第二十四話 体育祭にこっそり忍び込みました

 緑の丘どどーんと祭りが終わった翌週の日曜日。今日は陸くんと幼馴染の陽菜の中学校で体育祭が行われる。

 

 陸くんの学校の体育祭では、クラス対抗、学年縦割りの色別対抗で優勝を競うらしい。要は校庭でみんなが走り回ったりする行事だ。これならあたいも得意だね!


 しかし体育祭では保護者の応援はもちろん可能なのだが、残念ながらペット同伴不可、つまりあたいは応援出来ないのだ。


 あたいは除け者にされるのが嫌なので、思案した結果、先週神様に頂いたを使ってこっそり忍び込むことにした。前日の夜に試しで使ってみたが、うん、おうちの鏡にも姿が映らなくなるね。


 そしていよいよ体育祭当日。陸くんは陽菜と一緒に朝早く学校へ出発した。お父さん・お母さん・結衣ちゃんの三人はお昼のお弁当を持って後から出かけるのだ。


「もも、ちゃんとお留守番よろしくね」

 お母さんになでなでされて頼まれたが、ごめんなさい……今日はあたいも一緒に付いていく予定なの。


 結衣ちゃんが最後にドアを閉めるタイミングで、姿を消したあたいはスルッと隙間から外に出る。よしっ、大成功!


「あれっ? 何か通った気がするんだけど……」

 結衣ちゃんがつぶやく。


 危ない、危ない……透明化で姿を消していても体は実体なので、当然空気の動きやあたいの足音やハァハァ言う声は聞こえてしまうのだ。うん、気を付けよう。


 みんなが車に乗り込む際にも細心の注意を払い、後部シートにこっそり乗り込む。あとは陸くんの中学校まで一直線だ。


◆◆◆


 陸くんの中学校は緑の丘から少し離れたところにある。陸くんと陽菜は通学用バスで毎日通っているそうだ。


 中学校の正門の前では不審者が入らないよう、来場者のチェックを行っていた。


 ここが陸くんたちの学校かぁ⋯⋯。見慣れない場所なので、キョロキョロしちゃう。

 

 あたいは姿が見えないので、お母さん・結衣ちゃん・お父さんにこっそり付いていく。応援席では陽菜ママが先にレジャーシートを敷いて待っていてくれた。


 あたいはみんなの邪魔にならない(透明なので踏まれない)よう、シートの隅でお座り。


 しばらく待つと、陸くんたちが入場してきた。クラス別に整列し、上級生が選手宣誓後、いよいよ体育祭が開始された。


 陽菜はリレー、陸くんは騎馬戦に参加。陽菜は足の速さで一着。陸くんも最後まで残っていたね。二人の活躍を見て、あたいもうずうずしてきたけど、ここは我慢我慢……。


 そんな熱戦の最中、あたいの危険察知スキルが発動。


 何だろうと思い、周囲を見渡したところ、物陰から陽菜の姿をカメラで撮っている不審者を発見。相手は帽子を被り、サングラスをかけたマスク姿の男でかなり怪しい。


 あたいはこの怪しい男の盗撮から陽菜を守るため、真っ先に駆けていき、男の足首をガブリ。悪い人には噛んでも大丈夫だよね。


「あいたたた……」

 突然あたいに噛みつかれた男が悲鳴を上げる。


 それに気づいた陽菜がこちらに駆け寄ってきた。陽菜、あたい頑張ったよ、褒めて褒めて! あっ、そういえば今はあたいの姿が見えないんだっけ。


「お、お父さん! 今日は風邪をひいたから休むって言ってたよね?」

 陽菜が驚きの声を上げた。


「あいたたた。風邪はひいているんだけど、やっぱり娘の晴れ姿をビデオに撮っておかないといけないかと思って……無理して来るとママに怒られるからこっそり……」


 うーん、不審な男は陽菜のパパだった。どうやらあたいの早とちりだったか。パパさん痛そうにしているね、ごめんなさい。


 あたいは肉球でぷにぷにして、先ほど噛んだ陽菜パパの足首を怪我治癒スキルで瞬時に治した。


「わわっ、何か触ったぞ。あれっ……もう痛くないな」

 陽菜パパは足首を触りながら不思議がる。

 

「変なパパ。ママに見つからないうちに早くおうちに帰って安静にしてね」

「お、おぉ。そうするわ……」


 陽菜パパは娘に叱られて、こそこそ撤収していった。


◆◆◆


 午前中の競技を終え、陸くんと陽菜は応援席でお昼休憩。お母さんたちが持ってきたお弁当をみんなで食べている。


 ちなみにお母さんはおむすび、陽菜ママはサンドイッチと和洋で得意料理が完全に分かれている。一口大のおむすびなので、あたいでも食べられるかな。誰か落とさないかなぁ……とあたいは虎視眈々と狙っている。

 

「あっ……いけない」

 その時、結衣ちゃんが食べていたおむすびがころりんとシートの上に落ちた。

 しめた! あたいはパクッとおむすびを口にくわえ、ゴックンと一飲み。


「あれれ? おむすびがどっかに転がっていっちゃった……」

 下に落ちたおむすびが見当たらないので、結衣ちゃんが不思議そうな顔をする。


 うん、あたいのお腹の中におむすびが転がっていったね。結衣ちゃん、ご馳走様。


 さすがにペットボトルのお水は飲めないので、学校の水道の蛇口からこぼれた水をゴクゴク。


◆◆◆


 夕方になり、体育祭は全ての競技が終了。結果、クラス対抗では陽菜と陸くんの活躍もあり、見事優勝したみたい。うん、こっそり忍び込んだ甲斐があったね。


 後片付けもあり、陸くんと陽菜は帰り道も別になるようだ。


 あたいは行きと同じく、結衣ちゃんが車に乗り込む際にこっそり同乗。そして自宅の鍵をお母さんが開ける際にするりと脇をくぐり、透明化を解除。


 素知らぬ顔で玄関にちょこんと座り、「ワォン(お帰りなさい!)」とみんなを出迎えたのだった。

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