ログ:朋然ノ巫女(1)

 明日、死ぬために生きてきた。

 なんとも残酷な響きだ。

 死ぬと決められて生きるとはどんな気分なのだろう。

 死ねば皆に喜ばれる存在とは果たしてどんな人間なのだろう。

 ――紗也。

 少女の瞳に見えた光。

 あれは己の役目に何の疑いもなく生きている純粋な眼光だった。

 暗い希望を宿した目だった。

 肩に湯をかけた。湯けむりが視界をぼかしている。宴席が閉じた後、モトリに頼んで湯殿を支度させた。今夜も風呂に入りたくなった。湯の中で身体を伸ばす。四肢の弛緩を感じながらエリサは心を寛がせた。湯殿に満ちる木の香りもよい。

「そんな顔するんですね」

「っ! 紗也様、いつからそこにっ」

「えへ、驚かせちゃった」

 麻色の髪が水面に広がっている。湯けむりに隠れて紗也が隣に座っていた。

「巫女としては、ホントは清めた水で身体をすすぐのが正しいんだけど、今夜は雨で肌寒いからお湯に入るの」

「……そんなことが許されるのですか?」

「私を許せない人がこの村にいると思う?」

「……これはご無礼を。どうかお許しください」

「うんいいよ」

 紗也はにんまりと得意げな顔だ。エリサと違い彼女は身に白い衣を纏っている。

「お話がしたくて待ってたんだよ。旅人さんを」

「私とですか」

「ですとかくださいとか使わないで。ここに鉄平はいないし、普通にして」

「はぁ」

「まぁまぁ、裸の付き合いをしましょう、ねぇ旅人さん」

「あなたは着てるじゃない」

「はっ、そうだった!」

 頬に手を当てショックを受けた紗也。けれどすぐに表情を戻すとずいと近づいてきた。

「ねぇねぇ、旅人さんはエリサって名前だよね。なんて呼んだらいいのかな? ずっと聞きたかったの。あんまりお話してないし、ゲイツさんよりお喋りが苦手なのかなって思ってたんだ。そうそう、二人ともすごく綺麗だよね、私、髪が青い人って初めて見たよ」

 止まらない。

「い、一個ずつ答えさせて」

「はっ、いけない! 困らせちゃったごめんなさい」

 紗也は言いながら湯の底に沈んだ。

「そこまで落ち込まなくていい!」

 湯の中で膝を抱える紗也を引っ張り上げた。

「いったーい! 鼻にお湯入ったぁー!」

 引き揚げられた紗也はゲホゲホとむせる。

「とりあえず落ち着こう?」

 なんだか調子が狂う。

「呼び方はエリサで良い。他のは慣れない」

「えぇ、じゃあ……エリサちゃん!」

「……それ以外がいいな」

 ゲイツの情けない顔が浮かんできたから却下。すると紗也は腕を組んでうーんと唸り、ぱっと顔を明るめた。

「エリー、エリーにしよ! よその人っぽくてかわいいから、エリーで決まり!」

 小さな肩を上げ、目を輝かせた紗也は無邪気に言う。それを見てるとなんだか胸が温まる。

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