おまけ

01.誕生日

一郎との勝負と空へと告白から一夜明けて、今日は八月一日。


部屋のベッドで目を覚ますと、スマホが光っていることに気付く。


折角の夏休みの初日なのに普通に朝から起きてしまったことに若干の後悔を覚えつつ手を伸ばした。


本当は二度寝したかったけれど、おそらくこの後空が部屋まで来て起こされるので断念。


それでも多分以前の俺なら往生際悪く二度寝していただろうから、少しだけ自堕落な精神が抜けてきたのかもしれない。


まあそれが一ヶ月努力した成果なのか、恋人ができて浮かれているからなのかはわからないけれど。


しかし恋人かぁ。


あれから一日経って未だに微妙に実感がない。


一郎との勝負の一番の目標は前に進むことであって、その結果の恋人という関係の先を考える余裕がなかったというのが本当のところで。


昨日はシャツを汚して帰ったのを怒られてから風呂に入り、そのあと部屋に来た空と夜中まで一緒にいたけれど恋人らしいことはちょっとしかしなかったし。


もちろん恋人になれたことは嬉しいんだけど。


まあでもこれからのことはゆっくり考えていけばいいか。


空を好きな気持ちは本物だから今はそれでいいと思う。


なんてことを考えながらスマホを手に取ると通知の相手は空、ではなく一郎だった。


あいつが朝からLINEを送ってくるなんて珍しい、と思いつつ読まずにスマホをベッドに放って体を起こす。


夏休みの予定は完全に未定で、とりあえず思い付くのは宿題の消化だけれど、空と一緒ならそれも悪くないかな。


そういえば、また部活やるのもいいかもな、なんて一郎に言ったのもどうするか考えないと。


ベッドから降りて、最近のオーバーワークに軋む体を少しだけ快く思いながら体をほぐすと、スマホが着信音を響かせる。


空か一朗かの二択かなと思いつつ通知を確認して耳に当てると、スピーカーから一郎の声が聞こえた。


「よう翔、起きてたか?」


「まだ寝てる」


「起きてるじゃねえか」


「これは寝言だぞ」


もちろん嘘だけど。


「それで、どうした?」


「今家の前にいるからちょっと出てきてくんね?」


「俺の?」


「お前の」


一郎がうちに来るなんて珍しい。


恋人ができた記念にプレゼントでもくれるんだろうか。


……、いやないかな。


まあ、それはともかく。


「今隣に空が寝てるから無理」


「マジかよ、それは邪魔したな」


体を起こしたベッドの隣に全裸の空の姿が、あったらいいのになぁ。


「まあ嘘だが」


「てめえ!」


と軽口を一通り済ませて満足したので、言われた通りに部屋を出て、階段を降りて玄関のサンダルを引っかける。


家の前で待っていた一郎は大きいバッグを肩にかけていて、一目でこれから部活に向かうのがわかる格好をしていた。


「それでほんとにどうした?」


「翔、今日誕生日だろ?」


「あー、そういえばそうだったかも」


というか完全に忘れてた。


あとで空にプレゼントでもねだろうかな。


「という訳でこれプレゼント」


差し出された箱は赤いパッケージに白色で0.01の文字。


「さんきゅー、ってこれゴムじゃねえか!」


ゴム。


正式名称はコンドーム。


言わずと知れたセックスの時に使う避妊具である。


オナニーに使う人間もいるらしいけど。


つーかわざわざ朝から会いに来るなんておかしいと思ったらそういうことかよ!


「いやー、スマホの通知で翔の誕生日って言われたからこれしかないと思ってな」


普段誕生日プレゼントなんて渡しもしないのにこういう時だけフットワーク軽いやつだな。


せめて袋かなにかに入れて渡してほしかったけど、俺のリアクションを見たくてわざわざ裸で持って来たんだろう。


「それに昨日のアレもあったしな」


「…………」


実際一郎の協力で空と恋人同士になれたわけだし、恋人同士ならそういうこともあるだろうから昨日のことを持ち出されると否定しづらい。


まあ一郎的には十割からかい目的で買ってきたんだろうけど。


「じゃあそういうことで、部活があるからそろそろ行くわ」


「おう、物はともかくありがとな」


結局その誕生日プレゼントは貰っておく。


今度あいつの誕生日にはオナホでもプレゼントしてやろう。


「あとサイズはちゃんと合うか本番の前に確かめとけよー」


なんて言いながら去っていく一郎を見送ってから箱を見ると、小さくLサイズと書いてある。


まあ使ったこと無いからLサイズがどんなもんかはわからないんだけど、とりあえずあとで使ってみようかな。


一応ね。


あと空には見つからないように隠しとかないと。


「今のって鈴木?」


「うわっ!?」


一郎を見送る背後から声をかけられて思わず飛び退く。


「うわってなによ、失礼ね」


ちょうど思い浮かべていた人物の登場に、そのまま振り向きつつ一郎から受け取ったブツを後ろ手に隠す。


流石に恋人になって初日の朝っぱらからこんなものを握っている姿を見られたくない。


「こんなところで何してたの?」


「ちょっと一郎が用事で会いに来たんだよ。空こそどうしたんだ?」


誕生日だと言わずに詳細をぼかしたのは、プレゼントを貰ったと言えばどんなものかという話題になるのは避けられないだろうから。


「あたしは翔と一緒に勉強しようと思って、ほら」


勉強道具を掲げる空はなぜか嬉しそうで、その仕草がとても魅力的に見える。


ああ、空と恋人同士になったんだなぁ、とこんな状況でなければ素直に喜べたんだけど。


「それで、後ろになに隠してるのかしら?」


「なにも隠してないぞ……?」


もちろん嘘だけど。


「ふーん、まあいいけど」


いいんだ。


「と見せかけて隙ありっ」


「げっ」


油断した俺へと距離を詰めて、空が一瞬で隠していたものを奪う。


「翔ー? これはなにかしら?」


「いや、それはだな……」


俺と奪った赤い箱をジト目で見つめる空。


その状況に上手い言い訳ができずに言葉につまると、空がはぁ、とため息を漏らす。


「そんなに焦らなくてもいいわよ。どうせ鈴木が持ってきたんでしょ」


「よくわかったな」


「それくらいわかるわよ」


流石空。


持つべきものは付き合いの長い彼女か。


「でもこれは没収ね」


「なぜ!?」


「なんでもよ。なに、文句あるの?」


と言われれば抗議できるわけもなく、あえなく没収となってしまった。


まあわざわざ所有権を主張するほど欲しいものでもなかったし、一郎だって渡した時点で満足してそのあとのことはどうなっても気にしないだろうけど。


「それじゃ、勉強しましょ」


言いながら、没収されたコンドームを持つ空の姿はそれはそれでエロくてちょっと素直に反応できない。


アレが使われることは、近い将来にあるんだろうか。





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というわけでおまけに関するアンケートやってます

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