呪いの赤ずきんちゃん?

「赤ずきんちゃん?」


 わたしともえちゃんは同時に叫んだ。


「お前ら、声でかいって! ちょっとこっち来い」

「わっちょっと、ひっぱらないでよ!」

 ナツメさんはわたしたちの声を聞いて、もえちゃんが背負ってる学校指定の通学かばんを引っ張って、お店の裏の、お家の玄関げんかんの近くまで行ってしまった。わたしも急いでついていく。

 ヨジロウは……まだガラス戸に顔をはり付けてた。よっぽど油揚げが食べたいのね。そっとしておいてあげよう。

 お店の裏側に建ってるおうちの玄関は、道路からも見えるけど、奥まってるからそんなに目立たない。

 ナツメさんはそれでもキョロキョロと周りと見渡した。あんまり聞かれたくない話なのかな。

「俺。見たんだよ。一昨日の、土曜日の夕方、部活帰りでさ」

「ナツメくんは陸上部なんだよ」

 もえちゃんがすかさずわたしに説明してくれた。何となく知ってた……というか、うちの学校、部活って野球・バスケ・陸上・テニスしか運動部はないもんね。テニスと陸上部って、たしか部員が各学年一桁たっだはず……。

「そこのバス停のあたりで、絵本の赤ずきんちゃんみたいな、フードかぶった、小一くらいの女の子が、フリフリの浴衣みてえの着て、メソメソ泣きながら歩いてたんだよ」

「あれ? その話……」

 聞いたことあるな。確か……小学生の子たちが図書室で話してた……?

「それもしかして、いちご柄のピンクのフリフリの、浴衣ドレスみたいなの着てる子?」

「そう! それだ。お前も見たのか?」

 思わずつぶやくと、ナツメさんは目を大きく開けて顔を思いっきり近づけてきた。近い!

「いえあの、図書室で小学校の子たちがうわさしてたのが聞こえてきたの。赤ずきんちゃんの幽霊が出るって」

「なにそれ~! おもしろそ~!」

 今度はもえちゃんの目がキラキラ輝いた。

「すごいじゃんナツメくん! うわさの幽霊を目撃もくげきしたなんて!」

 けど、もえちゃんのキラキラとは逆に、ナツメくんは暗い顔になってうつむいた。

「全然。すごくない。最悪だ」

「ど、どうしたの?」

 この暗さにはもえちゃんも一気にテンションが下がってしまって、一歩下がってわたしの制服の袖をキュッとつかんできた。わたしもこわくなってきたので、もえちゃんの腕にしがみつく。

「声かけようかと思ったんだ。迷子だと思ったからさ。変わったカッコだけど。最近ハデなカッコさせるの好きな親もいるじゃん。さっきのお前のいとこも変なカッコしてたろ」

 うぐっ。ヨジロウのことは気にしないで下さい。

「だけど、道路の向こうから友達に声かけられてさ、そっちを一瞬見て、もう一回振り返ったら、もういなかったんだよ。どこにも」

「わあ……怪談かいだんの基本じゃんそれ!」

 もえちゃんのキラキラボイスがちょっと復活した。忘れてたけど、もえちゃんって結構、怪談話かいだんばなしが好きなんだよねえ。初めて会ったときなんて、学校の七不思議ななふしぎの話をされて、わたしこわくてトイレにひとりで行けなくなったんだっけ。でも毎回もえちゃんが着いてきてくれたから、それで仲良くなったんだけど。

「友達に聞いても、そんな子いなかったって言われてさ。親が迎えに来たんだって思うことにしたんだけど、ばあちゃんにその話したら、それは、悪いことが起こる前触まえぶれだって言い出したんだよ」

「え? おばあちゃんが?」

「そしたらさ、昨日の朝、父さんがけがしたんだ。町内会の草むしりで、河川公園かせんこうえんの草刈りしてたら、急に段差で足すべらせたって。川に落ちて流されかけて、近くにいたおじさんたちが助けてくれたけど、腕の骨を折ったんだって」

「ええっおじさんが? 知らなかった……!」

 もえちゃんがショックを受けた顔で言った。

 そっか、お隣同士でお店屋さんやってるんだから、きっと家族ぐるみでお付き合いがあるんだよね。知ってる人が大けがするって、けっこうショックだよね。

「俺が……俺があんな女の子なんか見たから……」

「そんな、ナツメくん」

「俺のせいだ」

 ナツメさんはすっかり自分のせいだと思ってるみたい。

「え? でもそれって、おばあちゃんが悪いことの前触まえぶれだって言っただけで、別に本当にその子を見たから悪いことが起こったって決まったわけじゃないでしょ?」

 思わずわたしは口をはさんでしまった。そして言ってから気付いた。先輩に敬語けいごを使い忘れてしまった……!

「ちがうんだよ。見たって言ってたんだ」

「見た?」

「その場に、親と一緒に来てた小学生がさ、赤ずきんちゃんみたいな子が泣きながら歩いてたって」

 ええっ! あ、でも、もしかして、それで小学生の子たちのなかでうわさになってたのかな。

 えええ~ちょっとこわくなってきちゃった~。

「ナツメくん、ナツメくんのせいじ――」

「お前のせいじゃないぞ」

 もえちゃんがなぐさめようと発した声に、わりこんだ声。

 びっくりして振り向くと、そこには、右腕をギプスで固めて、首から三角巾で吊るしたおじさん――ナツメさんのお父さんが立っていた。

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