第14話 一次試験の結果

浦和レッドドラゴンズ




「…最後に二宮ケイ。以上32名が1次試験の合格者だ。合否関わらず今日は我が浦和レッドドラゴンズのスペシャルアスリートご飯をご賞味いただこう!がっはははっはは!」


大声で何がそんなに楽しいのだ、とセレクション生全員思ったのではないだろうか。


俺の周りにはガッツポーズを掲げる者や、次もあると顔を引き締める者。お、あのざまぁ少年も受かったみたいだな。顔を真っ赤にして喜んでいる。それにしてもこいつ直ぐ顔赤くなるな。可愛いじゃんか。


しかし少し先を行くと極端に違う空気が尾を引いている。


傍や、元々無理だったと瞼を閉じて観念する奴もいる。俺はこういう奴が嫌いだ。


それなら人の目も憚らず泣きじゃくる目の前の赤毛の少年の方が何倍もいい。スポバに入っていたティッシュを渡す。


選ばれた者として、お前の分も勝ち進んで行くよ。


このどんよりした雰囲気。合格した奴らも静かだ。俺には散々当たりが強かったのにお前ら空気読めるんだな。


まぁ、選ばれない気持ちは凄く分かる。だからこそ、それをバネにして成長して欲しいものだ。




さてさてさてー。


アスリート飯と聞いて俺の中に疼くスポーツ選手魂が.......じゅるり...楽しみだと思っているのは俺だけだろうか。



しかし浦和か、大宮アルディーにお世話になっているからそこ行けばいいじゃん!と思うかもしれないが、俺が此処を選んだ一番の理由は食事なんだ。


スポーツや身体が資本の者にとって運動後30分以内に炭水化物やプロテインを摂取する事は何より意識しなければならない事。


なぜなら人間の体は絶えずエネルギーを消費しており、中でも炭水化物から発生するピルビン酸という部質が足りなくなると筋肉や骨などを消費してエネルギーに変えてしまう。


残るのはスカスカの骨だけだ。骨密度なんて計測した日は大変よ。


長距離走の選手なんて最後の方なんかは体を犠牲にして走っている様なものだ。


だからこそ運動後のエネルギー摂取として家から近い浦和を選んだのよ。別にあいつらアルディーが嫌いな訳ではない。




しかし、ふぅ.....第一関門クリアだな。何故か最後まで名前を呼ばれず少し緊張したよ。


半分くらいが足切りに合うと思っていたが予想以上に落としたな。流石日本最高峰の育成機関である。選考も容赦ないな。



おっと、考え事をしていたら食堂に着いたみたいだ。真っ白なプレハブだ。先程から漂うこのスパイスの匂いは!これは相当期待出来る。


じゅるり....ヨダレが溢れてくる。


腹ペコのセレクション生総勢120名が中にぞろぞろ入ると、バンダナを巻いたおばさんが仁王立ちで立っている。


「はいどーぞ!特盛カツカレー120人前よー!米一粒残すんじゃないよ!」


来たぁーーー!今なら特盛だろうと超盛りだろうと食べれる。


しかしなんつー数のカツカレー。圧巻だな。一体どうやって作っているのか。周りをキョロキョロ見てもおばちゃんしか居ないみたいだ。不思議だ。二宮の浦和レッドの七不思議に認定しよう。


しかしなんて縁起が良い物を用意してくれたんだ。もう食べていいよね。


え、何この皆で頂きますしましょうな雰囲気。俺の腹は限界だーー


「えーまずは最初に星野さんに感謝だ!」


「「ありがとうございます」」


「そして俺に感謝だ」


「..........しーん」


…...………………..Orz


「頂きます」


「「いただきまーす」」


お、誰だろう、サンキュー。


俺です。テヘペロ。


ふぅ、食った、食った。もう星野おばちゃん最高。素材から滲み出る旨味とスパイスの香り立つカレー。カツはサクサクとした衣の感触がたまらん。カツ、ご飯、カレーを一緒に入れた時は三位一体パーフェクト。


感動的な旨さだった。


げぷっん。ひぃえーもう動けないー。


ん?周りを見てみると半分も食べれてないじゃん。


こいつら情けねえなー。食べる事もサッカーの訓練だそ。全く分ってねぇな。土台あってのサッカーだろ。


てか逆に何で俺はこんなに食べても身長伸びないんだ...。



毎日3食欠かさず食べているのにどうしてだ。栄養バランスもかなり気を使っている。何故だ....。


そう。俺は同世代の中では比較的低い方だ。小学校で整列する時は前から4番目とかなり微妙、いや低身長のエリアにいる。


身長は133センチだ。小学4年生の平均が139センチだから、俺がチビだと分かりいただけたでしょうか。


くっ、大丈夫。俺は大丈夫。気を抜くとorzしそうだ。父さんは180超えだ。きっと俺もすらっとした高身長になる筈だ!


