第2話 毒と魔力

 ギャンギャンと吠えるけたたましい鳴き声ですぐ目を開ける。自分は座ってどこかにもたれかかっている。薄暗い闇の中、獰猛な動物が近くで暴れている。硬くしなやかな毛が体に当たる。うるさくて耳が痛い。


 さっき、ステータスを割り振り、魔物を選択した。

 

 不思議とすぐに闇に目が慣れると、自分の腹の下から犬が生えていた。牙の生えた獰猛な頭、前肢から胴があり自分の腹につながっており、引っ張られる。ひどく不安定で長さもまちまち。いくつもある。ショックだ。


 やっぱ魔物は間違いだった。そんな気にもなる。あれってどうなんだ。今の状況がなんか非常に不安定なのだ。あれの形状って、タコみたいだったり。そう言えば尻から触手が生えている。だけど、ヒトの足もちゃんとあるぞ。

 確か犬の首が6本に、前肢が12本、下半身が魚の尾とかいうのがギリシア神話だかなんだけど、タコ足とか蛇足とかの創作も多いやつだ。熊とか蛇とか蜂とかのキメラだとか、何だか形状が安定しないやつなんだよな。


 そのせいなのかは分からない。ギリシア神話を正とするなら、魔女キルケーの毒の影響で姿が変わっていったということらしいが、今、まさに、犬の吠えまくる喧騒のなか、俺の下半身の形状がぐにゃぐにゃ変化しようとしている。

 

 何となく、ただいい加減な考えに過ぎないのだけれど、俺は実に思った。魔女の毒で変化させられたというのは、毒で魔力を乱されてのことじゃないかと。ならば魔力を操作できれば何とかなるんじゃないかと。まぁ知らんけど。


 手元にあったハープを奏で始めた。

「弦楽器の天稟」のせいなのか指が巧みに躍る。

 魔力のことはよくはわからない。ただひたすらにどうにかならないかと想いながら、目を閉じ、できるだけ心を落ち着かせて、奏で静かに唄い、時にかき鳴らす。美しい女の歌声だ。あぁ、スキュラは女性だったか。そういやおっぱいあるわ。そんなこと考えつつ、何かをイメージする。頭が6つで前肢が12本。犬なら4本足だろう。

 魔力かはわからないけど、気を腹から外に押しやるようにする。あるイメージを思いつく。繰り返し唄い奏で続ける。


 やがて一つ、そして二つ、さらには三つ。体から自由に解き放たれた。

 犬狼の双頭、前肢も後肢も前肢がついた、尾が蛸手の魔獣。オルキュロス。


 俺のほうは疲れ果て、尻尾の触手はいまはもうどうしようもない。まぁ、そもそも自分で魔物を選んでおいて、腹から犬が生えるのが嫌だとかひどく勝手を言ったわけだしと、そのまま眠りに落ちたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る