第3話:レキちゃんとソラくん、イケメンに出会う。そのいち!
俺の名前は
出身はみそらの学園のあるT市じゃなくて、S市に隣接するM郡A村っつード田舎だけど、最寄りの沿線がS市を横断するラインだから、アイツらのことは知ってた。
中学は違ったし、実物を見たこともなかったけど、よく女子が、
『超絶尊い男子カップル』
とか何とか騒いでいたので、どうもS市に、ガチホモっつーと差別用語だけど、いわゆるそういう二人組がいる、しかも双方見目麗しい、っていう情報はよく耳にしていたし、同じ日に同じ病院で生まれて以来ずっと一緒に育って、女子ども曰く『同性愛とかそういう概念皆無で好き合っている二人』っていうエピソードも聞いたことがあった。
正直、羨ましかった。
『ねぇシン、高校行ってもたまにはこうして会おうよぉ』
S市の安っちいラブホで頭空っぽのセフレにそう言われながら、俺は返事もせずにタバコを吸い続けた。
『あのさぁ水久保、私たち、その、付き合ってるっていう認識で、いいのか、な』
学校行事でたまたまやりとりが増えた勘違い女にそう言われても、俺は何も応えられなかった。ただ首を横に振って、またタバコに火をつけた。
そんで、見たこともない『超絶尊いカップル』とやらに思いを馳せていた。
「レキちゃん! おんなじクラス嬉しいねぇ!!」
「ん、そうだな。ユイは別だけど」
だからついさっき、みそらの学園の入学式で全校生徒の度肝を抜いた二人をリアルに近距離で視認した時、妙な話だけどなんか緊張した。
新入生代表として挨拶したちっこい方、ソラって奴が、挨拶の後にこう言ったのだ。
『ところで俺は、一年D組のレキちゃんが大好きです。レキちゃんも俺のことが大好きです。レキちゃんはかっこいいからコクってくる女子とか多いんだけど、俺のもんだから変な目で見ないで下さい。以上です!』
これには全校生徒および教師陣もぽかんと口を開け、数秒後にざわざわと一年D組の長身の男子に視線が集まった。
キツい顔立ちだけど、瞳の色が灰色に近い蒼のそいつは、間延びした声でこう返した。
『ん、異議ナシ。ソラは俺のもんだから、手ぇ出す奴がいたら上級生だろうが教師だろうが俺がもれなく蹴り殺しますのでよろしくお願いします。以上』
なんのてらいもなくそう言い放ったレキとかいう奴は、男の俺から見ても誠実で一本筋が通っていて、何だか見ていて天晴れというか、かっこいいとすら思えた。
式が終わってひとりで教室に移動する間、こんな声が耳に入ってきた。
——D組うらやまー! あの二人と水久保くんいるって最高じゃん!
——かっこいいよね、水久保くん!
カッコイイヨネ、ミズクボクン。
俺は——
これまで俺にたかってきた女子はみんな俺の外見にしか興味がない。
そう思っていた。
だからあの二人が羨ましかった。
男同士だろうが何だろうが、生まれてからずっとの付き合いなら相手の嫌なところだってクソほど見てきてるはずだ。それでも全校生徒の前であんなことを言ってのけるなんて、本当にお互いが好きなんだ。
俺は——
「ねぇレキちゃん! 見てよ!」
「んー?」
「窓際の後ろ、かっこいい人いるよ!」
「ん? ああ、確かに。男前ってやつだ」
「俺、お友達になってみる!」
「ん、迷惑かけんなよー」
……ん?
廊下側の前の席に前後に座っていたレキとソラのソラの方が、にこにこしながらこっちに向かってくる。
——ちょっと待て、俺か? 男前って俺のことか?!
完全に不意打ちだ。心の準備ができてない。でも席を立って逃げるには不自然な距離までソラは迫ってきていた。
「はじめまして! 俺、ソラっていいます! S市出身です! お名前教えて下さい!」
「あ、えと……」
ポーカーフェイス、ポーカーフェイス、自分にそう言い聞かせて俺は冷静を装う。
「お、俺は水久保シン。M郡の中学出身で、えーと、あんたとあそこの人のことは前から聞いてた」
「えええ! マジで?! レキちゃんのことも知ってたの?! M郡の人が?!」
「あんたら結構有名だぞ?」
「レキちゃん聞いたー?! 俺ら有名人なんだってー!」
他の生徒たちは、まるでこの教室の床すべてに針が立っているような緊張感で俺とソラの会話を見守っていた。
「じゃあ水久保くん、お友達になろうよ! 俺、高校でいーっぱい友達作りたいの!」
「え、ああ、俺はいいけど、その、あの人的に大丈夫なら……」
「レキちゃんのこと? うん、大丈夫! よろしくね!」
そんなこんなで俺はソラの『お友達』に認定された。
それがたった数日後、あんな修羅場を引き起こすことになるなんて、予想だにしてなかったけどな。
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