第6話 忌み嫌われる僕の大冒険>#ゴキブリの一生

 三日前から何も食べていない。腹が減り過ぎておかしくなりそうだ。僕は、間違った選択をしてしまったんだろうか。


 僕の家族たちは「今住んでいる家を出たくない」と言っていた。あの家にいれば確かに食べるものには困らない。あそこなら、いい匂いの甘い食べ物をいつでも、いくらでも食べられる。


 でも、僕はあの家が嫌いだった。一日中真っ暗で、ずっとジメジメしていて、狭くて、僕の家族以外誰もいない。僕はもっと、広くて、明るくて、いろいろなモノが溢れる外の世界に、どうしても行きたかった。だから、家族が止めるのも聞かず家を飛び出してしまった。


 外の世界はとても美しかった。たくさんの色、たくさんの匂い、たくさんの光。もっと早くあの家を飛び出せば良かった、本気でそう思った。でも、外の世界ではなかなか食べ物にはありつけない。外の世界には縄張りがあるらしく、たくさん歩き回って、せっかく食べ物を見つけても、なかなか分け前はもらえない。さらに、ちょっと気を抜いていると、恐ろしい巨人が「臭くて目にしみる息」を僕にめがけて吹きかけてくる。


 外に出て三日目、僕は家が恋しくなった。腹が減ったし、それにもう疲れて歩けない。すると、どこからかとてもいい匂いがしてきた。今まで嗅いだことがない美味しそうな食べ物の匂いだ。僕は食べ物の匂いがするほうへ一所懸命に走り出した。


「あった! これだ!」 僕は食べ物の匂いがする四角い箱を見つけた。その箱を覗くと、そこにはとってもいい匂いがする美味しそうな食べ物が入っていた。僕は一気にその食べ物をたいらげた。


 満腹になると、なんだかとっても眠くなってきた。僕は走るのも、歩くのもやめて、その場に横になって休むことにした。視界が少しずつぼんやりと暗くなっていく。手足の感覚も少しづつなくなっていくみたいだ。


 意識がもうろうとしていくなか、僕は家族と家を思い出していた。とっても温かい気持ちになった。次の瞬間、僕の意識は完全に消え去った。


 動かなくなった僕を、巨人が顔をしかめながら摘み上げ、ゴミ箱に捨てた。僕は、家を飛び出したことは後悔していない。外の世界でたくさんの色や光や匂いを感じるには家を出るしかなかったんだから。

 

 僕は、もし次にまた僕に生まれ変わったときでも、生きていく場所に「暖かくて食べ物に困らない暗闇」は選択しない。いくら辛くても、いくら飢えようとも、僕は、「明るくていろんなモノが溢れる外の世界」に出ていくつもりだ。


 もしあなたなら、どっちの世界を選択する?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る