謎の少女強襲編

第1話 尋ね人が持って来た物

 子供達が元気に庭で走り回っているのを部屋から眺めます。本当に年月というものは早いですね。夫クストが休暇のため私の隣で寛いでいるなか、訪問者がやって来ました。なんでも私に会いに来たというではないですか。

 応接室にその客を通したということで、そちらに向かいます。部屋に入れば10歳ほどの金髪の少女がいます。それも一人で。その、少女を見たクストが慌てて、少女の前に行き


「お嬢ちゃん、俺の嫁になんのようだ。」


 小さな少女に向かって威嚇し始めたではないですか。そんな、小さな少女にまで、威嚇しなくてもいいのではないのでしょうか。

 少女はクストのそんな態度を気にもせず無表情のまま


「第6師団長さんの奥さんはユーフィア・ウォルスであっていますか?」


「ユーフィア・ナヴァルだ!」


 なぜ、この少女はウォルス侯爵家の名前の私を訪ねて来たのでしょう。それもシーラン王国のナヴァル公爵家にいる私を探し当てた。


「どちらでも、構いません。これに見覚えがあるのではないですか?」


 少女は一本の小瓶を取り出しました。そ、それは・・・。


「ご存じのようですね。よくも、このような呪い紛いの物を作り出しましたね。本当に人の怨念が入っていないだけで、ほぼ呪いと言っていいですよね。」


 そう、少女が持っていたものは、サウザール公爵様に言われて作った、『治らない病』の治療薬の青い液体でした。


「おかげで。わたしのルーちゃんが連れて行かれてしまったのですけど?これはどこの誰に渡した薬なのですか?」


 るーちゃん?が連れて行かれた?どういうこと?その薬とどういう関係が?

 少女が立ち上がりこちらに向かってきた。


「お嬢ちゃん、これ以上ちか・・「煩いです。」・・ウッグ」


 10歳ぐらいの少女が獣人で成人でもあるクストさんを回し蹴りをし、壁に叩きつけました。見た目には人族なのですが違うのでしょうか。


「あなたは、貴女が作り出した物がどういうことに使われているか知らないのですか?貴女が幸せに暮らしているなか、それによって苦しんでいる人がいることを知らないのですか?」


「どういうことなのでしょう?」


「ちっ。本当に知らないですか。」


 舌打ちされました。すごく、睨まれています。どうしたら・・・ん?少女のその目は以前どこかで見たような気がします。あれは・・・


「では、これを使い、人を売買していることは知っていますか。」


「そ、それは、知っています。」


「どこの、商人ですか!」


「コートドラン商会です。」


「やはり、マルス帝国。」


 少女はクストの方へ赴き、まだ座り込んでいるクストの顔を覗き込むように顔を傾け


「第6師団長さん、きちんと仕事してくださいよ。マルス帝国の連中が彷徨うろついているではないですか。おかげで、わたしは呪いを受けるし、わたしが寝込んでいる間に、ルーちゃんが治療薬と称したものと引きかえに連れさらわれてしまったではないですか。」


「マルス帝国が何だって?」


 少女は話だした。10日前のこと、広場で目を離したすきに弟が赤い飴と青い飴を手にして戻ってきた。

 なんでも、露店商の人族がくれたらしい。知らない人から物を貰ってはいけないと言い聞かせ、返しに行けば、その露店商はもうそこには無くなっていた。

 手に持っている、あまりにも怪しい飴を捨てようとしたら、赤い飴の方が弾け、飴のクズになったものが、手に落ちてくるかと思えば、液体がかかり 、その後の記憶が無くなっていた。気がつけば弟がおらず、自分は西地区の診療所におり、ベッドの横には弟が持ってきたという青い薬があった。

 手掛かりは青い液体しかなく、調べつくしてここにたどり着いたそうです。


 果たして、10歳の少女がそこまで調べられるものなのでしょうか。それになぜ、私が作った物であるとわかったのでしょう。


「なぜ、ここまでたどり着いたか不思議ですか?」


 少女が私の心を読んだかのように問いかけてきた。


『この世界にない物を作りだす役目?だからと言って、作って良いものと悪い物があるとは思いませんか?』


 え?


『そもそも、この呪い擬き最悪です。最初の毒が、毒薬と術式の混合ってそれだけで、呪いが成立しているのに、この治療薬と称したものも弱毒した物と術式を混合して、呪いを治ったように見せ掛ける呪いって何?』


『に、日本語』


 日本語です。この世界では聞くことに無かった故郷の言葉。


『呪いの上に呪いを重ね掛けた意味は何?呪いを解くだけでは足りなかった?貴女、すごく歪んでいるわね。ああ、日本語で話しているのは、そこの第6師団長対策ですよ。この世界の人たちはツガイ、ツガイと煩いので。』


『私はそんな呪いを作り上げたりしない。』


「ふーん。じゃ、この貴女が作った治療薬飲んでみてください。」


そう言って少女は私に青い液体の入った小瓶を突き出してきた。

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