12.七月三十日

明かりを落とした部屋の中。


ベッドに仰向けに横になる。


運動で疲労した体は倦怠感があり、目を閉じるとすぐに眠気に誘われる。


微睡む意識の中でやっぱり思い出すのは空のこと。


今頃勉強でもしているだろうか。


もしかしたら俺のことを思い出していたり、なんてことは流石にないか。


ふぅ、と息を吐き、体の力を抜く。


空に告白されてから、それ以前よりも一緒にいて痛みを感じることが少なくなった。


それはお互いの関係の変化でもあるし、俺の気持ちの変化が理由でもある。


だけどまだ、俺は空に正面から向き合うことができない。


関係を壊してしまった俺の後悔と、あの大会での空の後悔を、清算するには俺が本気になれることを見せないといけない。


どういう結果になるにしろ、空の気持ちに答えるには、俺はもう大丈夫だと示さないといけないから。


机の上には、野球のグローブが載っている。


俺の中学時代の後悔と、根拠の無い万能感を持っていた思春期を終わらせた、失敗の象徴のようなそれをじっと見つめる。


それでも、あのグローブと、白球にかけた青春は本物だったと思う。


二年の月日は長すぎて、もうあの頃の気持は思い出せないけれど。


カーテンを開けたままの窓の外には、まだ明かりの点いている空の部屋が見えた。


スマホを手に取り、一郎へLINEを送る。


明日は七月三十一日。


終業式の日。




次回、最終話。

『13.本気の勝負』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る