訓練その2

 アリシアと1度別れ、ジョセフと2人で屋敷を歩く学。そのままジョセフに連れられて屋敷の地下にある訓練場に案内される学。そこは、テニスコート程の広さがある空間だった。耐久性、耐震性があるのかは不安な点だが、訓練するには丁度いい場所なのかもしれない。


 「床と壁に魔法でコーティングがかかっているので訓練する程度なら問題ないでしょう」


 どうやら、学の考えている事が筒抜けだったらしくジョセフは不安を取り除くように学の考えていた事を言い当てる。


 「そ、そうなんですか」


 頬を引きつらせ、苦笑する学。異世界に来て何度も見た光景である。

 そんな会話を行い、二人は訓練場の中心から左右に別れるように離れ、向かい合う。


 「では、始めましょうか」


 ジョセフがそう呟いたと同時に学の右腕に衝撃が走る。


 「うぐぅ、」


 声にならないような痛みが走り、まるで何かに切られたような感じがした。咄嗟に痛みがした場所に手を当てるが何もなっていない。


 「大丈夫です、死にはしません。スキルの組み合わせによっては痛みだけを与える事が可能なのです。ですがあまり受けすぎると精神が壊れる可能性がありますが」


 「いや、それって大丈夫じゃ」


 学が言い終わる前に今度は左肩に痛みが走る。先程と違い軽く出血している。


 「まやかしだけじゃ訓練にならないので、たまに実体のある攻撃をします。貴方はまず、全力で避けてください。避けるだけでいいです。分かりましたね?」


 ジョセフは淡々とする事を話す。そして、喋りながらも体から黒い何かを伸ばして学を突き刺す。死ぬほどの痛みがあるが傷がない。そして、理解する。この訓練場に入った時点で訓練が始まっているのだと。


 学は痛みに苦しみ額には痛みからの汗が出ている。そして、ジョセフを見ると体から黒い何かがユラユラとゆらめていている。それを何故か学はどんな物か理解出来てしまった。


 「影」


 その呟きに一瞬反応するジョセフだが、アリシアから伝えられている情報に『ラーニング』があったなと思い出す。きっとスキルの特性状、見たスキルを理解出来てしまうのだと。

 そしてその読みは正しかった。今学の脳内ではジョセフが使ったスキルがどういった物なのかの説明が流れ込んでいた。

さすがどのスキルの組み合わせで痛みだけを与えているのかは分からないが、影を操作するスキルだと分かった。それがユニークスキルだと言うことも。


 「ついで、一般常識も訓練の中で教えて行きます。避けながらもしっかりと聞くように」


「はい」


 そんなむちゃくちゃなと内心思う学だが、逆らってどうにかなる問題でも無いので頷く。


 「と言ってもまあ明日からにしておきましょうか。今日は君がどの程度動けるかの確認ということで」


 そう言うと体から影を帯のように伸ばし、学に向けて向かってくる。その数6本。学は避けるととは程遠い逃げる様に立ち回る。案の定6本の内2本、体に当たってしまい倒れる学。


 「っ?!」


 痛みを無理矢理堪え、歯を食いしばり立つ。立つと同時に再び向かってくる影。それに再び当たり倒れる。気絶しないように上手い具合に調整された攻撃に何度も刺さり何度も立ち上がる。まだ、初日と言うこともあり、何とか気力だけで立ち上がる。




 そして、繰り返す事1時間。既にふらふらになりながらも学は立っていた。

 1時間前に比べて傷が増え、疲労により立っていることもやっとの状態だが変わった事は他にもあった。

 避け方が違うのだ。まっすぐ、ジョセフを見て向かってくる影を1本1本確実に避ける。体の位置を少しずらす。はたまた、勢いよく後ろに下がる。転がる。まだ無駄がある避け方だが立った1時間でここまで成長していた。


 〈 これがお嬢様の言っていた『 ラーニング』の真価ですか〉


 自分の弟子でもあり主でもあるアリシアに言われていた『ラーニング』。

 それはスキルを覚える事に目が行きがちだが、それは真の価値からそらす為のトラップで、この学習能力こそ『ラーニング』の本質だろうと。

 もし、学がアリシアに出会う事がなければ無駄にスキルを増やし上手く扱えず直ぐに死んでいただろう。


 〈それにしてもなんだ? この以上な精神力は?〉


 普通なら心が折れていてもおかしくない程、刺したのだ。

 元々戦う事から離れている少年だった筈だ。これはありえないと学を見て少し悪寒が走った同時にこんな事を思ってしまった。これなら全てを叩き込んでも大丈夫なのではないかと。


〈これなら私のスキルをラーニングさせて弟子にするのも悪くありませんね〉


 ジョセフはまだ立ち上がる学を見てそんな事を思っていた。


 「学君、私のスキルをラーニングしなさい。出来るのでしょう?」


 「はあ、はあ、はあ、出来ますけど」


 学は既に『ラーニング』可能であった。ジョセフのスキルを見てから、感覚的に『ラーニング』出来るとは思っていたのだ。しかし、アリシアに言われた事もあり使わずにいた。と言うより、段々避けれる様になってきたのが楽しくなって来ていたのだ。

 完全にイッちゃっていたのである。


 まあ、意味があるのであろうと『ラーニング』をジョセフのスキルに使う。


 (『 ラーニング』発動によりユニークスキル『影使い 』を獲得しました)


 頭に響くアナウンスのような声を聞きスキルを覚えたと知る学。確認するかのように足下の影に意識を向けると影が揺らめきジョセフみたいに帯のようにする事が出来た。だが、


 〈ジョセフさんの使っているスキルと結構違うんだよな〉


 そう、『ラーニング』から得た情報ではジョセフのスキルはを操作するのに対して、学の『影使い』はのみなのだ。やはり、違いがある。自分が使えるランクまで落ちてしまうのだろう。


 それを見ていたジョセフは初めて学の前で微笑み、と言ってもいつもの顔と違いは分かりにくいが、今日はここまでだなと思い影を揺らめかせる。


 「今日はここまでにしましょう。明日から朝から晩までみっちり叩き込みますので覚悟するように」


 「えっ?」


 すると訓練場のあらゆる影が出来ている場所から影が伸びてくる。ジョセフはせっかくならと影使いの行き着く先の1つを見せようと思ったのだ。学からしたら迷惑な話である。


 「えっ? それをちょっと無理じゃ」


 「大丈夫です。痛みだけですから」


 喋っている途中に背中に痛みが走り後ろを見ると自分の影が刺さっていた。そんな馬鹿なと思った同時に訓練場の影に串刺しにされるのだった。

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