訓練ラスト


 訓練を開始してから一年。今日は訓練最終日。明日1日体を休めて明後日アリシアと旅立つのだ。その為の仕上げの1日である。訓練場にて、学と向かい合うのはもちろんジョセフである。


 〈今日こそ、最後だからこそ全てをぶつけてやる〉


 学はそんな事を思い、訓練の日々を振り返る。何とも酷い毎日だった。きっと『ラーニング』による学習能力向上が無ければ、とっくに心が折れていただろう。余りにも酷い毎日にちょっと涙が出る。


 学は息を整え、両手の指の間に出来る影を伸ばす。


「影剣」


 その影は剣のような形を作る。それを両方の手に1本ずつ。そして、走り出す。


 「付加術、加速」


 足に僅かな光を灯す。それはアリシアに教えて貰った魔法であった。






 「学君、何を落ち込んでるのさ」


 「......」


 それは、魔法を扱う程の魔力が少なくさらに才能もないと告げられたその夜。学が拗ねて三角座りしている時だった。ジョセフに事情を聞いてアリシアが心配して来たのだ。


 「俺って魔法を扱う才能がないらしくてさ。魔法制御や操作する才能は持ってるらしいのにだよ。期待が大きかった分ショックも大きいわけよ」


 「まあ、魔力量や出力は増えもしないし変わらないしね」


 的確に学の急所を抉るアリシア。案の定、さらに落ち込んでしまう。だが、自称出来る女だと思っているアリシア。ここでとある本を見せる。


 「そんな学君にはこれをあげます」


 それはかなり古い本で『付加術』と書かれている。


 「付加術?」


 「そう、あらゆる力を付加させてサポートする魔法さ。これならもの凄い使う魔力も少ないし出力も関係無い。それに恐ろしいまでの魔法制御と操作する技術がいるんだ。だから使える人をほとんどいない。いても使わない。代わりになる魔法はいっぱいあるからね」


 学はアリシアからその本を受け取ると中身を見る。そしてしばらく眺め、急にアリシアに抱き着く。


 「ままママ、学君。どどどうしたのかな?! 流石のボクもこれには焦っちゃうよ。いや、嬉しく無いわけではないのだけど」


 先程まで余裕は何処に行ったのやら。自称出来る女笑アリシア完全にテンパってます。


 「ありがとう! 希望が見えたよ」


 学の行動は閃きと発見、嬉しさの余り舞い上がっての行動だった。出なければこんな事は出来ないだろう。


 「これなら勝てるぞ。ぐふ、ぐはは、グハハハ」


 何に勝てるのかは不明だがアリシアいわく、1番輝いた悪い笑顔をしていたと言う。因みに次の日直ぐに試したがボコボコにされておしまいだった。






 足に付加術を使い加速させジョセフに一気に近付く学。そして、振りかぶった右手の剣で斬り掛かる。ジョセフは影の手甲を作り防ぎ、体を捻り回転を加えた回し蹴りを学の腹に打ち込む。


 「グハァ」


 勢いをつけて向かって行った事もあり、かなりの衝撃が腹を打ち学は元いた場所まで蹴り飛ばされる。だが、直ぐに体勢を立て直し追い討ちの様に向かってくる影を捌く。


 「この程度でお嬢様を守れますか? なら失格ですよ」


 「まだまだ!」


 恐ろしい程の影による猛攻に捌く為に腕に付加術をともし全てを捌いていく。この際も『ラーニング』が発動しているのでジョセフが本気を出さない限りは軌道や癖が分かってくるので捌ききれる。

 だがこのままでは直ぐに綻びが出来、やられてしまうだろう。


 「なら、影跳び」


 それならと、足下の影をトランポリンの様にし無理矢理飛び上がる。勢いよく飛び出した為向かってくる影から距離ができるが、空中では格好の的の為直ぐに影が向かって来ていた。


〈ヤバいな。ここままじゃいつも見たいに串刺しになって最終日も終わってしまう〉


 そこで学は決意する。ぶっつけ本番考えていただけで、まだ出来ないなと思いやらなかった技を使うことを。


 それを見ていたジョセフはあえて影を引っ込め何が起こってもいいように身構える。


 〈 今この場なら失敗しても大丈夫です。さあ、来なさい〉


 ジョセフが身構えたと同時に学が空中で居合切りの様な構えをとる。その際影の剣も刀のような形を取りそれを包む様に揺らめく影が現れる。


 〈大丈夫、大丈夫。ラーニングの計算上出来るはず。多分〉


 空中で足下にのような物が現れ足をおく。そして、学の前にも魔法陣が3つ現れる。


 〈付加術展開式、加速陣三連。影刀一閃〉


 それは一瞬だった。学が魔法陣を蹴り目の前の魔法陣を通過した瞬間、黒い線がジョセフの横を貫く。


「?!!」


 流石のジョセフも目を見開き驚く。全く見えなかったのだ。気づいたら何かが目の前まで迫りギリギリで躱す。長年の経験による反射により躱したのだ。


 〈今のは危なかったですね。流石に冷や汗をかきました。私とは違うタイプの影使いになりそうです。ですが〉


本来なら何もさせずに終わらせるだけの力量の差があるのだ。それを興味本意で受けてみたら自分を殺せるかもしれない技だったのだ。冷や汗をかくのも無理もない。


 躱した先を見ると学はジョセフが作り出した影のプールに沈んでいた。失神して。

それを見たジョセフは今はまだ自分が強いがいずれは自分を超えるだろうと思うのだった。



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