再びの目覚め


 柔らかい感触が背中に感じる。どうやら、ベットに横になっているようだ。学は目を開けると知らない天井、知らない室内にいるのが分かった。


「あら、今日は目が覚めたのかい?」


 声がする方を向くとすぐ側に水色の髪をした少女が座っていた......いやここは美少女と言っても良いだろう。肩まで伸ばした髪をしていてキリッとした顔をしている。

 クールな人ってこういう人を言うんだろうなと視線の方向の座る少女を見て、学は思った。


 「ここは、ボクの屋敷の空いてる部屋さ。普段使わないけど何かの時に使えるよう、掃除はしてあるからね」


 「なるほど」


 「以外と落ち着いているんだね」


 少女は、学が余りにも落ち着いているのに苦笑し脚を組む。すらっとした綺麗な足だと思い、そこから視線を胸に向け軽く溜め息を吐く学。初対面なのに失礼な奴である。


 「何かな、その溜め息は」


 「いや、でつに」


 それにしても屋敷を持っていて、部屋が沢山ある様な言い方をする少女。服装を見る限り身なりがいい格好から金持ちなのは間違いないだろう。

 そんな事を考えていると少女からとんでもない爆弾を落とされる。


 「君は、ここに運ばれてから1年も立っているのによく落ち着いていられるね」


 「1年!!? 嘘だろ!」


 学は余りにも衝撃の事実に驚き、ベットから転がるようにして落ちる。それを見た少女は、その光景がおかしくクスリと笑った。


 「ハハ、さっきまでの落ち着きはどこにいったのさ」


 「いや、驚くだろ。普通」


 学からしてみれば、スライムに襲われ瀕死状態になっていたのはついさっきなのである。それがここに運ばれて1年も経っていたら驚くのも無理はない。

 しかし、おかしな事に、自分の体を見ても痩せ細っていない。普通の体である。こんな事もあるのかと、「まあ、スキルかな」と勝手に納得する学だった。


 「さて、そろそろ簡単自己紹介といこうか。ボクの名前はアリシア・。気軽にアリシアと呼んでくれると嬉しいな」


 アリシアは名をあかし、に反応しなかった学に対して一瞬目を細める。だが、直ぐに何事も無かったように元の顔に戻った。因みに学は気づいていない。


 「分かった。アリシア・マリロンド」


 「アリシア」


 「マリロンドさん」


 「ア・リ・シ・ア」


 「はい、アリシア」


 「うん、よろしい」


 アリシアは満面の笑みでうんうんと頷いた。どうやら、マリロンドと呼ばれるのは好きじゃないらしい。

 現にマリロンドと呼ばれた時、右手を電気のような物がバチバチしていたのである。要は、脅迫である。


 「ごめんね。ボクは自分の家族の事が好きじゃなくてね、だからこの屋敷もボクと使用人しか住んでないんだ」


 「そ、そうっすか」


 学は、頬を引きつらせながら頷くしか無かった。恐怖からである。


 「えっとじゃあ、俺の名前は学です。記憶がなくて自分が何処から来たのかも分かりません」

 

 自分が瀕死に至り、道まで出てきたまでを身振り手振りでアリシアに説明する。もちろん、異世界からやって来たなんて確証も無いので無駄な混乱を産まない為、言ってない。

 それをアリシアは「そんな事が」なんて呟きながら聞いている。


 「うん、大体理解出来たよ。それで君は何処か行く宛てがあるのかい」


 「......」


 アリシアの問いに学は言葉を詰まらせるしか無かった。ここから出てももちろん行く宛てなんかあるわけない。かといって、いつまでもここでお世話になる訳には行かないだろう。


 「なら、ボクと旅をしないかい?」


 「えっ? 旅?」


 旅と言うワードに目が点になる学。何故俺を? と言う疑問を抱えアリシアの言葉を待つ。


 「そう、旅。今から一年後にボクは旅に出る予定なんだ。目的があってね。もちろん、君を誘ったのは打算があるからだ。さあ、どうする?」


 「連れて行ってくれ」


 「そうだよね、簡単にはって即決?!!」


 学の返事は早かった。それは、電光石火のように。特に理由がある訳ではないが、この世界で頼れる人は目の前のアリシアしかいない。これを逃したら自分はのたれ死んでしまうだろうと、直感的に判断したからだ。


 「でも、いいの? 結構危険かもしれないよ?」


 「それは、まあその時に」


 急に自信が無さそうにする学にアリシアは軽く吹き出し、少し安堵したような表情をする。


 「分かった。その辺の事は明日から考えるよ。だから今日はまだ体を休めなよ。後でご飯を持って来させるから」


 「分かった。ありがとう、アリシア」


 「ううん、気にしないで」


 アリシアは、軽く欠伸して「また、明日ね」と言い部屋を出ていき、それを見送った学は、これからの事を考えながら天井を眺めるのだった。






 「ジョセフ、居るのでしょう?」


 「はい、ここに」


 部屋から出たアリシアは廊下を少し進んでから何もない空間に向かって声をかける。すると執事服を着た額に短い角を生やした白髪の初老が音を立てずに急に現れる。まるで、最初からいたかのように。


 「明日から、学を鍛えなさい。一年後にボクと一緒に旅に出るから」


 「......そうですか」


 白髪の初老ジョセフは苦々しい顔をしながら頷く。自分の主であるアリシアが何を目的に旅をするのかを知っているからである。

 アリシアは、「頼むわね」と力強く言うと

再び歩き始めるのだった。

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