魔法兎少女

天石蓮

第1話 兎未、遭遇する

小学生六年生の羽砂木 兎未は、毎週の楽しみである魔法少女アニメをリアルタイムで見るため、走って自宅に向かっていた。


まるで、兎の耳の様にツインテールにされた髪をぴょこぴょこと揺らし、ランドセルに付いている兎のマスコットも同じように揺れる。

名字の読み方は『うさぎ』だし、干支も卯年、名前にも『兎』の漢字。

そのせいか、あだ名はうさぎちゃん。そのうち、兎グッズがあると買ってしまい、いつの間にか持ち物は兎グッズだらけになっていた。最近では、動きも兎っぽいと言われていたりする。


ついには、去年のクリスマス。ウサギをお家にお迎えした。

名前はもちろん、兎未が考えた。

名前は、『しゅとーれん』

シュトーレンとは、海外では有名なクリスマスのお菓子を名前だ。

ちなみに、兎未の大好きなお菓子の1つ。

何故、名前がカタカナでは無く、ひらがなかと言うと、ひらがなの方が可愛いからだ。

ちなみに性別は女の子。

学校では飼育委員をやっている兎未は、それはそれは毎日の様にしゅとーれんを可愛がっているし、お世話も欠かさずやっている。兎未の代わりにお母さんがやるとダメ出しをするほどに。

実は、兎未が毎週楽しみにしている魔法少女アニメも、しゅとーれんと一緒に見てたりする。

だから、今日もいつもの様にテレビの前ではしゅとーれんを抱っこして一緒に見るのだ。



「ふふ~ふふ~ん♪今日のアニメも楽しみだなぁ~」

兎未は軽やかに住宅街を走り抜ける。


(後は、ここの曲がり角を曲がって、駆け抜けたらお家!)

曲がり角を曲がれば、公園が見える。そして、その公園の先に兎未の自宅だ。


そうして、兎未が曲がり角を曲がったその時だ。


「きゃあああ!!」

「こっちに来ないでーー!!」

突然、公園内から叫び声が聞こえ、小さい子達が走って『何か』から逃げる。


「な、何?何なの?」

兎未はそっと近くにあった木の陰に隠れ、公園の様子をチラリと見る。


そこにいたのは・・・

小学生の兎未なんかより遥かに大きい、犬・・・いや、狼らしき化け物がいた。

黒い霧を纏い、赤い瞳がギラギラと光る。

灰色の涎を口から垂らして、逃げ惑う小さい子達を睨む。


すっかり足のすくんだ1人の女の子が、ガタガタと震えながら、地面に座り込んでいた。


「っ!」

兎未は立ち上がろうとしたが、立ち上がれなかった。

兎未より遥かに大きい化け物。

口から覗く鋭い牙。


兎未はぐっと歯を食い縛る。

(怖い。恐い・・・でも、でもっ・・・!何とかしなきゃっ!!)

兎未は近くに落ちていた小石を手に取り、握る。

兎未は、震える足を何とか立たせる。

(一瞬だけでいいから、アイツの気を引けば・・・!!)


手中に握りしめていた小石を投げようとしたその時だった。

ひゅんっと、兎未の横を何かが横切る。


「え?」


公園内を駆けて行き、あの化け物に向かって走る『何か』がいた。


それは、真っ白な雪を全身に纏った様なもふもふの塊。

くるっと艶々な黒い瞳。

ぴょこんと立った耳。


兎未が飼っているウサギ、しゅとーれんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る