小テスト(論述式)

赤野工作

設問1 異世界における言語間差異(所謂サンドイッチ問題)について

我々が転生する異世界では、しばしば我々の世界に存在する言語と同じ語彙・文法を持ちながら、名詞の一部のみが異なった異世界言語が使われているケースがあります。その為、我々の世界における"サンドイッチ"が食品を意味する言葉であっても、異世界Aにおける"サンドイッチ"は武器を意味する言葉であったり、異世界Bにおける"サンドイッチ"が魔法を意味する言葉である可能性に留意しなくてはなりません。


上記前提を踏まえ、問いに答えなさい。下記は異世界Cの"サカバ"での"マスター"と"ジョウレンキャク"との会話です。異世界Cでは異世界言語が使用されており、ダブルクォーテーション内に書かれた名詞は全て、我々の知る言葉とは異なる意味を持つ言葉の可能性があります。ダブルクォーテーション内に書かれた名詞の内、どの名詞が我々の世界の言葉と異なった意味を持つ言葉かを推測し、何が起きたのかを簡潔に論述しなさい。


なお、本問題には下記の条件をつける。

1:最低一つ以上の名詞が我々の世界の言葉と異なった意味を持つ可能性がある。(一つでもあるし、全てであるかもしれない)

2: 問題文内"サカバ"、"マスター"、"ジョウレンキャク"も問いに入る言葉であり、我々の知る酒場、マスター、常連客を指しているとは限らない。


===


「よう"マスター"、今日は空いてるかい?」


「おう、なんとかやってるよ。今日は一段と早いお帰りじゃないか」


「おうともよ。"ハンター"稼業も楽じゃない。朝から晩まで"バケモノ"退治、たまには"ヒ"が出てる内から"オヒマ"をもらわなきゃ、やってられんぜ」


「そりゃ結構なこった。何にする、"ミード"か? "ワイン"か? それとも"ミルク"にでもするか?」


「あー……、そうだな。じゃ"ワイン"を頼むよ、今日は早めに楽になりたい気分なんだ。出来るだけ赤いヤツがいい、それも新鮮なヤツだ。はいよ、3000ベリルだ」


「いいや、今日の"ワイン"には6000ベリルは貰う。お前さん"ウン"が良いぜ。今日は特別にどぎついヤツが入ってるんだ。待ってな、今から封を開けてやるよ」


「なんだなんだ、やけに羽振りが良いな……。おっと、違う違う。今日顔出したのはワケがあったんだ。聞いたぜ"マスター"、昨日は散々だったらしいじゃねえか」


「おう、話が早いな、誰から聞いた?」


「誰からもなにも、街中の連中がウワサしてるよ、"マスター"んとこで若い男が暴れて、"ケンペイ"が出てくる騒ぎになったって」


「どいつもこいつも下世話なもんだ、まぁしかし、実際その通りだ。見てみろ。"サカバ"もしっちゃかめっちゃかになった。慎ましくやってるウチにとっちゃえらい損害だよ」


「それで? その若い男ってのは、一体全体何をやらかしたって言うんだ?」


「"サンドイッチ"だ」


「"サンドイッチ"?」


「全く今でも信じれねえよ。突然のことだった。ロクに"チュウイ"も払わず、いきなり"サンドイッチ"を口にしやがったんだ」


「マジかよ、"サンドイッチ"をか?」


「そうだ、信じられるか? あっちの"タナ"に置いてあったヤツだ。今となっては何を考えていたのかも分からねぇ。それに突然齧り付いた。見ていた"キャク"も悲鳴をあげてよ」


「おいおい……、穏やかなハナシじゃねぇなあ、誰も止めようとしなかったのか?」


「俺だって止めようとしたさ。ただな、野郎、考えてみりゃハナっから様子がおかしかったんだ。おかしな"カミ"におかしな"フクソウ"、のっぺりとした"ローブ"みたいなもん羽織って、こりゃ"タビビト"だなと思ってよ」


