、その場でヘタリ込んでしまった……!
「ハァァァァァァァァァ……。なっ、何とか倒せたァァァァァァ……ッ!」
――空を
「……スキャンで見て驚いたけど……まさか、ウルエナ供よりも
……そういう彼は余程、限界に近かったのかもしれない。
格上の相手に対する
「……フゥゥゥゥゥゥ……。
……ッ!? そうだッ! オルセット! オルセットは大丈夫かッ!?」
――「アイテテ……ふくらはぎが……!」……などと言いつつも、ボスは立ち上がる。そして、走り過ぎで痛み始めていた脚に鞭打ち、未だ横たわっていたオルセットの元へと急ぐのであった……!
「ハァハァハァ……おい、オルセット! 大丈夫か!? しっかりしろッ!」
――息も
「……うっ、うぅぅぅぅん……」
――微かな
「あっ、アレェ……? ボクは……」
「おい! しっかりしろ! オルセットッ!
そのセリフの後に”誰なんだ”……的な記憶喪失になってたら、シャレにならないぜ!?」
「……んんっ、ボスの声……? ……ッ!? ボスゥ!」
〜 ガバッ! ギュウゥゥゥゥ〜ッ! 〜
「ボスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ! コワかったよォォォォォォォォォォッ!
ボスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
――目にも止まらぬ”早起き”を
その速さはボスの反応を許さずに、彼に抱き付いては顔を胸に
「……オルセット、分かった……分かったから……!
もう、大丈夫だから……! そっ、そろそろ離れてくれないかなぁぁぁぁぁ……!?」
〜 ギュウゥゥゥゥ〜ッ! ……ミシ、ミシミシ…… 〜
「イヤだよォォォォォォォォォォッ! コワかったんだよォォォォォォッ!?
ボスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
――未だ続くオルセットのギャン泣き……! そして、ボスの体から発される不吉な音……!
「おっ、落ち着けェェェェッ! オルセットォォォォォッ!
お前は、またオレを殺す気かァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
――「えっ?」……間抜けたような声と共に、オルセットの腕の力が抜ける。
その一瞬の隙にボスは、彼女の両腕を掴んでは素早く降ろし……胸に右手を当てて深呼吸をするのであった……。
「ハァ、ハァ、ハァ……き、気を付けてくれよオルセット……!
この前も、
「ご、ゴメン……ボスゥ……」
――視線と共に、頭部のケモ耳も垂れ下がってしまうオルセット……。
「ハァ、ハァ、まぁ……今後は気を付けるようにしてくれよ?」
「……うん……」
――ズボンの汚れを
「……どうした? まだ”自分が弱い”とかって事を気にしているのか?」
「……だって、ボクだけじゃあムリだったし……。
それに、あのクマのマモノだってボクは……」
「あんなの……お前一人で倒せなくて当然だって」
「でっ、でも! ボスは……ッ!」
――叫びそうになるオルセットに対し、左手を伸ばして静止を促すボス。
少し不服な表情になる彼女に、彼は力士が試合前に取る”
「……運が良かっただけだよ。この銃とか……。
それに、オルセットが……その……そう! 気を引いてくれていたからこそ、何とか倒せたんだよ!」
「……えっ?」
「つまりだ、オルセット? 俺だけで倒したんじゃあない。
「……ボクが……助けた? ……ボスを?」
――目を見開いたまま尋ねるオルセットに、ボスは静かに
「あぁそうさ。
――そう語りつつ、左手で彼女の頭を撫でるボス。
「それに、急いで強くなろうとしなくったって良いんだ……。
お前にゃぁ、その臆病が冗談にも思える程の”力”があるんだぞ?」
「……でも……やっぱりボクは、オクビョウで……」
「そればっかを理由にすんなよ……。
お前と並ぶくらいに、走れる人間を知ってるのか?
お前と同じように、俺が来るまでの長い時間……あんなバカデカいを木を、持ち上げ続けた人間を誰かお前は知ってるのか?」
「……知らない」
――「ボス以外」__と続けて、再び俯きつつもそう呟くオルセット。
ボスは軽くタメ息を吐きつつも、彼女の肩に左手を”ポン”と置く。
「いや__オルセットには、オレはそんな
でも__いないだろ? だからいい加減に自覚しろ、自信を持て。
お前には、やる気を出せば……そこらの人間にはどうしようもできない”力”があるんだよ!」
「それが……ボスの助けになってる……?」
「そうだ。なってるんだよ、オルセット……」
「ボクが……ボスの助けに……! ボスの仲間に……! ……エヘヘ……」
――塞ぎ込むような雰囲気だったのが、打って変わったように照れ笑いをするオルセット。
そんな彼女に「やれやれだぜ」……と語るようなタメ息を心中で一つすると、再び語り出す。
「一応言っておくと、もしも「まだまだ足りない」とか思っていたら……ゆっくりで良いからな?
強くなる事も、もう認めちゃいるけど……仲間として認められる事も……! ジョジョにジョジョに、ゆっくりとな?」
「ウンッ! 分かったよ! ボスゥッ!」
「良しッ! それじゃあオルセットの悩みも無くなった事だろうし……!
