第8話 的中
街中にら、3日前の事件など忘れたかの様に、いつも通りの明るい世界が広がっている。
事件現場近くの公園も賑わいを取り戻しており、悲鳴は綺麗に消え去り、子供達の明るい声が充満している。
ついつい、甘木はその光景に口元を緩めてしまうが、いつもに増して、真剣な表情の武藤を見てすぐに引き締める。
「武藤さん。ずばり、聞きますけど僕の言ってた彼女も被害者って意味分かりましたか?」
「まぁな。おそらく、彼女はあの時、NEGAに感染していたって事だろ」
武藤は甘木にバレない様に拳を握る。
「さすが武藤さん。では、山下さんの略歴をおさらいしますね」
「あぁ」
「山下つぐみ。23歳独身。仕事は勤め先の経理を担当をしており、勤務態度は至って真面目。周囲とのトラブルもなく、誰からも好かれるタイプです。趣味はパーリーエンジェルズのおっかけ。僕と趣味が合いそうですね」
「無駄話は良いから、続けろ」
「あとは特別にこれといった事はなく、被害男性との面識が無いと言っていた事は事実みたいです」
「そうか…」
「それで、武藤さんは彼女の事をどう見てるんですか?」
「あの子は確実に白だ」
「そう言いきれる根拠は?」
「一つ目に、あの子は右利きだ。さっき、電話番号を書いてもらった時に確認した。二つ目に彼女の出身は、おそらく福岡だ。俺達の前では標準語で話をしていたが、パーリー何とかの話になると興奮してか知らんが、博多弁が出ていた」
「さすがですね。だけど、それらの情報だけで彼女=白にどうして繋がるんですか?」
「まず、俺達を襲ってきた時、あの子は左手に包丁を持っていた。あれだけ、男に殺意を抱きながら、利き手じゃない方で包丁を持つのは不自然だ。それに血塗れの時、彼女は博多弁じゃなかった」
「じゃあ、どこの言葉を話してたんですか?」
「秋田弁だ。間違いない」
「武藤さんって方言に詳しいんですね」
「顔が広いからな。ってそんな事はどうでも良いんだよ。おい、あの日のNEGA収集記録あるか?」
甘木は複数枚の資料を手渡した。
「言われた通り、コピー取って来ましたよ。僕も目を通しましたが、驚きましたよ」
受け取った武藤は、食い入る様に資料に目を通し、頷いた。
「やはりな」
「あの日、彼女のNEGAを回収する前に行ったのは6人暮らしのアパートのみ。そして、その6部屋から回収したNEGA量は660NA。NEGAの回収は週一のペースの為、1人あたりの1日の排泄量を計算すると15.7NA。しかし、収集車内のNEGA量を確認すると、800NAでした。つまり、あの時彼女からは140NA量ものNEGAが回収された事になります。とても、1人の人間が1日で溜め込む量のNEGA量じゃないですよ」
「あの子が普段からNEGA排泄をしてなかった可能性は?」
「それは無いです。きちんと彼女が住んでるエリアを担当してるスタッフに確認しました。彼女は毎日、排泄しています」
「なるほどな」
「それに、決定的だったのは、NEGAが口からではなく、身体全体から回収が出来た事です。普段、僕達は家庭用NEGA収集機「スマイリー」のマスクを口に当て、体内からNEGAを吐き出して排泄してるのに、あの日、回収ホースを向けたら、口からでなく、身体全体からNEGAを回収出来た。と言う事は彼女は…」
「あの子は、誰かが排泄したNEGAを身に纏っていた。つまり、感染していた。確かにあの男を襲ったのはあの子だが、憎悪を抱いていたのは別の奴って事になるな」
収集車は、株式会社モーラルの駐車場で停車する。
「そうですね。では、次はそんな怨まれまくってる酒井さんについて聞き込みですね」
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