第十九話 キャンプではお父さんと陸くんが大活躍でした

 季節は夏真っ盛り。せみの鳴き声がミンミンうるさいぐらい。


 ゴールデンウイークはお父さんの仕事の都合で出かけられなかったので、新田家は大和田家と一緒に山奥のオートキャンプ場へ遊びに来ている。


 木々の間を通る風は涼しいし、川のお水も冷たくて気持ちいい。空気が澄んでいるので、夜は星もたいそう綺麗きれいらしい。流れ星が見られるかな?


 あたいは前世から泳ぎ(犬かき)には自信があるので、結衣ちゃんと陽菜と一緒に川遊び中。お母さんたちはアウトドアチェアに座りながら談笑中だ。


 お父さんと大和田パパ、それに陸くんは夕食の川魚を釣るらしい。このキャンプ場は管理釣り場も併設しているので、”いわな”や”やまめ”が釣れる。


 初心者の陸くんはえさ釣り、大和田パパは得意のルアーフィッシング、そしてお父さんはなんとフライフィッシングだ。


 そう、お父さんの趣味はフライフィッシング。昔は高い山に登って秘境の渓流で”いわな”を釣ってたらしい。うん、今のお父さんからは全然想像できないね。


 お父さんは綺麗きれいなキャスティングでふわっとフライ(毛針)を川面に落とす。なんと、カゲロウを真似たドライフライ(毛針)はお父さんの自作らしい。誰にでも得意なことってあるんだね!


 何度か繰り返していると、突然川面かわもに落ちたフライに魚が食いついてきた。


 お父さんはうまくロッドを合わせて魚に毛針を引っ掛けると、あっと言う間に釣り上げてしまった。お父さん、すごい! さっそく夕食ゲットだね。


◆◆◆


 夕方になり、お父さんたちの釣りが終了。あたいも暇だから途中から見ていたけど、一番釣ったのはなんとお父さんだった。


 陸くんは小さめのお魚を三匹、大和田パパもそこそこの釣果だが、お父さんは十匹も釣り上げたのだ。それも結構大きめのお魚だ。今日はお父さんの株が上がりまくってますよ。


 夕食は炭火でバーベキュー。お父さんは持参した”だっちおーぶん”という重そうな鍋で、あたいの大好きな鶏を一羽まるまる調理中。


 陸くんはお肉を焼き、陽菜がみんなに配膳中。おいしそうな匂いがあたりに漂い、あたいのお腹もグーグー鳴っているよ。


 ちなみにお魚は内臓を取って竹串に通し、遠めの炭火で焼いている。人間用には塩を振ったが、あたいのは塩をかけずにそのまま炭火で焼いてくれた。


 陸くんが魚の骨を取ってあたいが食べやすいようにほぐしてくれる。うん、このお魚、とっても味わい深くておいしいね!


◆◆◆


 食後、あたりが闇に包まれると陸くんはあたいを連れて陽菜と満天の星を眺めに行くことになった。夜の森は獣が出るから危ないしね。でもあたいが吠えて追い払ってあげるんだ!


 少し開けた場所に着くと二人は空を眺め始めた。


「陽菜、見てごらん。星があんなに近くに見えるよ」

「ほんとだ! こんなに星がまたたいているなんて凄いね!」


 幼馴染としては多少ぎこちない気もするが、ヒメ神様の神通力の効果は出ているみたい。


「あっ、流れ星!」


 その時、きらっと輝く星が天頂から流れた。陽菜が流れ星にすばやく祈る。

「……」


「何を祈ったんだよ?」

「うふふ、ナイショ♪」

 陽菜はそう言ってまた夜空を眺め始めた。


「ちぇっ、なんだよ」

 陸くんも流れ星を見つけようと空を眺める。


 えーっと、あたい、もしかしてお邪魔虫かしら……? あたいは良い感じの二人を邪魔しないよう、おとなしく伏せするのだった。


◆◆◆


 翌日の朝、あたいは早起きした陸くんと陽菜と一緒に川沿いを散歩していた。


 朝もやは出ているが、迷子になるほどではない。あたいは朝の散歩も大好きなので、ルンルンだ。


「誰かぁ、助けて~~」


 突然川の上流から叫び声が聞こえた。あたいたちが何事かと思っていると、小さな男の子が流されてきた。足が川底につかないのか、男の子はおぼれてアップアップしている。


「陽菜、すぐに誰か呼んできて! 俺はあの子を助ける‼」

 陸くんが陽菜に指示し、すぐに川へ飛び込もうとするが、川の流れが速く、危険な状況だ。


 あたいにも何か出来ることはないかしら……。 


 その時、陸くんが何かをひらめいたみたい。背負っていたリュックサックの中からあるものを取り出す。そう、それは大きなペットボトル二本。


 中身は入っているが、陸くんはいきなり中身を捨て始めた。そしてそれにフタをして再度リュックサックにおさめる。


「もも、これを背負って」

 あたいの背中に背負わせると、留め具であたいのお腹とリュックサックを固定する。


「よしっ、もも、あの子のところへ急いで!」

「ワンッ(うんっ)」


 あたいは空のペットボトルが入ったリュックサックを背負い、川の中へ飛び込む。流れは急だが、いつもより体が浮く。うん、これならば男の子に近づけそう。


 あたいは得意な犬かきでバタバタ、バタバタと少しずつ接近。ようやく男の子はあたいが背負ったリュックサックを必死でつかむことが出来た。


 そしてあたいと一緒にどんぶらこどんぶらこと流れていく。そうそう、決してあたいを離さないでね。


 流れのゆるやかな場所に流れ着くと追いかけてきた陸くんが男の子を救助。あたいもプルプルと体を震わせる。


「もも、よくやった!」

 陸くんがあたいをなでなでしてくれた。


◆◆◆


 結局、陽菜が大人たちを呼んでくる前に溺れた男の子を救助することが出来た。陸くんは水を飲んだ男の子に念のため人工呼吸しようとしたが、どうやら大丈夫のようだ。

 

 男の子の両親が陸くんに「ありがとう、ありがとう」って何度もお礼を言ってる。少し上流でテントを張っていた家族のようだ。男の子は一人で川に入り、流されたらしい。


 陸くんは少し照れた表情だけど、陽菜の陸くんを見る目がいつもと違う気がする。何かこう、顔が赤っぽいというか⋯⋯。きっと陸くんの隠れた男らしさに惚れ直したね。

 

 そしてキャンプ旅行は終了。今回はカッコいいお父さんと陸くんが見られてあたいは嬉しかったよ!


 おうちへの帰りの車中、あたいがうとうとしてると、またまたピコーン音が。


「おめでとうございます! あなたの善行レベルが一つ上がりました。さらにスキルに怪我治癒けがちゆ(小)が追加されます」


 怪我の治癒とは使えそうなスキルだ。でも()?


 ⋯⋯あたいはいつも通り陸くんの膝の上で気持ちの良い眠りについた。

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