第13話 魔法

第13話 魔法


「さて、アンナ、もう動いても構わないわ」


 その言葉と同時に、アンナさんが立ち上がると、ものすごい勢いで部屋から出て行ってしまった。あんなドタバタ動くアンナさん初めて見たぞ。


「ふむ。まぁ恥ずかしかったんだろうね、仕方ないか。今みたいな状態はむしろチャンスなのにね、少年」


「なんで俺に同意を求めるんですか」


 ふふ、と意味ありげに笑うオリアナ先生。なんでこんな邪悪なんだこの人は。黙ってたら美少女なのに。


「さて、まだ午前中だがちょうどいい、魔法について説明しようじゃないか。すぐに使う練習をしてもいいが、理屈を知っている方がたぶんキミには都合がいいはずだ」


 まぁそうだろうな。イメージを現実に当てはめる、ということしか知らないからな、今は。


「大括りに魔法、とは言うが、魔法には大きく分けて3種類ある。──精霊魔法、儀式魔法、それらに属さない特殊な魔法群だ」


「なるほど、属性ってのは精霊魔法の考え方によるものなんですね」


「そう、その通りだ。自然界に存在する精霊たちにお願いして現象を発生させてもらう。精霊はお願いに応じて術者に魔力を要求する。精霊は火、水、風、土、光、闇の6種の存在が確認されているな」


 ふーん、クリスに教えてもらった通りの属性だな。


「相反する属性の魔法を同時に扱えない、というのは?」


 うんうん、と頷いて見せながらオリアナ先生はさらに続けた。


「いい質問だ。彼らは気まぐれで意外とプライドも高くてね。仲の悪い相手に先にお願いしてしまうと力を貸してくれなくなるのさ。嫉妬深いんだ」


 そしておもむろに左手を差し伸べると、手の甲に半透明で緑色の鳥のようなものが止まっているのが見えるようになった。


「見えるだろう? 彼はここにいた風の精霊だ。わたしは風の精霊とは仲が良くてね、割と融通を利かせてくれるんだ。風の民だからね」


 森の民じゃないのか。


「見えます……! すげえ、本当にそこにいるのか」


 相変わらず語彙力が小学生レベルになってしまった。


「あ、でもアンナさんは水属性の魔法のすぐ後に火属性の魔法を使っていましたよ?」


 サラサラ、とオリアナ先生の白金に輝く髪にまとわりつくようにして、風の精霊は見えなくなってしまった。ふわっ、と柔らかい風がこちらにも流れてくる。


「まぁそう焦らなくてもひとつづつ説明してやるから。次は儀式魔法だ。特定のしぐさや言葉、陣などに意味を持たせ、それに対応して発現する魔法だ。市井で一般的に使われる魔法はまずこれだな。魔法の発現に必要な魔法の出力があれば基本的には丸暗記するだけで魔法を使うことができる」


 そういうと右手で指パッチンをしてみせる。すると、人差し指の先に小さな火が生まれた。


「種火の魔法だ。本来であれば、『ヤー・セルク・ダウ』と呪文を唱える必要があるが慣れればさっきのように詠唱を破棄したり、短縮したりすることができる。ああ、まだ試してみようとするなよ?」


 ほー、便利な魔法だな。しかし実際にはなにが燃えてるんだろうな、あれ。ただ火を出すだけなら一瞬で消えてしまうはずだけど。


「なるほど、誰でも使える、というのはいいですね」


「そうだな、規模も威力も、基本的には誰でも同じようなレベルで使用することができる。しかし、魔力の効率はあまりよくないのが難点だな。だから、生活レベルで利用する小規模な魔法も多い。ちなみに、少年や勇者サマを召喚したものも儀式魔法の一つだ。あちらはとてつもなく大規模で準備が大変だし、神託とあの木剣がないとそもそも発動しない」


 ああ、確かに勇者召喚なんて「儀式」そのものって感じするよな。俺を巻き込まなきゃ完璧だったんだろうけど。


「そして、先の二つに属さない特殊な魔法群だ。わたしは基本的に、弟子にはこのタイプの魔法を教えている。イメージを現実に当てはめる類の魔法だ。特定の家系にしか使えないものがあったり、精霊魔法や儀式魔法では実現できないような魔法を行使することができる。非常に多様だし融通が利きやすく、個人で新しい魔法を作ることさえ可能だ。


「いや、俺はただアドバイスしただけで」


「他人に再現可能な新しい現象を生み出したんだ、立派に新魔法さ」


 オリアナ先生は指先から水を出し、それを何かの模様のように描くと、一瞬で凍らせてみせた。アンナさんの横顔のようだ。芸が細かいな……


「この魔法の素晴らしい点は、生み出す水の温度を自由に調節できること、これまで再現性のなかった氷さえ生み出せる点で画期的だ。何より、魔力の使用量があまり増加しないことが素晴らしいな。二度魔法を使うよりはるかに小さい。おそらく、温度変化の部分はほとんど使からだろう」


「どういうことです?」


「基本的に、属性を意識せずに使用することができるのは儀式魔法だけなんだ。それ以外の魔法は、使用する際に、自分の魔力を使用しようとする属性の魔力に変換する必要がある。この変換効率が悪いんだよ。で、魔力を変換する関係上得意不得意も出てくるし、同時に相反する属性の魔法を使うことはできない。水と火のようにな」


「ああ、なるほど、温度変化の部分は属性変換しないで済むからですか」


 結構いろんな理論に基づいて魔法って使われてるんだな。


「そうだな。で、今の少年の魔法出力では、左手でごく小規模な儀式魔法を使うのがやっとだろうな。属性の変換が必要な魔法はまず使えないだろう」


 え、こんだけ説明しておいて俺魔法使えないの?


「というわけで、まずは自分の魔力を操ることを覚えて、魔力の通り道を広げていき、魔法出力を上げる訓練をしていこう。なに、心配はないよ、少年。キミはあの勇者クンとの戦いの最後、明らかに自己強化魔法を使用していたからね。強化魔法は属性を使用しない魔法だし、基本的に魔力を自分の体から出力する必要がない魔法だったからだろう」


「魔力を操る……。そもそも感じることも見ることもできないのに?」


 そこでオリアナ先生は今日一番のどや顔を見せた。


「そうだな、なので少年、。キミと長い時間一緒にいてキミに協力的な人物が理想だね」

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