「ああ……、最近増えてるからな、おかしな格好の"タビビト"連中。基本的には言葉は通じてるみたいだが、確かに稀によくわからねぇ"コトバ"を使いやがることがある」


「そうだろ? "コトバ"が通じないかも、下手すりゃ"サンドイッチ"が何かも分かってない連中かもしれねぇと思ってよ。お前何やってんだと、やめろ、すぐに吐き出せって、こう、身振り手振りで止めたんだよ」


「でも、野郎は止まらなかった、と」


「そうだ。結局のところ野郎、"コトバ"そのものは通じてたんだ。なのに、"サンドイッチ"に齧り付いた口だけは開けようとしなかった。挙句、丸呑みだ。野郎、俺なんかしちゃいました?みたいな惚けたツラしてやがったよ」


「恐ろしい輩もいるもんだなオイ……」


「店中騒然だったよ。おい、こいつ、"サンドイッチ"を喰っちまいやがったぞ!ってな具合にな。マトモな人間の出来ることじゃねぇ。また都合が良いんだか悪いんだか、丁度その時、ここに"ケンペイ"サマ御一行もいてよ」


「"ケンペイ"連中か……、あいつらもあいつらで他人の目を気にしない連中だからなぁ」


「その通りだ。アイツらもアイツらで一度"ワイン"を口にしたらタチが悪い。一言で言や、"イサカイ"に飢えてる連中だ。そんな連中の前に、突如として"バケモノ"がおでましした。後は話さなくても分かるだろ?」


「へへぇ」


「"サンドイッチ"を丸呑みしたあたりから、野郎の顔色が急に悪くなってな。"ケンペイ"どもの異常な雰囲気に呼応したってヤツだろうな。あるいは、丸呑みして体調が悪くなったか。もう次に何をしでかすかも分からねえ、全員で飛びかかるしかなかったんだ」


「それじゃこの"テーブル"の"キズ"ってのは……」


「そうだ、"ケンペイ"連中が暴れた跡だよ」


「じゃあ、こっちの焦げ跡は?」


「それは違う、野郎がやった」


「野郎が?"マドウシ"だったのか?」


「分からん、ただそれなりの手練れではあったようだ。おかしな"キカイ"を持ち出して"ケンペイ"相手に大立ち回り、店を散々に荒らして逃げてった。後で聞いた話じゃ近くの"モリ"の中で取り押さえられたらしい、こう、"サンドイッチ"を嘔吐した跡を辿られたらしくてな」


「おいおい、"ケンペイ"相手にそこまで逃げ切るとは、えらく派手にやったもんじゃないか。"サンドイッチ"含めどれだけの被害だ? おたく、面倒を抱える客には事欠かないな」


「……馬鹿言え、ウチは無関係だ。野郎と関係あったのはむしろ、"ケンペイ"連中と一緒にいた"マドウシ"サマの方だよ。クソッ……、返す返すも"ハラワタ"煮えくりかえるぜ……」


「"マドウシ"サマ? 何で今の話で"マドウシ"が出てくるんだ?」


「おい!デカい声出すな!」


「お、おう……。なんだよ、だってアンタが"マドウシ"サマって……」


「ちょっと耳貸せ!」


「はいはい、なんだってんだ……」


「……いいか、絶対ヨソで言いふらすんじゃねえぞ」


「……分かったよ分かったよ」


「あの若い男、いや野郎だけじゃねえ、俺の考えじゃおそらくおかしな格好した"タビビト"連中は全員、"ミヤコ"付きの"マドウシ"サマが召喚で他の世界から呼び寄せてるらしい」


「なんだと!?」


「おい馬鹿!デカい声出すなっつったろ!」


「……す、すまねぇ……」


「昨日の晩、"マドウシ"サマがウチにこそっと謝りに来たんだ」


「"マドウシ"サマって言ったら、あの"ピンク"の"カミ"で有名な女か?」


「そうだ、"メイケ"出身の」


「喋ってることの七割が小難しくてよく分からない"オジョーサマ"の?」


「そうだ、"エリート"の」


「"ミヤコ"をほっつき歩いてる事すら珍しい"オジョーサマ"じゃねえか、そんな"コウキ"なお方がなんでまた"ヒ"も出ない内から、こんな小汚い店にどんなご用事が?」


「それがな。この一件、自分がちゃんと"チュウイ"を払っておくべきだったって仰るんだよ。なんでアンタがそんな真似をって聞いたらビックリ仰天。野郎は私がヨソの世界から召喚した"ツカイマ"だって仰るじゃねえか」


