『恩讐の彼方に』感想など

 実はあの中でいちばん地獄なのは、菊池さんなのではないだろうか…と思った『恩讐の彼方に』でした。


 前回の、冷酷にも見える合理的、冷静さは、演技の部分もあったとわかりましたが…。

 だからこそ、辛い。


 地獄より地獄的だと思った箇所を以下羅列。


 1 「俺にも、龍に見える」

 2 本人の口から語られる『親友を救えなかった後悔』

 3 救いたい親友と同じ姿の者を手にかけなくてはいけない、その役割を自ら進んでしようとする(せざるを得ない立場)

 4 復讐を完遂しない作品の中で、作者が敵を殺すことを選ぶ

 5 自分がやらなくてはいけないという責任感と、斬りたくないという本音。その本音が、無頼派という若手を無意識に呼ぶ(潜書は、作者が望んだ相手しか出来ない)


 1ですが…あんな辛そうな声で「俺にも龍に見える」なんて言われた日には、胸が張り裂けます。

「あいつは敵だ。間違いない」と冷静に断じた人が、本当の本当は「親友に見える」と思っていたこと。

 それを必死で隠していたこと。それが漏れ出てしまうくらい、本当は辛かったこと。

 泣くのを我慢しているみたいな、震える声。

 生前からこういう役回りを任されがちな方でしたが、転生後までしなくても。

 いや、その役を他の人間に回さず、自分が引き受けてしまうところこそ『菊池寛』なのですが。

 ブレないところが、恰好良いのですが辛いです。

 吉川さんも転生させて欲しい…。フォローを…。


 2の後悔。まさか、二回も本人の口から語られるとは思っておらず、非常に心が痛い。

 何度も「救えたかもしれない」未来を想像して、その未来を選択しなかった自分を責める。

 そうだっただろうと思ってはいましたが、いざ語られると、思いのほかきつかったです。

 原作ですら、ここまで言わなかったのに。

 救える可能性があるなら、それがどんなに辛くても、手を汚すことになっても、今度は絶対にやってやる、という強い気持ちはひしひしと伝わってきましたが…誰か、寛さんを助けて欲しい。

 あの寛さんは、間違いなく龍さんを助けるために命を投げ打ってしまいそうな気がします。


 それが、4にかかってきている気が。

 文アニの世界では、物語を作者が完遂させることと侵蝕者を排除することが、浄化の条件です。

 けれど、あの作品の中で、寛さんが侵蝕者芥川さんを殺してしまう。

 芥川さん(?)が例え侵蝕者だとしても、あの状態だと、『侵蝕者を排除した』というより『仇討ちしないはずのラストが仇討ちするラストへ改変された』認定をされてしまいそうな気がします。

 つまり、下手をすると『恩讐の彼方に』は消えてしまう。

 それなのに、あの作品を『敢えて』寛さんは選んだ。

 捨て身過ぎやしませんか。

 友人は「これは、侵蝕者芥川さんに対する贖罪と、転生前の救えなかったことに対するけじめをつけようとしたのではないか」と考察していました。

 本音は斬りたくないわけだし、自分もそうかも知れないと思っています。辛い。


 3は…たぶん、寛さんは、たっちゃんこや久米さんでは、芥川さんを斬れないと思っているのだろうなと。

 信頼していないわけではなくて、「(こういう役回りに慣れてる)自分ですら動揺している。二人は、もっとするかも知れない」という心配や合理的な判断、「俺と同じ気持ちをこいつらには味わわせたくない」という優しさからかと思います。

 自分だって嫌だと思っているし、やりたくないと思っているのに、寛さんは選んでしまえるんですよね。そこが好きだけど、悲しい。

 もっと周りにも背負わせていいのに。


 たっちゃんこは「芥川さんを救うためなら何でもするという覚悟は本物だ。けど、偽物だとわかっていても、いざというとき自分に斬れるだろうか」という迷いが自分にあるのをたぶんわかっているような気がします。

 だから「申し訳ない…自分が不甲斐ない…」と思っていそうです。

 久米さんは「自分が斬らないこと」に思わず安心して、そんな安心した自分に対して自己嫌悪するけれど、だからといって「寛、僕がやるよ」とはどうしても言えない。そこでまた自己嫌悪する…というループにハマってそうです。


 この二人の気持ちも、寛さんはわかってそうだなぁ。

 わかっているからこそ、二人には任せないだろうなあ…。


 5の無頼派が止めに入ることが出来たこと。

 寛さんが無頼派乱入を「無意識に自分を止められる人材を求めた結果」だと察したかはわかりませんが、でも察しているからこそ、苛立った口調なのかも知れない。

 邪魔するな、の苛立ちもありつつ、「この期に及んで、誰かに止めて欲しいと願った弱い自分」に対する苛立ちでもありそうな。

 だから、少し八つ当たり的な部分もあるのかなと。


 しかし、太宰さんの大鎌を止められるあの鞭、強すぎやしませんか。


 まだまだ語りたいことは山ほどあるのですが(太宰さんを実は褒めてる寛さんとか。オダサクさんや秋声さんといった、転生前に気にかけていた人で、相手も自分を尊敬してくれたり頼りにしたりしてくれていた、言うなれば好意的だった関係性の人と反目する羽目になる寛さんの心もちを考えると辛いこととか)あと30分したら関西圏での放送が始まるので、このあたりで。

 今回の文豪グルメは、何でしょうか。

 この間のうどんと、ゲームでの新たなうどん回想を見て、寛さんはやはりうどん県民なのだと意識を改めました。

 そんな寛さんに伊勢うどんを食べさせたいと思うのは、自分だけでしょうか。

 乱歩さん(三重出身)、ちょっとやってみてくれませんか。


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