さっさとここから退散するぞ! んでぇ、立てるのか? オルセット?」
「あっ、そうだったね……。フッ……!」
――両手を地面に付け、その反動と共に脚に力を込めるオルセットだったが……残念な事に、彼女の両脚が離陸するにはまだまだ力が足りなかったようだ……。
「ごっ、ゴメンボスゥ……。脚が……!」
「……そっか、オレと同じ……イヤ、オレ以上か……。
あんなバカデカい木をオレ以上に、長く支えていたんだからなぁ……」
「……じゃあどうするの?」
「背負って帰りたいところだが……オレも疲れ切っててな?
悪いが、肩を貸すから自力で何とか歩いてくれ」
「……えっ? カタをカスって……?」
――再びオルセットの”世間知らず”が展開されるが、「やってみりゃ分かる」……と言いながら肩を貸すボスに
何処で経験したかは知らないが、慣れているボスに対し……初めての経験であろう共に、脚に蓄積された疲れも相まってかぎこちなく歩むオルセット……。
まるで”映画のワンシーン”のような……どこか誇らしげな背中を見せつつ、広場を去って行く二人はこれから先も様々な困難にブチ当たって行き、その”絆”をジョジョにジョジョに深めて行くのだろう……。
〜 ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……グンマァァァ……!
ブゥゥゥンッ! ザシュゥゥッ! 〜
「……えッ? あぁぁ……」
〜 ……フラッ……バタンッ! 〜
「……ボスゥ? ッ!?」
〜 ……ドクドクドクドク…… 〜
「ボォォスゥゥゥゥゥゥゥッ!?」
――そう、どんな困難が起こったとしても……!
<異傭なるTips> マグズリー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(注:ボス達が遭遇した個体のステータスになります。
全てのマグズリーが、この個体と同じステータスになる訳じゃあない事をご了承下さい)
和名:怒土熊(どどぐま)
年齢:11歳|(オス)
体重:524kg
体長:318cm
体高:226cm
属性:土
<レベル:36>
HP:5028/5028(
MP:50/50
DE:120
能力値
[ EXスキル ]
〈爪研ぎ〉
[ Strength ]
<身体強化 Lev.5>
[ Perception ]
<嗅覚強化 Lev.3>
<聴覚強化 Lev.1>
[ Vitality ]
<物理耐性 Lev.7>
[ Agility ]
<強壮 Lev.6>
<強靭 Lev.7>
<隠密 Lev.2>
[ Intelligence ]
〜OffLine〜
[ Luke ]
〜OffLine〜
[ Magic ]
<アスタラ Lev.1>
[パッシブスキル]
<執念>
《詳細情報》
バレッド王国辺境「スップリ森」など、ウォーダリア各地に生息する、
性格は温厚(おんこう)だが短気。
人間に遭遇しても、”大声を上げる”などの刺激を与えなければ襲う事なく去って行く……と言う、魔物にしては珍しい習性を持っています。
ただし、少しでもその個体が”気に入らない事”を目撃したり、体験したりすれば……その危害を加えた人物は地獄を見る羽目になる程に、凶暴化するという何とも短気な習性も併せ持ちます。
その短気さを由縁(ゆえん)とする話に、たまたま木から落ちてきた”木の実”が頭に当たっただけで落とした木を張り倒した……と言う物がありますが、それだけでは終わりません。
その後それだけでは怒りが収まらず、その現場をたまたま目撃をしていた冒険者が”とばっちり”を受け……無数の強烈な打撲痕と切り傷、そして、数多の刺し傷を作った状態で命からがら帰ってきた……という報告が、冒険者の間で語られているそうです。
食性は雑食性で普段は”木の実”や”小さな虫”、特定の”樹液”を好んで食します。
しかし、それは獲物が見つからない餌が豊富な環境での事で、そう言った物が採れない……あるいは無い程に過酷な環境の中では、普段の温厚な性格を投げ捨てたかのように、目に付く”動物”を片っ端から襲い、肉を喰らう獰猛(どうもう)な性格になってしまいます。
そして、食料保存の一環(いっかん)で地球の熊と同じように、穴を掘ってそこに”食い残し”となる獲物を保存する”土饅頭”を作る習性を持ちますが……そこを泥棒するのであれば、上記にある”短気”さが遺憾(いかん)無く発揮され、食料泥棒はこの世を去るでしょう……。
そんな危険なマグズリーですが、その肉は基本的にこの世界ではほとんど好まれていません。
適切な解体処理を知らない人物が多いため……基本的に臭みが強く、高レベルになればなる程”硬く”なる傾向があるため、一般的には食されていないのです。
ですが、食されていないだけであって”臭み取り”や”肉の熟成”など……適切かつ、非常にメンド〜な加工処理を行えば、一部の好事家(こうずか)の間では時価「大金貨1枚」相当で取引される「マグエ・ジャーキー」として、流通しています。
また、食肉には向かずとも狩られる理由の一つとして、マグズリーの体内から獲れる「ベア・ダイルドー」があります。これは、”ボス”の世界で言う「熊胆(くまたん)」であり……錬金術士の間では<魔力増強>の効果で、薬師の間では<気付け薬>や<強壮剤>の材料として重宝されているそうです。
そのため身の程を知らず、手軽に行ける場所で一攫千金を狙えるという理由で、比較的安全な場所でも現れるこの「森の悪魔」を、狩ろうとする者が後を絶たないと言われるそうです……。
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