「飯美味かっただろ!星野ばあさんが作る料理はどれも絶品よ!さてセレクションの話に戻るか。2次試験だがこれから30分後に行う。受ける奴はしっかりアップしとけー!また残念ながら1次で落ちた者は見学になる。特に今年は学べる事が沢山あるだろう。1秒も無駄にしない事だ。」


俺の方見て話すなよ、おい。


お前らも俺見るな。漫画みたいに目に火を灯すな。あっち行けよ。


だが先程どんよりしていた80人もやる気を取り戻したみたいだな。こんなに全力で野郎に見られても嬉しくないけど。


全く本当に掌返しだな。性格は悪くても、サッカーには貪欲か。そういうの好きだよ。


はぁ。全く、しっかり見とけよ。初披露の【スキル】もあるからな。



◆◆◆◆◆◆◆



誰も遅刻せず集まったみたいだな。見学の奴らは端の方で私語を謹み、こちらを見ている。


1次を突破した奴らは各々アップを終えたのだろう。熱気がフィールドに充満している。


最初は4v4のミニゲームのランダムマッチ。持ち時間はたったの10分。何回マッチするのか書かれてないな。


試験官が満足感するまでだろう。もちろんハーフタイムなんてものは無い。試合回数によっては体力的に厳しいものがある。8v8も後に控えているからな。


ボードに貼ってある自分の組はAチームだ。なんだかメンバー緊張しているな。まぁいいか。あまりというか同世代と組んだことないから勝手が分からん。


「よろしく。二宮ケイだ。」


残りの3人も名前を言ってくる。あまり出番は無いだろうけど頑張れと性格悪い事を言いそうになる。


しかし、このミニゲームは個人技を見るものだ。だからここはエゴにならなくては。


それに俺は実戦経験がほぼない。味方を使うのは得意不得意以前に経験がない。だから思いきって個人技単色でいこう、ごめんな。


幸いミニゲームは何回かやるみたいだし、試合の中でチームプレイやチームワークを学べばいいだろう。


それに【最先端サッカー学】の中には対人関係学、共同作業理論、チームワーク向上考察等ある。基礎技術を最優先で鍛えてきたから後回しにし続けて来た分野もこれからは力を入れなくてはいけないな。




ピっ!


さてスタートしたみたいだな、試験官&主審を兼任しているみたいだ。因みにゴールキーパーは1学年上のジュニアが足を運んでくださった。


先輩には悪いが敵チームにいる以上全力で行かせてもらおう。


正気こんなのはアップだ。味方からボールを貰いボールフェイントで相手選手を一発で躱す。アジリティの差が違い過ぎるんだよ。


そしてダッシュでゴールに向い一瞬減速したと見せかけて、加速し他の選手を振り切る。まだゴールまで大分距離はあるが足を振り切り弾丸シュート。


幼少期から武術で鍛えた体幹と水泳で得た柔軟性で全体の力を余すことなくボールに伝える。鞭みたいにしなやかなキックフォーム。


これは小柄ながら世界一のサッカー選手として、前代未聞の6度バロンドールを獲得したメッシの得意キックフォームだ。


そして俺は圧倒的な体幹と【精密操作】でどんなに姿勢が崩れていてもこの最高峰のシュートを打てる。


ボールは弾丸の様に真っ直ぐゴールに向い、ゴールネットに突き刺さる。


ここまでに用いた時間は15秒。


インパクト時のキック音があまりにもデカ過ぎて隣のコートで試合を行っている連中もギョッとした目でこちらを見てくる。


さて、あと何回ゴール決めれば合格できるかな。



その後10分間は相手選手にとって今までのサッカー人生で最悪のものだっただろう。囲んでも意味がない、ボールを持っても直ぐに取られる。近、中、長とどの場所からでも正確にゴールに届ける精度。


ーーーー結果は0-12




そして二宮のチームは最初の試合に続き全試合2桁差で全勝し続け、圧倒的な結果を出した。


しかし二宮はまだ本気を出していない。月に1回しか使用できないという制約が付いているものの、全アスリートが望む【スキル】。



早く次の試験始まらないかな、と静かに闘志を燃やす二宮ケイがそこに。

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