第11話 大会初!全試合完全試合で甲子園へ

洋子とめぐみはメンバー表を見ていた。それは相手のではなく自分達の

方のだ。それと言うのも、今、碧陽の投手は凍夜しかいないので

その凍夜にもしもの事があったらとめぐみが洋子に相談し、他に投手が

出来そうな人を見つけようとしていた。


「やっぱり、凍夜君が来る前に投げてた、二年の志賀君ですか?」

「そうね。でも、彼じゃ絶対通用しないわ。もう練習もしてないし

今はセンターでいっぱいだろうからね」

「だとしたら、遙君」

「確かに捕手なら肩がいいから投げれるからね。ちょっと遙君に

相談してみましょう」


そうして洋子達は投手だけじゃなく、人数がすくないので、もし何か

あった時の為に皆に、他のポジションができる様に練習をさせる事にした。


それでも、今はもう大会中なのでとりあえずは今のポジションのままで

という事にしている。

そんな感じで碧陽は二回戦を開始していた。


当然、凍夜が投げるので球場は満員だ。今、一番客を呼べる選手はおそらく

凍夜だけだろう。


その凍夜のいる碧陽は勝ち続け、あっという間に決勝にやってきた。


あと一つ勝てば優勝し、最弱校が初の甲子園に行く事になる。その快挙が

日本中で話題になっていて碧陽には毎日マスコミが殺到していた。


決勝一時間前、凍夜達は控室にいた。ここはプロが使うスタジアムで地区大会の

決勝はどこもプロが使う場所で行われる。

今まででこんな大きな球場でやったことがない部員達は緊張していた。

それ以外でもこれに勝ったら甲子園に行けるという緊張があった。


「本当に俺達甲子園行けるのか?」

「これに勝ったら行けるんだぞ」

「でも、勝てなかったら」

「それはないぜ。長峰が投げるんだからな。ここまで本当に俺ら何も

してないからな。何回か守備はしたけど」

「打つ方でも少しだけだからな。それで甲子園に行っていいのか?」


部員達は今の状況が嘘みたいな感じに取られていた。


「皆、これは現実よ。それにあなた達は何もしてないわけじゃない。皆

ちゃんとプレイしているんだからもっと自信を持ちなさい。次は

甲子園よ」

「ハイ」


洋子が話しかけた後、凍夜が皆に話しかけた。


「お前らに野球をやらせてやろうか」

「野球?」

「俺が打たせて取る形にすればお前らも活躍できるだろ」

「でも、そんな事したら叩かれるぞ」

「なんでだ?」

「そんなもん、客はお前の三振や完全試合を見たいんだよ。だからそんな

事してさらに俺らがエラーしたらそれこそ球場から出れなくなる」

「出れないなら俺がどかしてやるぞ」

「お前が言うと何をするかわからんからやめろ」

「長峰君、確かにそれをすれば皆も試合に慣れると思うけど、今だけは

本気でしてくれる?甲子園がかかってるから」

「こいつらを信じてないって事か」

「そうじゃないわ。勝つ可能性がある方にしたいの」

「ま、どうなるかはマウンドに上がってからだな」


凍夜はどっちにするかを言わずに先に控室を出た。その後、碧陽の

練習が始まると球場がわき、テレビやなんやらが注目する。

凍夜は遙とキャッチボールをして、時間が近づいたら、遙を座らせ

少し本気で投げた。その一球に観客がわき、相手チームも驚く。


大戦相手は今回が初めて決勝までやってくることができた三橋高等学園だ。


普通なら相手の方が力は上だが、凍夜だけは別次元の力なので凍夜に

したら他と同じだった。

時間になり、両行が整列する。この試合もテレビで中継されたりする。おそらく

地区大会では初めての満員のスタジアムでの試合だ。

ベンチに戻り、各自ポジションに散る。碧陽が後攻なので凍夜がマウンドに

上がると異様に盛り上がる。


「うるせぇな。ただの高校生に」

「そう言うな。それだけお前が注目されてるってことだ」

「お前、何しに来てんだ」

「もう一度だけ確認したくてな」

「この相手に超速球は使わんよ」

「そうじゃない。打たせて取るのかどうかだ」

「ああそっちか。ま、お前に任せるよ。俺は無理はしない程度に

投げるだけだ」

「無理しない?お前がそんな事いうなんてな」

「ま、甲子園がかかってるからな。手は抜かないさ」

「わかった」


遙が戻り、そして、試合が始まる。凍夜が振りかぶるだけで歓声がわき

そこから投げるボールがミットに入るとさらに拍手が起きる。


「は、早い!本当に高校生かあいつ」

「あれで一年っすよ」

「い、一年」


相手の一番打者が驚きぼやいたのを遙が返事していた。簡単に三人を

三振に取り、打たせて取る事はしなかった。


後攻の碧陽の攻撃、一番ピッチャー長峰凍夜とアナウンスが流れ、ホームラン

コールが起こる。凍夜は右打席に立ち構えるが、それに相手や客達が

驚く。今まで左打席で打っていたので右打席で見るのは全員初めてだ。

相手の捕手が投手の所に行き、何かを確認してから戻って来た。

そして相手が第一球を投げた。その玉を凍夜はやはり打ち、本当にホームランに

した。しかも相手はその玉を外に外しに行こうとした玉だが、高めだったので

凍夜はそれをあっさり打った。


あっさり一点を取った後はいつも通り普通の試合になる。打ったり三振したりが

続き、攻守交代をする。

そのマウンドに行く途中、凍夜は急に苦しみだした。


(まさか、このタイミングでか?沈まれこのくそ心臓)


胸を抑える凍夜を見て、めぐみがベンチを出て遙に声をかけた。


「遙君!凍夜君が」

「!?あのバカ!まさか」


遙がマスクを外して慌ててマウンドに行く。その行動に何かあったのかと

球場内がざわつく。


「おい長峰」

「アホ、来るんじゃね。変にみられてるだろうが」

「でも、その様子は」

「大丈夫だおさまった」

「本当かよ。今投げたら」

「動いてた方が落ち着く。ベンチで休んでる方が気が弱くなる」

「そ、それはそうかもしれんが。わかった。でも、倒れそうになったら

俺がいじでも止めるぞ。お前を死なせるわけにはいかないからな」

「わかってる。悪かったな心配させて」

「!?」


戻る直前に凍夜が謝った事に遙が驚いた。それから凍夜は落ち着きいつも通りに

投げて行った。

ベンチに戻ると、凍夜は監督に呼ばれた。


「長峰君、あなた何か隠してるでしょ」

「何をだ?」

「あんなにあからさまに苦しそうにしてるのを見て疑はない人は

いないわ。それと、めぐちゃんと遙君も知ってるみたいだけど」

「えっと、それは」


二人は言おうかどうか迷っていた。返事をしたのは凍夜だった。


「監督、試合が終わったら話します。今は気にしないでくれ。何か

あってもこいつらが対処するから」

「何かあってからじゃ遅いのよ。それに、その話だと今までも

何かあったって事でしょ?もしそれが」

「心配ない。あんたは気にせず指示を出しててくれ」

「監督私からもお願いします。今は凍夜君を信じてください」

「めぐちゃん。わかったわ。でも、何かあったらすぐに代えるからね」

「了解」


それから凍夜は普通に投げて行った。八回では相手に打たせて内野取らせたり

して、全三振にはしなかったが、パーフェクトは続いている。

そして、最終回、凍夜は苦しむ事なく投げ続け、ラストバッターを三振に

しとめて試合が終わり、凍夜の大会史上初の全試合パーフェクトでの勝利で

碧陽学園が初の甲子園に出場する事になった。



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