第24話 百合百合で萌え萌えな展開に!?

「ここだ着いたぞ」


 あれからなんやかんやありジルと別れ、フィーエルを連れて我が家の前まで来ると、扉を開け2人が待っている室内へ入る。


 落ち着く空間が広がり、いつもの空気を吸っていると、ゼスティが駆け寄ってきたので気前よく言う。


「ただいま」


「おう、おかえり蒼河……って!その子大丈夫なのか!?」


 ゼスティは俺の真後ろで小麦粉を入れた袋をプルプルとしながら担いだフィーエルに向け、そんな事を言うが、一方その言葉を向けられた本人は汗を垂らし、労働を全うしていた。


「い、い、いやァァァ〜、だ、だ、全然大丈夫ですよぉ〜」


 フィーエルはゼスティの危惧の言葉に応答すると、死んだ目をしながら店の奥へノロノロと進んで行く。


「な、この子もそう言ってるみたいだし」


 俺達はあの後直ぐに小麦粉屋へと足を運び、それを購入したのだが、それが異常な程に重量があったので、筋力が俺よりあるフィーエルに向け、これを運んでくれたら代わりに店で居候させてやると勝手な約束をつけた。正当な取引の元で行なっているので、別に脅して働かせている訳ではない。


「ウヒャ〜もうダメですぅ〜」


 フィーエルは店の奥へと進むと、その場に袋をドスンと置き、白い頭から煙を上げて倒れる。


「フッ、所詮はこの程度だったか、貴様には期待していたんだがな、残念だよ」


 俺はストーリーの中盤で覚醒した主人公によって無残に倒された部下に向かい、黒幕が言う様なセリフを投げると、ゼスティは怪訝な目で俺を見る。


「何言ってるんだ蒼河」


「気にするでないぞ人の子よ」


 俺は覚醒しかけたもう1つの人格を抑え込むと、白い頭からポシュ〜と煙が出ているフィーエルの側は行き、首元に触れて、そーっと脈を測ると。


「し、死んでる!!」


 ゼスティは俺の迫真の演技を華麗にスルーし、話を切り出してくる。


「すっかり気絶してるな、てかこの子と蒼河って知り合いなのか?」


「あー、あれだ、と、友達?とか」


 確かにコイツと俺ってどういう関係なのだろうか、天使と転移者といえば簡単だが、それを巧みに伝える為の口述なんて生憎俺には備わっていない。


「って、あれ?レイグさんは?」


 そういえばさっきから何かが足りないと思ったが、それはフィーエルを快く歓迎してくれたであろうレイグさんの存在だ。


「それが急用が出来たみたいで、これを置いて出て行ってしまったんだ」


 ゼスティに達筆で書かれた手紙を手渡され、目を通してみると。


『私事で恐縮ですが、暫くの間遠方へ赴いて参ります』


 無駄を省いてあっさりとしていると言うより、肝心の内容が伝わらなく、何処かへ行ってしまったという事が伝わってこない。


「これだけか?具体的に分からないのかよ?」


 思わずに当たり前の疑問をゼスティにぶつけてみるが、ゼスティも俺と同じで、本当に必要最低限の情報しか知らないようだ。


「うーん、行き先について尋ねても答えてくれなかったしな、でも蒼河みたいのをお土産にして帰ってくるだろ」


 ゼスティが言った意味が分からなかった。もしかしてボケてんのか?不器用だなと思いつつ、それに乗っかる。


「言っとくが俺はお土産じゃないぞ、第一俺みたいなのが大量にいるとか嫌だぞ俺は」


 ゼスティのしょうもないボケに、俺がつまらないツッコミで味付けをし、最悪なハーモニーが広がっていく。


「あっ、言ってなかったか、蒼河がこの店に来た時もな、お爺ちゃんがこんな手紙を残していって、帰って来た時には同じ様に変な奴がまた来るんじゃないかなーと思ってなr


 今サラッと俺の事を変と言っていたが、それは自負しているので良いとして、俺はそんな偶然でレイグさんに拾われたのか、俺って運が良かったんだなと、つくづく思うが、俺の様な奴をもう1匹拾ってこられるのは困る。


「俺みたいな穀潰しがもう1人増えるとか、それは勘弁してほしいな、このポジションは俺の専売特許でもあるし、一応誇りに思ってるんだぞ」


「そんなろくでもない物を専売しなくていい、せめてそのポジションを恥に思ってくれ……」


 ゼスティは俺の適当っぷりに頭を抱えている。


「てかコイツはどうすんだ?」


 倒れているフィーエルに近づき、違和感を覚える。


 空気を吸う動作をしていなく、命の息吹を感じない。


「ツッ!どうしよっ!このままじゃ本当に死んじゃう!」


「そ、蒼河落ち着けッ!まずはこういう時は……どうすればいいんだァ!?」


「やっぱ人工呼吸とか?よしそれじゃあ失礼しま……ッて痛い!何すんだ!?これは救命活動の一環だぞ?俺がこのロリ少女に劣情なんて抱くとおもってんのか!?」


「そういう問題じゃなくてだな、それは私がやるから蒼河は黙って見ておけ!」


「見ておけって……お、おう」


 ゼスティのピンクに火照る唇がフィーエルの唇へと徐々に近づいていき。


「ゴホッ!ゲヘッ!」


 フィーエルがギリギリの所で息を吹き返す。


 幸運か不幸か、人によってその意見は分かれるだろうが、少なくとも俺は幸運だった、しかし俺が第三者だったら間違いなく不幸だと思うだろう。


 それは何故か、答えは簡単だ、少女達の接吻を見ることができるからだ。出来れば唇が重なった瞬間に目を覚まし『ちょ!何してんの!?』とが言う百合展開も見たい。


 そんなことでゼスティの唇が重なる寸前に意識を取り戻すと、いつもの調子で口を開く。


「そんなに顔を近づけてどうされたんです?もしかして私狙われてました?」


「い、いやッ、何でもない!そ、そうだよな蒼河?」


 ゼスティの瞳には同調しろとそんな意が込められていたが、鈍感系の俺はそんな意図を汲むことが出来ずに。


「自分の欲望には正直になった方がいいぞ、って事で、ほら早くチューしろ」


「バ、バカやろう!!」


 ゼスティが目に涙を浮かべ、フィーエルを飛び越え俺を駆逐しに来たので、扉から外へ飛び出て夜の街へ逃げ出すのであった。


「おい、待てェ!蒼河ァ!」


「追いかけっこはもうこりごりだぁ〜!!」


 俺はそのまま夜の街へフェードアウトしていった。

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