第9話 クインビーレポート

第9話 クインビーレポート


提出日:王国歴754年 6の月 38日

学籍:近代歴史学部 近代歴史学科 人魔戦争史専攻 学籍番号194352

担当者名:エイミー・クリスティーナ・ロゥ・カーバルティ

科目名:人魔戦争史

レポート課題:最後の勇者について


序論


 魔法の世界を変えたと言われるオリアナ・クインビーが、記したとされる一連の報告書がある。クインビーレポートだ。

 永らく封印指定を受けており、その存在さえ公式に認められていなかったこの報告書が、情報公開法による開示請求のもと執筆から220年の時を経て、一部ではあるが公開された。

 クインビーレポートによれば、最後の勇者は「レン・タキミ」なる人物であるとされており、これは現在我々が最後の勇者として認識している人物とは異なっている。

 なお、オリアナ・クインビーは現在も存命であり、カーバルティア王国に居を構えているが、今回直接話を伺うことはできなかった。

 本稿では、公開されたクインビーレポートの一節「召喚された勇者の性能と危険性、および今回の召還の特異性」を基に、最後の勇者、と呼ばれる人物について考察することを目的とする。


本論


第一節 勇者召喚とは


 序論で述べたように、「召喚された勇者の性能と危険性、および今回の召還の特異性」(以降レポートと表記する)に記載されている勇者は、レン・タキミとされている。一方現在我々の知る最後の勇者は「マモル・ハナフサ」である。


 150年に及ぶ人魔戦争において世界各地で60回以上も繰り返された勇者召喚は、神に祝福されたを人類にもたらすものであったと考えられる。

 召喚でもたらされる勇者は、人類に対し従順で献身的、身体的に極めて頑健で、木剣ですら石畳を割るほどの力を持ち、その身には莫大な魔力を宿す、魔族の領域への少数での浸透突破に極めて有効な手段であったと言える。また、勇者は死を迎える際、周囲を更地に変えるほどの魔法的破壊をもたらすまさに攻性の兵器と呼ぶにふさわしいものであった。

 人を人として扱わない勇者召喚の在り方には多くの疑問の余地があるが、この問題については現在でも神学者によって盛んに議論されているためここでは扱わない。


第二節 特異性


 レポートによれば王国歴532年我が国で行われた勇者召喚において、召喚された人物は2人いたとされている。レン・タキミ(以降レンと表記)とマモル・ハナフサ(以降マモルと表記)だ。

 神託とともに地上に顕現し、勇者の死とともに失われる勇者判別のための木剣をレンが手にし、マモルは触れることもできなかったことから、この時に召喚された勇者は「レン・タキミ」であったことに疑いの余地はない。


 勇者召喚で勇者以外の人間が召喚された例は150年の勇者召喚の歴史の中で3度しかない。マモル以外の2人については召喚からまもなく死亡しているため、詳細は不明であるが、1人は召喚された国の王によって処刑されたことがわかっている。


 レンとマモルは当時の王、カルロⅡ世の意向で、召喚されたその場で手合わせを行っている。

 レンは手にした木剣で、マモルはその場に自分の扱える武器がないことから、無手で立ち会った。

 立ち合いは2分に満たない時間でマモルによる敗北宣言により終了した。立ち合いそのものはマモルが圧倒していたが、マモルの攻撃はレンに何のダメージも与えられなかったようだ。

マモルはこの立ち合いの中で左手の小指にひびが入っていたため、カルロII世の長女、クリスティーナ王女による癒しを受けている。


 その後、クリスティーナ王女の癒しを受けながら戦士としてのレンの評価についてカルロII世に報告していたマモルは、背中からレンの襲撃を受ける。窓に映るレンに反応はしていたが、治療中の王女を突き飛ばしたために攻撃を躱すことができず、ほぼちぎれかけるほどの損傷を左腕に受けている。


 「女性ごと背中から斬るのが勇者の正義か」と指弾するマモルに対し、木剣を手放し哄笑しながら自己の正当性を訴えるレン。

「自分は勇者であるから何をしても許される。勝てばそれでいい」という主張に対し、マモルは激昂、レンに対して猛攻を加える。


 マモルは、左腕をレンの顔面に叩きつけ、血によって目つぶしを行い、急所を蹴り上げ、左耳をつかんで地面に引き倒し、首筋に足刀を打ち付けた。この時、マモルは自分の負傷に全く頓着しておらず、痛みも感じていないようだったという。

 オリアナ・クインビーはこの時のマモルの一連の攻撃について、マモルが本能的に自己強化魔法を行使していたものと判断している。また同時に、レンの頑健性が何らかの要因によって変動するとも推察している。

 なんにせよ、この一連の攻防によって、レンは左目を失い、マモルの左腕も引きちぎれてしまった。クリスティーナ王女がいなければ、両者ともにより深刻な状態に陥っていたであろう。


結論


 レンの主張も、マモルという一般人(勇者ではない者)による勇者への大ダメージも、この時の勇者召喚に何らかの問題があったことを示していると思われる。その具体的な内容は、今回公開されたレポート内には記載されていなかったが、過去の勇者と比較して、レンが人間的に問題を抱えていたことは間違いないであろう。

 また、レンの死と、魔王の死に年単位の時間差があることがこれまでの研究で分かっていることから、魔王を倒したのがレン以外の人物であることは明白である。

 このことを合わせて考えると、魔王を倒したのはマモルであったのではないか。

 実際の最後の勇者と、我々の知る最後の勇者が別人であることも、そう考えれば納得できると思われる。



評価 B


 クインビーレポートに目を付けた点は面白い。序論における勇者召喚の在り方についての考察も評価できます。しかし、本論の内容はクインビーレポートの焼き直しに過ぎない点が多すぎます。また、結論における主張の飛躍を裏付けるための証拠が弱いですね。一層の努力を期待します。

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