第16話 ダリルさんと情報を共有しまして。

 翌日、一日休みを貰えた私は、ダリルさんに呼ばれてカフェへと向かった。

 既に到着していたダリルさんは、やっぱり女性の格好をしていて、手を振り私を呼ぶと、私はダリルさんの席へと向かい椅子に腰かける。



「昨日は散々だったものね、甘いものでも食べてリラックスしましょ♪」

「気分転換は必要な出来事でしたもんね」

「ふふっ そうね。そうだ、この魔道具使っておくわね」



 そう言うとダリルさんは何かの魔道具のスイッチを押すと、机に置いて私に向き合った。

 盗聴防止の魔道具だと教えて貰えた時は驚いたけれど、確かにあの事件をこんなカフェで語るには必要なものだと理解できる。


 ダリルさんはモンブラン、私はイチゴのショートケーキを頼み、コーヒーも互いに頼むと「それで」とダリルさんは言葉を口にする。



「どこから話したものかしら。実は私、リコネル王妃様から依頼されて花屋で情報収集をしている諜報部所属なの」

「そうなんですか?」

「ええ、これはみんなには内緒にしてね? それで、今回のような事件は結構国でもある問題の一つで、ジュリアス国王陛下及びリコネル王妃様は予防策も含めて私のような諜報部の人間を、王妃様の経営するお店に配属しているの」

「知りませんでした……他のお店にもいらっしゃるんですね」

「貴族社会は闇が深いのよ」



 そう言ってニッコリと笑ったダリルさんに、昨日の事件を思い出す。

 毒殺された婚約者をずっと愛し続けたクリストファー男爵……彼の愛情は歪んでいたけれど、純粋に愛しているようにも見えた。

 相手が死んでも忘れられないほどの想い、それは生前の私では経験したことのない愛でもある。



「見方を変えれば……純愛なんですけどね」

「そうね……その純愛の悲劇が、よく、バーサーカーの悲劇とも呼ばれているわ」

「バーサーカーの悲劇って昨日も言ってらっしゃいましたけど、アシュレイに関係することなんですか?」



 ふと昨日の言葉を思い出してダリルさんに聞くと、彼は頷いて少し小さな溜息を吐いた。



【バーサーカー悲劇】と呼ばれる過去の事件。

 それこそ、私が転生するずっと昔に起きた悲しい出来事。

 一人のバーサーカーが愛した女性を殺され、怒り、悲しみに狂ったバーサーカーは国を半壊に導くほどに暴れまわり、最後は残酷な死を迎えたこと。

 クリスタルの力をもってしても、抑えきるには時間が掛ったことを教えてくれた。

 それほどまでに、バーサーカーの力とは凄まじいものがあるらしく、アシュレイはその事もあり、彼には黙っているけれど監視対象であることを伝えられ、私は口を手で覆った。

 そして――。



「ラシュア、貴方はアシュレイの想い人。いいえ、大事な恋人。貴女を守ることも私は王妃様に依頼されているの。けれど、今回巻き込んだことに関してはお怒りの言葉を頂いたわ。けれど……」

「分かっています、確かに危険であったことは間違いないですけど、今回の事に関しては本当に仕方のないことだと理解していますから」

「……ありがとう」

「それで、クリストファー男爵はその後どうなったんですか?」



 気になっていたあの後の事。

 それをダリルさんに聞くと、クリストファー男爵は独房で首を吊り自殺していたのだと言う。

 ロザリーを失った悲しみを受け止めきれなかったのだそうだ。

 それ程までに愛されたロザリーの最後の言葉は、例え本心であっても残酷だったかもしれない。

 けれど、同じ血液型の女性の血を飲まねばいけなかったことを考えれば、死にたくもなるだろうとも思えた。



「そう言えば、新鮮な血っていってましたけど……女性は助かったんですか?」

「あぁ……いいえ、闇医者に殺されていたわ」

「そう……ですか」

「でも、彼女たちの持っていた指輪が、事件解決の糸口になりそうなの。魔物討伐隊も同じ指輪を見つけていて、今諜報部を含めて調べているところよ。でも、見たことのない文字が書かれていて、何て読むのか解らないの」



 そう言ってポケットから取り出された指輪を見せてもらい、内側に、本当に小さく彫られている文字を読んで私は息を呑んだ。


【You can die already】



「……もう死んでもいい」

「え?」

「異国の言葉で、もう死んでもいいって書かれています」

「読めるの!?」

「この言葉には意味があるんです。『月が綺麗ですね』と言う言葉に対して『もう死んでもいいわ』と返事を返すんですけど……二つ揃って『あなたを愛しています』になるんです」

「初めて聞くわね……というか、女性にそんな不吉な言葉を贈る男性ってどうなのよ!」

「一人だけ知ってますけどね、そういうことを言ってた人を」



 元夫だけど。

 私の結婚指輪には、確かに【You can die already】と書かれていた。

 でも待って……じゃあ今回女性を売り捌いていた冒険者っていうのは――。



「ラシュアの知り合いにこの指輪を女性に贈る男性がいたの?」

「随分と昔ですから、今どうしているのかわかりません。見た目も、もう覚えてないんですけど、どうしてもその言葉だけが脳裏に残っていて」

「そりゃそうよね……でも、死んでもいいなんて書いてあるのを知っていて受け取る女性は居ないわ」

「まぁ、そうですね」


 当時の私も、結婚指輪の裏に気づいたのは元夫が愛人の許へ向かってからだったし、本当に最低な男だと思う。

 でも待って?



「沢山の女性を囲う事って、冒険者でも出来るんですか?」

「ええ、稼げる冒険者なら出来るはずよ」

「じゃあ、今回の犯人は稼げてる冒険者になるんですか?」

「それがどうも違うのよ」

「え?」

「犯人の目星は付いてるの……でも相手が貴族だと中々難しくてね」

「貴族で冒険者ですか?」

「社交界から追放された男性が、藁にも縋る思いだったんでしょうね。彼はまだ仕事もまともにこなせないFランクよ」

「じゃあ女性を囲えるのは」

「家のお金のおかげ」

「うわぁ……」

「一時期、家も傾いてたみたいだけど、長女を変態貴族に売り渡したお金がかなりあるらしくって。それに、その変態貴族の家からも支援して貰ってるみたいだしね」



 本当に最低だ。

 仮に元夫だとしたら、よくそこまで腐れたわねと言ってやりたいくらいに。



「ちなみに、もし知り合いならこの名を聞いたことがない? もし無ければ記憶から抹消してもらえる?」

「分かりました、お名前をお伺いします」

「犯人と思われる男の名前は、ネルファー。裏で使っている名前が、イマイズミ」



 予想はしていたけれど……私は頭を押さえて大きくため息を吐き……。



「知ってはいます……けど、今の時代ではないです」

「どういうこと?」

「今泉が犯人で間違いないと思います……」



 今泉マサキ――正に、会いたくない男性NO.1の、元夫だった。






=====

予約投稿です。

下の名前は全てカタカナで書いてるのはワザとです。


ここにきてやっと元夫の事が出てきたりしましたね!

今後どう関わってくることになるのかはお楽しみに!


しかし、やはり、狂った愛情も一つの愛のカタチで純愛ではないのかな?

と思ったので。

解釈の違いは人それぞれ……。


此処までアシュレイが出てきてませんが、そのうち挽回して欲しいところ。

頑張れアシュレイ。

ダリルさんのキャラの濃さに負けるな!


と、応援してくれる方は、ハート等応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

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