第11話 お誘い

「「あっ・・・」」


 三島のピンクのブラジャーがオレ達に一瞬の静寂をもたらす。


「みみ、みみみ見た!?」


 バッと勢いよくブツとその他もろもろを胸元に抱え込み、顔を紅潮させながらも身構えて警戒態勢をとる。


「え、あ、・・・まあ。悪い」


 事前に知っていた俺の反応はやや薄めだ。


「こっ、これは仕方なくて、そう、仕方なく!ドレス用のをつけてくるの忘れちゃって、だからそのまま・・・はっ!なんでこんなこと!」


 言い訳を早口にまくしたてる三島だったが、途中で墓穴を掘ったことを悟る。ん?つまり話をまとめると・・・


「・・・ってことは今三島はノー・・・」


「ちがう。それはちがう。とにかくちがうの」


 真剣な表情で否定するが、その何かを訴えるように見上げた瞳は潤んでおり、耳まで赤くなっている。その言い聞かせるような物言いにはオレよりも自分自身に、という意味合いのほうが強かったように感じる。


「いやで・・・」


「着替える!いいから出てって!」


 感情の高ぶった嘆きを最後に、オレは強引に背中を押されながら退室させられる。




 オレは再びドアの前で立たされることになる。


 すごい動揺っぷりだったなあ。いやでも絶対に怒ってるよな、あれ。うーん、謝れば許してくれるのか?三島のやさしさなら許してくれそうな気もするが原因が原因。すぐには許してくれなさそうな気もする。どっちにしろあとできっちり謝ろう。


 オレがプチ反省会をしているとコンコンっとノックの後にドアが少しだけ開かれる。


 そこから三島が顔をちょこんとのぞきだすと、


「ファスナー、おろして・・・」


「お、おう」


 そんな潤んだ瞳で見つめないで!断れないでしょ。




 オレは煌めくほうき星に手をかける。実況は浅間綾斗がお送りしています。はい。


 ポニーテールがどかされたことによって降臨した色白のうなじにうっすらと浮き出た背骨に沿ってほうき星が流れ始める。


 今何もつけていないんだよな?大丈夫なのか?オレ捕まったりしないよな?


 流れるほうき星の後ろには純白に輝く肌が尾を引いている。


 あれ?さっきこんなところにホクロあったっけ?二回目だから視野が広がったのか?オレは見えてるものを見落としていたのか。新しい発見は常にあるものなのですね。


「これでいいか?」


「うん。ありがと」


「ああ。んじゃな」


 任されたことは全部終えたし、オレがここにいる理由はもうない。何より三島は着替え中。ベストプレイスはなくなってしまうのは残念だが、さっさとどっかに行った方が良さそうだ。というかそうしないといろいろヤバい。


「あっ、外でちょっとまってて」


 首だけ振り向いて答える三島。


「ん?よく分からないがとりあえず待ってればいいんだな?」


 三島が頷くのを確認するとオレはなぜかそそくさと会議室を出る。




「お待たせ」


 会議室から出てきた三島はいつも通りに制服姿になっていた。ドレスも似合っていたが、見慣れた制服の方が安心感がある。ただいつもと違うことがあるとすれば手首についている黒いヘアゴムだろうか。実用品のはずなのに一種のアクセサリーのように見えてしまうのはなぜなんだろう。


「あっ、えーっと」


「ん?」


 何か言いたげにもじもじして視線をそらされる。


「・・・私と一緒に周りませんか?」


 さっきまでとは変わり真剣な口調でばっちりと目が合う。こういう時にしっかりと目を合わせてくる感じ、やっぱ三島だなあと思う。


「オレでよければ?」


 オレはそんな目力に負けあまり深く考えずに返事を口にする。疑問形になっていしまうのが恥ずかしいところです。


 三島はぱあっと明るい表情になり大きくうなずく。よくわからないけど喜んでくれるなら何よりです。オレはさっきのほうき星で思考停止中なのです。




 なんやかんやいろいろありオレは三島と一緒に外を歩いている。何もすることのないボッチ巡りは流れでいつの間にか回避されたわけだが、さっきから三島の様子がおかしい。なんかすごい距離離れてるし、全然こっち向かないし、しゃべらない。そしてなんか動きが硬い。


 オレなんかしたかなぁ?まあさっきあんなことがあったから何も悪いことはしていないとは絶対に言えないが、ここまで避けられるものなのか?


