忍び寄る悪意

「ぐごおー」


 隣から典型的ないびき声がする。


 枕が変わろうが奴は熟睡できるタイプらしい。羨ましい限りだ。


「ぐごおー」


「うぅぅ」


 そうこうしている内に、尿意を催した……。


「…………トイレ」


 スマホを手に教室を出る。時刻は零時。早く寝ないと明日が辛い。寝不足はもう勘弁だ。


 南廊下近くのトイレに向かう。静寂の中、上履きの音がその秩序を乱す。


「…………?」


 トイレに入る直前、南廊下に人影が見えた気がした。


 すぐに南廊下に繋がるドアへ。気配を殺す。どうやら人影は去ったようだ。


 恐る恐る開けてみる。外気にぶるっとする。もはや冬の空気だ。


 左を見る。誰もいない。


 正面を見る。プールサイドに人影はない。


 右を見る。


「…………!」


 それはいた。目を凝らさないと何も見えない闇夜の中、校庭を歩いている。暗くて見づらいが、暗順応のおかげで朧げに見えたのは……。


「堂場顧問?」


  *


『……続いてのニュースです。日本近海の熱帯低気圧が発達し、台風※号が発生しました。今後も発達をしながら北上する見込みです。近海の島々では大波、大雨や暴風に警戒して下さい。繰り返します――』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る