第6話 私の罪

 抱え上げられた私は廊下を疾走しています。うっ。一体、何Gが掛かっているのですか?何か大きな振動があり、人の声が聞こえますが、回転Gはやめてください。うっぷ。


「ユーフィア。ユーフィア大丈夫か。」


 頬をパチパチ叩かれています。


「大丈夫じゃないです。」


 気持ち悪い。


「すまん。取り敢えず、管理室だと思うところには来たぞ。」


「うっぷ。人がいませんでしたか?」


「気絶させた。」


 そうですか。あの、トドメの回転Gはそういうことだったのですか。私は、亜空間収納からロープを取り出し


「これで、縛っておいて下さい。」


 渡したロープは一定時間で溶けて無くなる仕様の物です。

 少し時間が経つと気分の悪さも治ってきました。

 管理者コードで設定の変更をしていきます。1刻間2時間機能停止をします。ここからなら、全ての部屋の監視カメラを見ることができます。

 今、作業している人たちの作業内容を確認します。治療薬を作っているらしき部屋には10人の作業員がいます。その中で魔導師は2人ですか。基盤もそこにあるといいのですが。


「クスト。防御機能は1刻間停止しました。そして、この部屋で薬を作っているようなので、基盤と作業に使用している粘土板の交換をします。」


「10人か全て気絶させればいいのか?」


「基盤がどこにあるかわからないので、一人は残して欲しいです。」


「了解。じゃ、行こうか。」


 また、抱え上げられそうになり、今度は拒否をしました。回転Gは無理です。クスト。そんなことで落ちこまないでください。行きますよ。

 廊下に出て、作業している部屋へ向かいます。ここは3階になりますので、一階下の2階に行きます。前から思っていましたが、廊下では全く人とすれ違いません。ここの業務内容がどうなっているのか知りませんが、何だか、ブラック勤務のような気がします。

 目的の部屋の前にたどり着きました。


「少しそこで待ってろ。」


 そう言って、クストが部屋の中に消えていきました。悲鳴と物が壊れる音が重なって、作成者側としてはクストよりも壊れた物の心配をしてしまいます。あ、壊れていいものでした。

 ドアが開きクストが顔を出します。


「ユーフィア、終わったが魔導師の一人を残してある。なぜか知らんが死にそうなんだ。」


 もしかして、少女の言った通り私が作り出した物を再現するのに命を削ってしまうのですか。慌てて部屋に入り、魔術師の元へ向かいます。魔術師の前に立ちますと、魔術師の方が私を見て目を大きく見開きます。


「ユーフィア様、ユーフィア様がお戻りになられた。覚えておられますか、私はコルバート領の生産工場にいたものです。このようになってしまって分からないかもしれませんが」


 まさか。何となく面影があります。コルバートで工場の立ち上げから手伝ってくださった方です。しかし、このように皺だらけで皮と骨の姿になってしまうなんて。


「ごめんなさい。ごめんなさい。私がこのような物を作ってしまったせいで、あなたの命を削ってしまうことになってしまって、ごめんなさい。」


「いやいや。仕方がないことですよ。私がここで働いていることも全て、仕方がないこと。それで、ユーフィア様はどうされたのですか。」


「ある人に聞いて、私の作り出した薬がたくさんの人を苦しめていると、人の命を奪っていると。だから、基盤を交換しようと・・・。」


「そうでしたか、基盤はあの戸棚の中に保管してあります。鍵はこれです。よかった。私で、最後になりそうですね。」


 ここで、犠牲になるのは最後になると・・・。一体どれだけの人の命を奪ってしまったのでしょう。


「本当にごめんなさい。」


「ユーフィア。基盤はこれでいいか。」


 クストが戸棚から基盤を取り出してくれました。代わりの新しい基盤をクストに元の位置に戻してもらいます。


『ビービービー』


 辺り一体に警報音が響きます。管理室の誰かが目覚めて警報を作動させたようです。


「ユーフィア!さっさと出るぞ。」


 クストが手を差し出してきます。

 魔術師の方に振り向き、何かを話そうとすると、首を振られ


「さあ、行ってください。ユーフィア様は新たな居場所を見つけられたのですよね。そこで、幸せになってください。」


「つっ。」


「ユーフィア。行くぞ。」


 クストに抱えられ、部屋の外に向かっていきます。


「ありがとうございます。」


 私が言えたのはそれだけでした。

 廊下に出ますと自動の警備兵が動き回っていました。あれが動いているなんてやばいです。逃げても追尾機能を有しているので何処まででも追ってきます。


「クスト。あれ、全部壊しますので下ろしてください。」


「逃げるだけじゃダメなのか。」


「逃げても魔質を記憶されて何処まででも追ってきます。」


「わかった。あれは、普通の剣は通じるのか?」


 そう尋ねながら下ろしてくれました。私は一振りの剣を亜空間収納から取り出しクストに渡します。


「ん?これ、俺が一回しか振れない魔剣じゃないか。」


「違います。魔剣ですが、魔石で魔力を補った氷属性の魔剣です。あの警備兵は炎と雷特化型ですので、この剣で胸の魔石を切ってください。私は遠距離から支援します。多分50体はいます。」


「マジで!」


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