 ここは三島が敏感に反応する謝罪で攻めてみよう。


「えっと、三島さん?なんかごめんね?」


 相変わらずそっぽを向いたまま無反応。どうすりゃいいんだこれ。絶対反応してくれると思ったんだけどな。


「っつ」


 と思っていると突然三島がこけそうになる。


 横にいるオレと反対側を向くということは前方不注意となる。何かにつまずいたのかな?


「オレの方見なくていいから前くらい見ような?危ないから」


「い、いや、浅間くんは悪くないの。こっちの問題で・・・」


 さすがに悪いと思ったのか口を開いてくれる。が、前は向いてくれたもののオレの方には向いてくれない。視線はがっちりと前を見据えている。


 横目に三島の顔を見るとガチゴチに表情が硬い。のわりにいつもより早口気味でしゃべるのでうまく発音できておらず、いつもの流暢にしゃべる三島はどこにも感じられない。


 うーん。どうしたんだ?問題っていうことは何か悩みがあるのかもしれない。学生の悩みの大半は人間関係っていうしな。知らんけど。人の悩みにむやみに突っ込むべきではないとは思うがちょっとした好奇心にオレは負ける。というわけでオレはそれとなく聞いてみることにした。さっきから気になっていた疑問に少し探りの要素を加え、質問する。今の状態だと答えてくれるかもわからないしな。許してね。


「ちょっと気になってたんだがオレなんかと周ることにしてよかったのか?加藤たちと仲良くしてるみたいだしあっちと周らなくていいのかなって思ってるんだが」


 そんな質問に意外とあさっりと答えてくれた。


「あっ、うん。そうなんだけどね、確かに香織たちと仲良くしてもらってるけど私は正式なグループのメンバーじゃないというかなんというか」


「というと?」


「あのね、香織と友美ってオナ中らしいの。入学する前から仲が良くって私はそこにちょっと混ざらしてもらってるって感じ。帰り道も二人一緒だし、たまに誘われることもあるんだけど大体二人きりで遊んでるって聞く。今日は別に誘われてないから下手に近づくと邪魔かなぁ?って思っちゃって」


 三島は初対面の人にはグイグイいくタイプだが、一度出来上がってしまったものを後からグイグイ押すようなことはしないのか。いつもの流暢さに戻りぎこちない様子は取れていたが、その表情はどこか寂しげだった。


「なるほどなぁ。でもほかの人から誘われたりしなかったのか?」


 人気者の三島なら誰かしらに誘われていそうな気もするが。


「うーん。ないかな。一番仲良くしてるのは香織のグループだしほかの人とは仲良くしてるけどすごい仲がいいわけじゃないから」


 きっと周りの人は加藤が先に誘ってるから三島を誘っても断られるだろうと思っていたことだろう。そんな深読みが今の状態を引き起こした要因の一つかもしれない。


「女子の世界っていろいろ大変なんだなぁ」


 あははぁと苦笑する横顔を横目に素直な感想を口にする。


「だから浅間くんと・・・やっぱ何でもない」


 気づくとまた流暢さが欠けている。ちょっとシビアな内容だしな。言いかけて辞めた言葉を深彫りするのは辞めておこう。ここまで聞けたことに満足するべきか。これ以上聞いたところでオレが何かできるわけじゃないだろうし。


 まあ結論を言うとオレは代役ってことだね。知ってた。


 また徐々に三島の動きが硬くなってくる。うーん。さっき聞きだした悩みとは別のことが要因になっているのか?加藤との悩みがあることはわかったが・・・オレには三島になんで距離を置かれているか全くわからない。女の子って難しいね!

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