「なに!?」


「声がでかい!」


「す、すまねぇ。あまりの話に"キモ"が冷えちまって……。そんじゃなにか? "ミヤコ"に溢れかえってる"タビビト"連中は、"オウケ"の"マドウシ"達が呼び寄せといて制御出来ずに野に放たれちまった"バケモノ"ってことなのか?」


「察しが良いな。その通りだよ。元から連中は"タビビト"なんかじゃない、本当に違う世界から呼び寄せられた"バケモノ"だったんだよ。俺たちによく似た背格好こそしてるが、本質的には"ヨーセイ"や"アクマ"と何もかわらねぇ」


「なるほど、それじゃあ野郎が"サンドイッチ"を突然口にしたってのは」


「そうだ、どうやら野郎のいた世界にも"サンドイッチ"って言葉はあったらしい。でも"サンドイッチ"を口にしちゃならねぇって理解までは俺たちと一緒じゃなかったってことだ」


「そんじゃ、あながち野郎だけを責めるわけにもいなかいってことか……。そ、そうだ、野郎は今どこにいるんだ?」


「聞いた話じゃ、"ロウヤ"の中で横になってるってよ。"マドウシ"サマもあれこれ手を回してるようだが、"ケンペイ"相手にあれだけ抵抗しちまったんだ、オマケに"サンドイッチ"も食ってる、明日の晩まで生きてられるかどうか」


「最近の"ケンペイ"連中は殺気だってる、どっちにしろ、"シケイ"からは逃れられねぇよなぁ……」


「……分かるだろ。お前さんが来るまで、一人で塞ぎ込んでたんだよ。……まったく夢見が悪くて仕方がねぇ。野郎にどれだけ惨たらしく死んで貰っても、ウチには何の"トク"にもなりゃしねぇってのによ」


「ちげぇねぇ、"マスター"の話じゃ、本当に悪いのは"オウケ"の連中ってことだからな」


「……お前が顔出してくれて良かったよ。この"ワイン"だって"マドウシ"サマがお詫びの印としてウチに押し付けてきたもんなんだ、そりゃあもう高級な"ワイン"だよ、焦げた"テーブル"直してもお釣りが出るくらいには」


「"マスター"……」


「でもなぁ、こんなもん握らされてる時点で、不正に目を瞑るって約束しちまったようなもんだ。ここで起きた一件は、そりゃちっぽけな"サカバ"の"イサカイ"かもしれねぇ。"チュウイ"が足りなかったって言やそれまでだ」


「でも、割り切れるハナシでもねぇ」


「そうだ。野郎が悪かったのか? そりゃ野郎が悪かった面もある。でも、野郎が悪かったと言い切れねぇ面もある。そうこう考えてるウチに、なんだか、せっかくの"ワイン"まで不味くなってきちまった気がしてよ」


「そりゃあ大変な一日だったな……、しっかしまぁ、なんで野郎もまた突然"サンドイッチ"なんか食おうと考えちまったんだか……」


「ああ、まったくだ」


「俺でよけりゃ、その"ワイン"の乾杯、付き合わせてもらうよ」


「もちろんだ。ただ、"ジョウレンキャク"のお前さんにも守ってもらわなきゃならねぇことはある」


「お、おい、なんだよ、改まって」


「なあに、"コトバ"が通じるお前さんにならそう難しいことじゃないだろ」


「な、なんだよ……」


「はぁ? お前さんこそわざと言ってるのか?」


「わざと? 俺が?」


「あのなぁ……、お前さんもまだ"チュウイ"が足りてねぇって言ってんだよ、俺は」


===


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