12話  駄けン・・・ゴホンッ

 ドレスが出来上がりました。結婚式のドレスは白がいいと前まで思っていましたが、この桜のドレスもいい感じに出来上がってます。胸の部分が白い桜の花で覆い尽くされ、下に行くほど花の数が減り、宵闇の中を舞う花びらが裾に広がる。胸元には同じ花のデザインのレースが覆っています。

 今日は、出来上がったドレスの最終調整をしてもらっています。マリアが部屋を出入りする度に、『邪魔です。』と言う声が聞こえるので、廊下にクストさんがいるのでしょう。私は動けないので見えませんが。


 お針子の方が『終わりました。』の掛け声と共に脱がされ、先程来ていたドレスを着せられ、ソファーに案内されました。セーラがお茶を入れながら


「駄けン・・・ゴホンッ。旦那様をお部屋にお招きしてもよろしいですか?」


 ダケ?


「ええ。構わないです。」


 マリアがドアを開け外にいるクストさんに声を掛けると、マリアを押し退けるようにクストさんが入って来ました。

 クストさんは私の姿を見るなり落ち込み


「なんで、結婚式用のドレスじゃないんだ。」


「当たり前です。旦那様、私を押し退けて入って来るなど、どういうことですか。」


 マリアが怒りながらこちらに来ます。


「ユーフィアに1刻間2時間も会っていないんだぞ。早く会いたいじゃないか。」


 1刻前まで一緒にいましたよ。


「なんで、ドレスを着替えてしまったんだ。俺は見たかったのに。」


「駄け・ゴホンッ。旦那様、楽しみは取っておいた方が宜しいのではないのですか?」


 セーラは風邪でも引いているのでしょうか?


「俺は見たかった。」


 耳がへにょんとして、クストさんがいじけていますが、そんなに見たかったのでしょうか。


「俺の色に包まれている、ユーフィアを見 ゴフッ・・・」


 いつの間にかクストさんが床に伏していました。原因をたどって見ますと、銀の凹んだトレイを持っているセーラがクストさんの後ろに立っておりました。


「駄犬、それ以上言葉にすることはこのセーラが許しません。」


 ダケン?駄犬!セーラ、それは仮にも当主に言っていい言葉ではないような気がしますが 、世界一の侍女になるには、当主に手を出すことは必要なことなのでしょうか?




 最近はクストさんがルジオーネさんに連れて行かれることが多くなりました。

 クストさんがいると、作業が捗らないのでルジオーネさんには感謝しています。


 基盤に大切な魔術式を魔石または魔紙に一定の魔力を込めながら描かなければならないのですが、横からクストさんが『これは何だ?』、『よく分からないな。』、『スッゲー細かいな』と言ってくるのです。


「クストさん、邪魔をするなら外です。もしくは、師団の方に行って下さい。」


「わかった大人しくする。」


 ぱたぱた。ぱたぱた。


「クストさん。」


「大人しくしているぞ。」


「では、もう少し離れてください。尻尾が当たって邪魔です。」


「離れるのは嫌だ。」


「うっ。」


 ぎゅうぎゅうに抱きつかれてしまうのです。これを2回繰り返した時点で、クストさんが居るときに作業するのを諦め、ルジオーネさんにお手紙を出すことにしました。注文を受けた分の時計が作れないのでクストさんを師団の方で預かって欲しいと。手紙を送った次の日には、クストさんを迎えに来てくれました。


 玄関でのお見送りの脳内フレーズはドナドナが相変わらず流れています。前回、ルジオーネさんだけでは逃げられたせいか、二人追加されていました。しかし、きゅーんきゅーんと言う鳴き声が聞こえなければ、犯罪者を取り押さえ、連行していく様にみえます。逃げようとする目付きの悪いクストさんを押さえつける熊獣人と蛇人。説得を続けるルジオーネさん。まさに


「凶悪犯が拘束されているみたい?」


 ぽそりと呟いただけでしたのに、皆さん一斉に私の方を凝視しました。さすが獣人の方々です。

 ブハッ。と隣で聞こえる声はセーラでしょう。マリアにいたっては顔を歪めながらプルプルしています。

 押さえつけている、熊獣人と蛇人の方も肩を揺らしながら


「団長が凶悪犯。マジ受ける。」


「往生際が悪い。凶悪犯。」


「目付きが悪いですからね。仕方かないですね団長。」


 ルジオーネさんは笑い声で、目付きの悪さを指摘していました。


 そして、クストさんは二人の獣人に腕を掴まれながら、項垂れています。まさに、観念した犯人の様相でした。

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