第3話 凍夜初試合でパーフェクト!しかし。

日曜日。凍夜達、碧陽野球部は市民球場に来ていた。そこで今日の対戦相手と

練習試合をする。先に凍夜達が来ていたので、練習をすると向こうの方から

大きな声が聞こえて来た。それは大戦相手である光陽学園こうようがくえんだ。

この地区の強豪校で地区大会で準決勝や決勝に何度も行っている強豪だ。


なぜそこと最弱校の碧陽が試合を出来たかと言うと、監督の白藤洋子が

うちにすごい投手がいると言って釣り上げたのだ。監督はそういう事が

うまい。

洋子が向こうの監督にあいさつにいく。相手の監督は普通に男性だ。

だから相手の選手、生徒達が洋子を見て、うらやましそうにしていた。

何せ洋子は大人の女性で美人だからだ。


洋子が自分のベンチに戻り、凍夜達もベンチに入る。


「それじゃスタメン発表するよ。投手は当然長峰君ね」

「了解」

「で、捕手はその長峰君の玉を唯一取れる伊藤君」

「ハイ!」

「監督」

「何かしら?」

「投手は良いとしてキャッチャーはずっと三島がやってきた

じゃないですか」


三年の三島健司は碧陽の正捕手だが、本人はそこまでこだわっては

いなかったが、凍夜の玉を見て、最近は本気で練習をしていた。


「彼の玉取れる?」

「取ります。やらせてください」

「わかったわ。伊藤君」

「いいですよ。三島先輩お願いします」

「任せろ」


そうして凍夜達の先発が決まり、試合の時間になる。凍夜も初めて

ユニフォームを着て、スパイクも履き、帽子をかぶる。


「まさか、こんな風になるなんてな。あの時には想像もしてなかったな」


凍夜は整列に行く途中で昔の事を思い出していた。そして、両校が

整列しあいさつをする。凍夜達が後攻なので凍夜はマウンドに

向かう。それを見ている相手の監督達が話している。


「あれがすごい投手か」

「確かに体格はすごいですよね。他の選手達とは全然違う」

「ああ。何せ向こうは最弱校と言われてるぐらいで、二年も三年も

やる気はなかったらしいからな」

「らしいというと今はあるんですか?」

「そうらしい。そうさせたのがあの投手だそうだ」

「いったいどんな球を投げるんですかね」

「それは見てからだ」


そうしているうちに審判がプレイボールを告げ、試合が始まる。


凍夜は健司のサインにうなずき、構えてそして、人生で初めて

敵に向かって玉を投げた。その玉は恐ろしく早く、バッターは

振る間もなく玉がミットに入ってしまった。その衝撃音が

すごさを物語っていて、会場が静まり返った。そこに凍夜が審判に

話しかける。


「おい、コールは?」

「あ!?す、ストライクーー」


その声にようやく相手ベンチが騒ぎ始めた。


「なんだ今の早さ」

「あいつ一年だろ?」


凍夜は160ぐらいのストレートを投げた。それに驚いたのは

相手だけじゃなく、捕手の健司も一緒で、声には出さないが

心の中で手が痛いと叫んでいた。


それから凍夜はまっすぐのストレートを投げ続け、三者連続三振に

しとめた。コースは全てど真ん中だ。バッターは全員空振りした。


「か、監督!あんなの打てません」

「まっすぐってわかってても振る前に玉がミットに入ってます」

「まさか、あんな弱小校にとんでもない怪物がいるなんてな」


凍夜はベンチに戻り、帽子をメットに変えてバットを取る。

そう、凍夜はピッチャーで一番打者という異例の順番で

出る。それに相手は当然驚いている。それを見て洋子は

くすっと笑う。


「やっぱり投手で一番なんてって思わないでしょうね。何せ一番

打席が多いのだから、それだけで疲れるから普通はしないけど

彼ならそれができる。そして」


凍夜は左打席に立った。またそれで驚く相手校。光陽の投手が

振りかぶって第一球を投げた。


「!?」


カキーンという金属音が響く。そう、凍夜は初球打ちをして

そして、それがホームランになった。


「バカな!」

「あいつ投手だろう」


相手はもう驚いてばかりだった。それから試合は進み、あっという間に

9回まで来た。途中で健司は手を痛め、遙に変わったりしたが

凍夜は打たれる事なく、さらには打者としても四打席で二打席

ホームランを打った。後の二打は打たせてもらえなかった。

そうして9回ラストまで凍夜は全ての打者を空振りにさせ、そして

最後まで一球も打たれず凍夜はパーフェクトゲームを成し遂げた。

しかも、弱いチームではなく強豪校からのだ。


試合が終わり、洋子は相手の監督と話していた。


「驚きました。まさかあんなのが日本にいたなんて」

「ええ。私も驚きました。あの速さでコントロールもあって

それでいて何より体力がある。彼は今日疲れてないって

言ってました」

「あれだけ投げて疲れないなんて。彼なら日本一、いや、世界一の

プレイヤーになれるかもしれませんね」

「そうですね。ただ」

「ただ?」


洋子は話を切り上げて、戻って来た。駐車場で一度集まり、全員で

学校に戻ろうとした時だった。


「!?どうした長峰」


遙が凍夜の様子がおかしいのに気づいた。凍夜はしゃがみこみ胸を

手でおさえていた。しかも、あせもかいていた。


「まさか、無理してたの?」

「無理はしてない。疲れでもない」

「じゃぁそのあせはなに?」

「ただ、熱いだけだ」

「とてもそうは見えないわよ長峰君」


マネージャーのめぐみも心配していた。他の部員達も少し

不安になっていた。


「すぐに学校に戻りましょう。長峰君は保健室で」

「俺は行かん。先に帰る」

「一人で帰る気?」

「ああ。ついて来るな」

「俺ぐらいは」

「お前も来るな!俺は問題ない」


凍夜は消える様にどこかに行った。遙達は後を追って探すがどこにも

見当たらなかった。


凍夜は苦しみながらも、早苗のいる病院に来ていた。まだ苦しそうに

していると凍夜を見つけた看護婦が近寄ってきた。


「凍夜君!まさか」

「少し痛むだけだ。悪いが休ませてもらうぞ」

「じゃぁすぐに先生に」

「勝手にしな」


凍夜は自分の病室に向かった。そこは今でも凍夜の病室になっていて

誰にも使わせていなかった。


部屋に入りベッドに横たわる。少ししてようやく落ち着いてきた

時に、早苗がやってきた。


「凍夜、無事か?」

「ああ。心配ない」

「あせかいてるのにか?」

「ああ、ふきわすれただけだ」

「やはり運動は無理だったか」

「そうでもない。偶然今発作が起きただけだ」

「今まで発作は少なかったのに今起きるのはやはり運動した

からじゃ」

「偶然だ。もう心配ない。帰る」

「待ちなさい。今日はここにいなさい。着替えや学校の荷物は

持ってきてあげるから」

「明日も朝練があるんだが?」

「それは休みなさい」

「……わかったよ。帰るのもめんどうになってきたしな」

「そうそう。大人しく寝てなさい」


早苗は部屋を出た。凍夜はしかたなくベッドに横たわった。


「まさか、こんなんで起きるなんてな。俺ももう終わりかな」


凍夜は絶望しながら眠りについた。翌日、凍夜は朝練を休み

午後から登校する事にした。その事は早苗が学校と監督の

洋子に話していた。その話のさいに洋子は早苗に凍夜の事を

聞こうとしたが、早苗は自分から話すまでは言えないと洋子に

言って行った。


そうして放課後の部活の時間に凍夜は顔を出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る